嗚呼、やっぱり。そう思った。

今まで仮面の男に関する事を記憶に追いやっていた。

それは『お姉ちゃん』と会ってしばらくしてからだ。

なぜなら、『お姉ちゃん』と純粋に過ごしたかったから。

自分は最初から『お姉ちゃん』とあそこに住んでいる、という夢も込めて。

それでも、流石に完全に忘れる事なんか出来なくて。

仮面の男に関する事を彷彿させたりするワードに遭遇する度に思い出したりした。

まぁ、それはしょうがないかな、なんて思って自分を納得させた。

しかしジョウトを旅する事になった時、困ってしまった。

ジョウトを旅していたら仮面の男に接触する可能性が高くなってしまう。

だから、仮面の男の記憶を完全に忘れるようにした。

面倒臭い事には関わりたくなかったし、それに  

「本当に久し振りね」

  復讐したくなる事はわかっていたから。

リナが「シャルフ!」と声を張り上げると、イーブイは御主人の敵だと理解し、仮面の男に噛み付≠アうとする。

だがそれはデルビルが出てきて、防がれてしまった。

デルビルは炎と  悪タイプ。

同タイプの噛み付く≠ヘ効かない。

チッ、と舌打ちをうった。

『随分なご挨拶だな』
「わたしは昔より強くなったのよ。あの頃みたいに言いなりになるわたしじゃない」
『フッフッフッ。あの頃も充分言う事を聞かなかったがな』
「アンタみたいな奴の言う事なんて聞かないわよ」
『相変わらず言葉使いがなっていないな』

「お陰様で」皮肉っぽくそう言う。

本当に、仮面の男のせいで人間、特に大人を敬えない子供に育ってしまった。

何しろ小さな頃からこんな人間失格な大人を見てきたのだから、大人なんて信用出来ないのも当然だ。

『丁度良かったよ。お前はまだ利用価値がある。今からでも私の手足とならないか』
「……誰がなるか!」

これが自分の答えだ、というようにイーブイとレディバを先頭に、ポケモンを仮面の男へと向かわせる。

きっと周りにポケモンがいるはずだ。

「アンタは駄目よ。マリル」

肩から降りようとするが、それをリナに止められる。

マリルは衝撃的なリナの言葉に、訴えるように見つめるが、リナの眼は強く光っていて身を引くしか無かった。

『それはあのマリルか。相変わらずお前の足を引っ張ってるみたいだな』

仮面の男が吐き出した言葉に、ハッとしてリナを見るが、何も言わなかった。

「シャルフ、電光石火=I エネル、超音波=I クレール、水鉄砲=I ヴェルテ、電気ショック=I」

技を指示すれば、四匹  特にイーブイとレディバ  が素早く動く。

そして、その相手となるのは  ゴース、アリアドス、デルビル、デリバード。

相性は  良好。有利だ。

イーブイの電光石火≠ヘ、一番相手の中で素早そうなデリバードに向かって放たれるが、プレゼント≠ェ上から降り、それは爆弾と化した。

「シャルフ!」

勿論その勢いで吹っ飛んでいってしまう。

イーブイを抱き止める。

その内にレディバがゴースに超音波≠ナ混乱させようとするが、それは霧に紛れて避けられ黒い眼差し≠ナ動けなくなってしまった。

脇ではチョンチーがデルビルへと水鉄砲≠放ち、命中し、相性としても凄く良いのだがケロッとしていた。

同時にメリープがアリアドスへ電気ショック≠放っていたが、糸を吐く≠ナ無効化されてしまった。

やはり簡単にはいかない物だと歯痒く感じた。

『フッフッフッ。まだまだ甘いな』
「フンッ、どっちが!」
『何!?』

いつも仲の悪いチョンチーとメリープが息ぴったり、アリアドスに電気技を放っていた。

相性の良い技に、ダブルでの攻撃は効いたのか、アリアドスはフラフラと目を回す。

『フッ、流石は「天才」だな。そんなポケモン達でよく私のポケモンを追い込めたな』
「当たり前よ、アンタとは違うのよ」

『そんなポケモン達』という言葉に怒りを覚えながら、仮面の男相手だというのに売り言葉を平気で言い放つ。

否、仮面の男だからこそ、売り言葉全開で話す。

仮面の男はその売り言葉を買い、少し殺気  とまではいかないが怒気を発した。

『その言葉、後悔すると良い』
  ッな!?(は、早い!!)」

その仮面の男の言葉と怒気に呼応してか、ポケモン達はさっきの数倍、素早くなっていた。

イーブイとレディバは受け身を取る位には素早く対応出来たが、メリープとチョンチーはそうもいかなかった。

デルビルとアリアドスに攻撃され、二匹はぐったりとしてしまった。

「ヴェルテ、クレール!」

元々、レベルの浅い二匹だ。

しかもリナは「面倒臭い」という理由でバトルを避けていた。

だから今まではリナの指示が全てだったのだが、あそこまで早くてはリナでも指示が追い付かない。

逆に、指示無しで動けるイーブイとレディバは自らの判断で動ける為、素早く対応出来るのだ。

(ちょっと位、バトル慣れさせるべきだったわね……)

そんな後悔なんて、後の祭りすぎて自分が情けなかった。

『フッフッフッ。お前のその性格が仇となったようだな』
「全部お見通し……か、そうね、わたしが悪かったわ」
『これで終わりだ』
(終わり? 終わりになんか、絶対させない!)

