怒鳴り始めた男共を上手く丸め込んで、問答無用でぼんぐりを渡し作業をさせたリナは、ガンテツのボール作りの様子を見ていた。

「フゥ……あまり見られると集中出来んのだが」
「悪いわね。でも見ないと『出来ない』から」
「『出来ない』……?」
「まぁ、気にしないで」

続けて、というように促す。

ガンテツはなんだか気にかかったが、ボール作りを再開した。

そしてしばらくして、緑色のボールが完成する。

「よし! 出来たで!」
「それがフレンドボールね」
「そや! 我ながら力作や!」

確かにガンテツが言う通り、綺麗な球体は手作りにも関わらず、立派な物だった。

「じゃあこれをあの小僧に……」
「その前に、ボールを作る道具貸して」
「道具? 何する気や」
「当たり前でしょ。作るのよ」

サラリとリナの口から出た言葉に、ガンテツはひっくり返る勢いで驚きの声をあげた。

それに対して喧しいというように苦い顔をして、鞄から白ぼんぐりを出して先程ガンテツがやった事をやってみせた。

とはいえ、作るボールが違うので応用しながら、だが。

先程ちょっと自分の作業を見ただけでボールを作ってみせる少女に、ただただ目を白黒させた。

「な、なんと……」

平然とボールを作る行程をこなしていき、それらしい形になっていく。

「こら道場破りならぬ、職人破りやで……」

自分が今までガンテツの一族としてやってきた努力は一体何だったのだ、という感じだ。

腰を抜かしていると、ボールを完成させたらしいリナがボールをくるくる回して眺めている。

「こんな感じかしら。スピードボールって」
「嬢ちゃん、何者や。ボールを作ってみせるなんて……」
「わたし、天才だから」

さも当然という顔で言ってみせるリナに、一瞬ポカンとし、しばらくして「そうやな」と笑う。

「やけどな、嬢ちゃん」
「……?」
「嬢ちゃんに足りないモンが一つある」
「……何?」


「職人魂や」


誇り高い顔でガンテツは笑って言った。

「職人魂……?」
「何でもな、魂が必要なんや」
「なにそれわかんない」

冷たく言うリナに、そうやろそうやろと声をあげて笑ってみせるガンテツ。

確かに技術的には天才だ。それは認めよう。

しかしそこには「気持ち」が少しもこもっていない。

それでは本当のボールは作れない。

「じゃ、これ使えない訳?」
「それはわからん。しかし、お前さんはどうしてボールを作ろうと思ったんや?」
「そうね……機械に踊らされたく無かった、って感じかしら」
「そら珍しいやっちゃな」
「これからきっと科学に頼った国が出来るわ。確かに科学は凄いけど、頼るのはどうかと思うわ」

ホウ……。関心したように息を吐くガンテツ。

今頃の若者にしては見上げたものだった。

「だから機械で作ったボールでなく、自分で作ったボールを使ってみたくなったの」
「なるほどな……」
「まぁ、要するに気分よ、気分」

もしかしたら、ちっとも魂が入っていないわけでも無いようだ。

ガンテツは興味深い少女の将来を楽しみに思った。


# # #



「あの『みどぼんぐり』から作ってもらったのがこの『フレンドボール』か…」

リナ以外は外で待っていた為に先程の中の様子を知らずに、リナが持ってきたボールを素直に注目した。

きっと「何してたんだ?」と聞いても、リナの性格なら「別に」と答えるであろう事はゴールドにでもわかった。

「『木の実がボールに』ってマジだったんだ。へー」
「どんだけ疑い深いのよ」
「ね、どうしてフレンドボールにしたの?」
「これで捕まえりゃあ、なついてくれるんだろ? にぎりめしの礼にポケモンを捕まえてやるよ」
「ホント!?」

ゴールドの言葉に、リナのマリルを抱き締めた女の子は驚きつつ嬉しそうにした。

「あ、ありがとう、おにいちゃん!」
「いいってことよ。で、キミのほしいポケモンは、どこにいるんだ?」
「ええと…、あの山に住んでるんだけど…。おじいちゃんに近づいちゃいけないって言われてるの…」
「オレ達がついてるし、だいじょうぶだって。行こうぜ!」
「う…、うん!」

