コガネシティのゲームセンターは、カントーのタマムシのゲームセンターよりも、広く、賑わっていた。 その賑わいの中に、リナはいた。 否、賑わいの中ではない。賑わいの「中心」となっていた。 「お、おおおおおおおお!! ローヤルストレートフラッシュだ!!」 リナはトランプでのゲームが一番得意であった。 特に、トランプ遊びの一種であるポーカーというゲームが得意だった。 ポーカーというのは52枚、または53枚のカードを使用し、人数はフリー。 5枚のカードを配り、手を見て賭け、途中で降りたり、競りあげたりの駆け引きに妙味がある。 5枚の組み合わせでワンペアからローヤル・ストレート・フラッシュまで役の強弱が定めてあり、最強者が賭金を一人占めする。 1枚ずつ配って賭けるオープンポーカーと、5枚配って任意の枚数だけ山札から取り替えるクローズドポーカーが代表的なのだが、リナが今やったのは後者だった。 先程からずっと負け無しだった。 負け無しなら誰も挑戦しないのでは、と思うが、逆に負け無しという事は、勝てば盛り上がる上に賭け金もそれ相応だ。 そう考えて、次々と挑戦者が後を断たないのだが、やはり負け無しだった。 ポーカーフェイスの女王≠セなんて大層な名前を付けられたりするのだが、リナとしては嫌でしょうがなかった。 そんなに負け無しなのに、どうしてリナは止めないのかと言うと、探し物があるからだ。 「次はアンタね。雷の石は持ってるかしら」 「いや。持ってない」 「そう。残念ね」 雷の石を持ってる者は、お金の代わりに賭けられるというルールを設けたのだ。 しかし、なかなか持ってる者はいなかった。 まぁ、だからこそ進化の石で進化したポケモンは珍しいのだが。 (困ったわね……。他に当ても無いし……。次に無かったら終わりにするか) 「おお! また勝ったぞ!」 ふぅ、と溜め息を吐いた。 石が無い事もそうだが、中々骨のある奴がいない。 ちょっとでも感情が顔に出る者しかいないのだ。 だから、何が出たか優に想像出来、時には心を揺さぶるような事を言える。 少し位緊張感のある勝負がしたい物だ。 「では次は俺と勝負して貰おうか」 「(右目に傷? ゴツい奴ね)良いわよ。石はあるの?」 「嗚呼、お望みの物はあるぜ」 「!」 コツン、と卓上に黄色の石を置く。 「アンタ、これが目的で賭けをやってたんだろ」 「まぁね」 「なら、アンタが負けてもコイツァやるよ。その代わり金は頂くがな」 「アラ、嬉しいわね」 ニッコリとわざとらしい位に笑ってみせると、相手はクックックッと笑い始めた。 「面白い嬢ちゃんだ。あくまでも勝てる気でいるんだな」 「当たり前よ。わたし、天才だから」 「そいつァ、面白い。だが納得出来る」 確かにこのゲームは頭の回転が良くなくてはここまで勝ち上がれない。 男はクックックッと笑いながら腰を下ろした。 リナはその男が『その手の』輩だという事を見た目とオーラで感じ取っていた。 『その手の』というのは、賭け事でイカサマをする奴だ。 「……アンタがもしイカサマしたら、わたしもイカサマをせざるを得ないわよ」 「おっと。これはこれは。勘が鋭いねェ。こりゃァ、イカサマしてもすぐにバレて倍払う事になるなァ」 「そうね。やる勇気があるなら精々頑張りなさいな」 クックックッと笑う男に対して、フフフと笑ってみせる。 そんな二人のやり取りに、周りは息を飲んで見守るしか無かった。 「さ、始めましょうか」 「嗚呼」 二人にカードが配られる。 計5枚。取り替える枚数はフリー。 (やれやれ。最初からワンペアか。さて、取り替える枚数は 「ポーカーフェイスの女王≠ェ5枚全部取り替えたぞ!」 「リスクは高いぞ!」 「て事は出が悪かったのか!?」 ギャラリーというのは時に、喧しく、時に、場を紛らわせ、時に、やり易くする。 「さぁ、次はアンタよ。それともチェンジは無しかしら」 「アンタ、最初ワンペアだったな」 「さてね。どうだったかしら。いちいち昔の事は忘れたわ」 相手のやり方は分かりきってはいたが、心理戦のようだ。 相手の手持ちを知り、そしてそれを上回るように計算して交換をする。 しかしリナはポーカーフェイスの女王≠ニいう名の通り、全く表情を変えない。 「なるほど」 「逆にアンタの手持ちを当ててあげるわ。 勿論そんなのはただの勘だ。 