キッ、と仮面の男を睨んだ  その時だった。

仮面の男がなにかに反応したように、ハッとしたように顔をあげたのだ。

『……また誰かがこの森に入ってきたようだ』
(何をする気……?)
『残念だが、この勝負はお預けだ』

アリアドスから糸が放たれ、四匹のポケモン全てが木に叩きつけられると同時に、木に巻き付けられた。

「ッ……  きゃああああ!!」

それを見て隙が出来てしまったリナに襲い掛かるアリアドスの糸。

しかしそれは避ける事が出来ずに、自分もまた木に叩きつけられ、木に巻き付けられてしまった。

「ぐあッ……」

叩きつけられた反動で一瞬息が止まり、一気に息を吐き出した。

痛みに顔を歪めながら、一体仮面の男が何をするつもりなのかと、目線で追う。

目が霞んでいてよく見えない。

だが、見知った声がリナの耳に届く。

(この声……まさか  ゴールド!?)

自分の後ろから微かに声がするだけなので、恐らく少し遠くの所にいるのだろう。

仮面の男が向かった方向と同じだ。

という事は、

(アイツ、仮面の男と戦ってる!?)

だが声が途切れ途切れで、上手く指示が出来ていないようだった。

(まさか複数戦初めてな訳!? 馬鹿じゃない!? ……わたしも初めてだったけどね)

人の事はあまり言えなかった。

だがしかし自分は天才だから以下略。

(低い機械音声……仮面の男と接触した!?)

低い声は聞き取りやすいが、いかんせん機械で変えた声だ。そこまで聞き取りやすくは無い。

(……今、仮面の男の隙を突いた?)

ゴールドお得意の演技で、仮面の男自身に攻撃したようだ。

なんだか少し悔しい気もする。

ふと、自分の糸がグイグイ引っ張られている事に気付く。

(! マリル……!)

マリルは自分の肩に乗っていたからか、アリアドスの糸に巻き込まれなかったようだ。

「マリル、ナイス! でもわたしよりもシャルフの糸を取りなさい」

イーブイは噛み付く≠使えるから、マリルとリナが一匹一匹ほどいていくより効率的だ。

誉められたからか、マリルは上機嫌でイーブイの糸をほどいていく。

しばらくかかったが、上手くイーブイの糸がほどけ、まずはリナの糸に噛み付≠「た。

「有り難、シャルフ」

イーブイはリナに御礼を言われ、はにかんだ後、次々とチョンチー、メリープ、レディバと糸を噛み切っていた。

「ふう……皆戻ってて」

マリルとイーブイ以外をボールに入れていると、自分がいた木の根本に蜘蛛の巣≠ェ張られた。

「危な……」

もう少しで糸に巻き付けられながら足に糸を張られ、どうしようも無い状態になる所だった。

間一髪、といった所か。

安堵の溜め息を吐きながら木の陰から顔を出して、様子を窺おうとする。

しかし、それはしようとしただけになってしまった。

なぜなら後ろの方が目映く光輝き始めたからだ。

「何、あれ……」

あまりの眩しさに目を細めながら、それが祠のような物から漏れだしている事に気付いた。

(何かの気配……凄く不思議な感じのする……)

普通の気配じゃない、本当に不思議な気配に、リナは呆気を取られるしか無かった。

仮面の男が近付いてきた事でハッと我に帰った。

(仮面の男が追ってるのが、『アレ』……?)

仮面の男が何かを追っている事は知っていた。

それの関係のある事でリナを利用しようとした事も。

(って、事はアレはポケモン!?)

『リナを利用しようとした』という事は『ポケモン』が関わっているという事。

だが、仮面の男がゴールドに邪魔され、祠の光の主を垣間見る事は無かった。

否、仮面の男の野望など潰したいので残念な事は無いが、少し、気になってしまった。

そして時間が経たない内に、仮面の男は去っていった。

普通ならイーブイに後を着けさせるのだが、今回はきっとヤバいので身を引いておく。

どうせこれから関わっていくのだ。余計な追跡は無用だ。

それに追跡なら『アイツ』が  

「さて、シャルフ。アイツの糸を噛み切ってやんなさい」

コクリ、と頷けばイーブイはゴールドの方へ駆けていった。

「ん!? このイーブイどっかで……」
「アンタ何してんの、こんなトコで」

あくまでも素知らぬフリをする。

自分と仮面の男は関わりがあるなんて、自分から言う必要など無い。

思惑通り、いつも通りのリナの対応に、ゴールドは何の違和感も抱かなかった。

だが  

「オメェさ……」
「ん?」
「いや、なんでもねぇ……」

「サンキュ、イーブイ」と言いながら、何か気掛かりのようで、リナを見つめている。

「何よ、アンタらしくないわね。……まぁ、いいわ。迷ったんなら、道はこっちだから。まぁ、頑張って」

ゴールドの態度を不思議に思いながら、いつものように素っ気なく言って背を向ける。

そして振り向かずに、森を歩いた。

だから、ゴールドが呟いた事なんて聞こえなかった。


「オメェ、ヤツと戦ったのか  ?」



弱いままじゃいられない
(もう面倒臭いなんて)
(言ってられないわね)


131130

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