「取り敢えず、あの仮面の男を倒すには『雷の石』が必要ね……」

ゲームをしている訳でもなく、ただ歩いているだけで独り言を溢してしまう位に、リナは今真剣に物事を考えていた。

いつもは「面倒臭い」という理由でそんな事はしないのだが、それほどに仮面の男に執念を燃やしていた。

ふと踏む地が、土では無くコンクリートになった。

「ん?」

顔をあげれば、そこにはギラギラビガビガした照明。

「嗚呼、コガネシティか……」

ジョウト一の最大都市  コガネシティ。

コガネ百貨店、コガネゲームコーナー、コガネステーション、フラワーショップこがね、とまぁ色々揃っていた。

確かにリナとしても凄く心が浮き立つ街だった。

今は夜なのだが、普通の町はほんのり家からの明かりが見えるだけだが、この街は先程言った通りギラギラビガビガと、街中の明かりが輝いている。

「でもこういう所ってお金使うから嫌なのよね……」

今持っているお金はほとんど姉が旅立つ時に用意してくれた資金である。

だから易々と使いたくは無かった。

きっと姉は「リナの為のお金だから、好きな事に使って良いんだよ!」とか言うだろうが。

いやまぁ、ちゃんとトレーナーからバトルに勝った際にぼったく  頂戴したお金があるが。

「でも、ゲーセンでなら、わたしの腕の見せ所よね」

フフフフフフ、と思わず笑い声をあげてしまう不審者リナ。

「まぁ、とにかく今はホテルを探すか」

急にいつもの真顔に変わる。この切り替えはなんなんだろうか。

しかし、ふと気付く。

「マリル……?」

肩が軽いのだ。見ると、肩の上にいたはずのマリルがいない。

嫌な予感が駆け巡る。

「まさか……」

チラリ、とデパートの方向を見ると、予想通りマリルがピョンピョン跳ねていた。

「やっぱりか  !」

この野郎、とか心の中で思いながらマリルを回収する為に駆け出した。

いつもいつも。じっとしていられないのか!

イーブイを出し、マリルを捕獲するように言う。

その時、目の前のマリルが誰かにぶつかりそうになり  

「! surprise! 驚いた! 誰かのポケモンかい? 君、随分level高いんだね!」

妙に横文字ばかり使う奴だ。

そう思い、声の主を見ると驚く事に女の子だった。

声だけだと中性的で、口調がなんとなく男っぽかったからだ。

後ろから前へ生えている特徴的なアホ毛に、二つに結った髪、紅い吊り目、まな板を彷彿させる胸、運動をろくにしていなさそうな細い足、小さな背丈。

なんというか、ちんちくりんだった。

「あ、貴女がこの子のpartnerですか?」
「ええ、まぁね」
「nice! 良かった! それにしても、凄いなついてますね、貴女に!」
「……わかるの?」

先程から、随分レベルが高いとか、なついているとか、普通じゃ分からない事を見抜いてみせる。

特にレベルが高い、なんて。

普通じゃ本当に分からない。マリルは子供っぽく、そしてまだ「マリル」なのだから。

「はい。ミ≠黷ホ、なんとなく!」
「へえ。凄いわね」
「それほどでも……」

少し嬉しそうにはにかんでみせる。

こうして見ると、随分と整った顔をしている。

「でも、もう少しこの子を可愛がってあげてください」
「は?」
「なんだか少し、そこのイーブイに劣等感を抱いてるみたいです」
「……、そんなのアンタに関係無いでしょ」

なんだか言い知れぬ怒りを感じ、冷たく言い放つと、少女も少しカチンと来たようだ。

「まぁ、そうですけど……」
「だったら早くマリル寄越しなさいよ」
「……さっきからなんなんですか。偉そーに」
「アンタよりは年上なんだから当たり前でしょ」
「いくつですか」
「11よ」
「なんだ。あんまり変わらないじゃないですか」
「は? アンタいくつよ」
「9ですよ」
「2歳下!? 嘘でしょ!?」
「何歳だと思ったんですか!」
「5」
「ちょ、それは嘗めすぎでしょ!」
「だってアンタの体型がちんちくりん過ぎて」
「ち、ちんちくりん!?」

二人は弾丸のように言葉のキャッチボール  もとい、ドッジボールをしていく。

しかしそれは、リナの一言でピークに達する事になる。

「そ、そそそそれは貴女が発育良すぎるだけで……! 私、成長期ですから!」
「そうね、せいぜい頑張ってね。でも運動しなきゃ多分伸びないと思うわよ」
「運動なんてしなくて良いんです! 汗なんて美しく無い  いや、なんでもないです」
「大丈夫よ。元から美しく無いでしょ、体型的に」
「!? ……貴女だけに言われたくないです」
「なんですって!?」
「髪はボサボサ、服は薄汚れてる、ポケモンも毛並みが台無しだ」
「こんの……ツルペタ!!」
「ッ……dirty!!」

dirty  汚いと言われ、リナは口元を引くつかせる。

だが、一番気にしてる事を言われた少女も黙ってはいられない。

ゴールドの時以上に、バチバチと火花を散らせる。

最初の良い感じはどこへやら。

デパートの前で、いつの間にかギャラリーが出来つつ、言い合いをする二人。

そして、デパートから出てきた少年は、二人を見れば、慌てて少女の元に駆け寄った。

「何をしているんだい、一体……」
「だってこいつが!」
「アンタから言ってきたんでしょ!」
「はぁ……。すみません、ボクの妹が粗相を」

譲らない二人に溜め息を吐き、訳が分からないが、リナに謝る少女の兄。

少女は自分は粗相などしていないと怒りに満ちた目で見るが、それじゃこの場は収まらない。

「……まぁ、いいわ。わたしはコイツと違って身も心も大人だから」
「shout up(シャラップ)!」
「コラコラ……。行くよ」

兄に手を引かれ、仕方なく黙って手を引かれる少女。

その顔は不満たらたらだった。

(それにしても……見た目から口調まで似てる兄弟ね)

それでも妹の方が生意気には違いないが。

リナは熱くなった心を冷ましながらホテル探しを再開した。

少女との再会は勘弁したいが。


# # #


「珍しいね、君が誰かと口喧嘩なんて」
「まぁね……多分相性最悪なんじゃないかな」
「でも公然の前で喧嘩は止めてくれよ。恥ずかしいじゃないか」
「はいはい。……犬猿の仲、か。絶対あっちが猿だな」
(かなり仲悪いんだな……)

妹が溢した言葉に、兄が苦笑した。

なるべく再会は避けたいと思う今日この頃。



(まさか何年後かに)
(再会するとは……)


131130

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