「お嬢ちゃんがそう言うならツーペアなんだろうねェ」 男は表情を変えない。当たってるようには見えないし、だからといって外れているようにも見えない。 「ねぇ、早くしなさいよ」 「まァ、そう急かすなって」 じっくりとリナの様子を窺うように一瞥してくる。 こちらとしては気持ち悪い事この上無い。 しかし、それを表に出せば、相手の思う壺だ。 結局相手は一枚変えただけであった。 「どっちから手を証そうか」 「アンタで良いわよ」 「はいはい」 意味深な笑みを浮かべ、トランプに手をかける。 いらぬ前振りは鬱陶しいだけなのだが。 そのリナの気持ちが伝わったのか、男はパタパタとトランプを表にした。 周りは息を飲んだ。 これでリナがワンペアかツーペアなら負け。ペア無しは論外。 リナに一斉に視線が集まりながら、リナは飄々としていた。 これもポーカーフェイスなのか。 リナがトランプを表に裏返した。 「残念」 リナの勝ちだ。 ギャラリーはわっと沸き立った。 「すげー! あのポーカーフェイスの帝王≠ノ勝った!」 渾名を付けるのが好きなのか、ここの奴等は。 「クックックッ。久々に中々楽しかったよ」 「まぁ、アンタも他の奴等よりは楽しかったわ」 余裕の笑みでそう言うと、また男はクックックッと笑った。 「やっと雷の石が手に入ったわ」 「アンタ、天才ならバトルも大層強いだろうなァ」 「勿論」 「是非一度お手合わせ願いたいものだ」 「今度ね」 ジャラジャラとお金を回収し、雷の石を鞄に入れ、腰を上げてポーカーフェイスの卓から背を向けた。 自分の事をわいわい言われながら、出口に向かうと見知った顔が凄く妬ましそうにこっちを見ていた。 「アンタ……何よ」 「クッソー! 見てろ! オレも負けない位スゲー格好いい事してやるぜ!」 「……」 ゴールドだった。 それはつまり、先刻のリナのポーカーが格好良かったと言いたいのだろうか。 「オイ! そこで見てな!」 「ええ……」 嫌そうな顔をして、渋々ゴールド御得意のビリヤード台の近くで腰を下ろす。 その際に、自分の腰からサッとボールを取り出した所が見えたが、敢えて何も言うまい。 どうせいつかバレるのだから。 ゴールドはそのボールにキューをあてがい、いつものキューさばきでボールを弾いた。 すると、真ん中のボールが弾けて、四隅の穴へと入っていく。 「すごい腕前の少年だ!!」 「いやあ、なんの! なんの!!」 ゴールドが望んだ反応が貰え、天狗になったように鼻を伸ばした、気がする。 「今度は…! またすごい!! ボールがあんなふうに曲がるなんて! 超高等テクニックだ」 (馬鹿か……) 騙すゴールドもゴールドなのだが、それを馬鹿正直に真に受けるここの奴等もどうかと思う。 先程リナが思った通り、流石に種に気付いた人が疑問の声をあげる。 「!? でも…さすがになんか少し変じゃないか!?」 すると、その言葉に反応したように、ボールの表面がペリペリと剥がれ始めた。 「あ…マズい!!」 表面が完全に剥がれると、ビリヤード台の卓上でモンスターボールに入っていたエイパムがえっちらほっちら走って転がしていた。 それを見たギャラリーが、綺麗に倒れ込んだ。 「モンスターボールをビリヤードの玉に見せかけて、中のポケモンに走らせたのか よくそんな芸当を思い付いた物だと逆に関心してしまう。 当のゴールドは「へっへっへっ、びっくりしたろ!?」とか言っている。 「出てけ、イタズラ小僧 当然、ゴールドは外へと放り出されてしまった。 やれやれ、と肩をすくめると、リナも外へと出ていく。 「ウーム。ユーモアの通じない連中だ」 「馬鹿。アンタのユーモアなんてどこ行っても通じないわよ」 「そりゃどういう意味だ」 「自業自得」 ピシャリと言うが、ゴールドには全く通用せずに不満たらたらなようだ。 「……アンタ、イカサマしなくたって十分上手いのに」 「お? お? それはもしかしなくとも誉めてんの?」 「……煩いわね」 照れたように顔を真っ赤にして目を逸らすリナ。 やはり誉めてくれたようだ。 あのリナが誉めてくれたと思うと、ゴールドのにやにやは止まらなかった。 「なぁ、もう一回言ってくれよ!」 「あー、もー、煩い煩ーい!」 懐かしさが胸を包んだ (その後、空気の読めない) (電話が来てしまいました) 131201 ←|→ [ back ] |