ちょっと待て。いつわたしも行くと言った。

そう思ったが、女の子が嬉しそうにこちらに微笑みかけてくるのと、マリルはその名の通り手中なので逃げられなかった。

リナは深い溜め息を吐くと、仕方無く二人の後ろを着いて歩いた。


# # #



遠くで見た時に気付くべきだったが、その山は切り立っていて、結構足下が脆いような危ない山だった。

三人は装備が軽い状態で、結構危険な登山をしていた。

改めて思う。何で自分がこんな事を、と。

「きゃっ!」

女の子が足を滑らせ、崖から落ちそうになるのを、素早くゴールドとリナが腕を引っ張り助けた。

「おっとあぶねえ、気を付けな…」
「ちゃんとわたしに掴まって無いと、死ぬわよ」
「おいおい……」
「う、うん……」

きっぱり「死ぬ」と幼い女の子に言うリナに、ゴールドが呆れる。

しかし女の子は特に気にした様子も無く、恥ずかしそうにリナにしがみついた。

その様子を見て、まさか女の子はリナになついたのか、と驚いた。

一体女の子は、冷たいリナのどこを好きになったのかと疑問に思った。

いやいや今はそんな事より  

「しかし、ずいぶん険しい山に住んでるんだなあ」

図鑑を開きヒメグマのデータを見る。

まだ会った事が無い為、ヒメグマの姿と、名前、種類しか表示されなかった。

「で、そのヒメグマ≠チてのは、どんなポケモンなんだ?」
「小さくてまるまるしてて…かわいいの!」
「……。お前はなんか知らねぇか?」
「小さくてまるまるしてて可愛いの」
「すっげぇ棒読みだな、おい……」

女の子にヒメグマの事を聞いても、全然特長らしい特長を知れなかった為、リナに振ると、素晴らしい棒読みで女の子と同じ事を言われた。

要するに、思い出すのが面倒臭いのと、自分に関係無い事に巻き込まれた事を怒っているのだろう。

「…ま、なんとかなるだろう」

……そう思いたい。

(…あっ!!)

そんな時、女の子が声を潜めて小さく声をあげた。

ヒメグマの可愛い後ろ姿を見つけたようだ。

(いたわ、おにいちゃん、おねえちゃん。ヒメグマよ!)
(よおし、さっそく…)

そろそろとヒメグマに気付かれ無いように、近付く。

「(そーっと、そーっと)…ん?」

ユラリと背後からの気配と、自分の足下に自分よりも大きい影が出来たので、ゴールドは嫌な予感がひしひしした。

バッと振り返ると、そこには自分の二倍以上ある巨大熊が自分に襲い掛かる5秒前だった。

「うわ  !」

ゴールドがわなわなと震えながら巨大熊を指差すと、女の子が顔を青くして見覚えのある巨大熊を見る。

「な…な…」
「リ…リングマ! ヒメグマの進化形だわ!」
「……まぁ、ヒメグマがいるんだからリングマもいるわよね」

リナ一人が無駄に冷静沈着だった。

そうこう話している間に、リングマはその大きな拳を三人に降り下ろす。

「うわわー!!」

間一髪でゴールドが女の子の手を繋いだリナの手を引いて避けた。

「こんなのがいるなんて、きいてねーぞ  !!」
「ちょ、痛いんだけど!」
「我慢しろ!!」

必死に逃げるゴールドに引っ張られるように手を引かれるリナ。

その手を引かれるリナに手を引かれる女の子。

何だか手繋ぎ鬼みたいで、そのビジュアルは随分シュールだった。

だが、どどど、とリングマから必死に逃げるゴールドにとっては真剣な逃走である。

「わあ、タンマタンマー!!」
「ちょっ、ホントに痛い!!」
「我慢しろって! 食われるよりか百倍マシだ!」

と、そこに誰かが割り込んできた。

「どけ、捕獲のジャマだ」
「! シルバー!!」
「またおまえか」

ボール片手にアリゲイツを連れた銀目  シルバーはその鋭い目付きでこちらを見ている。

ゴールドはその片手にあるボールに食い付いた。

「それは!」
「ヘビーボールでしょ?」
「てめえ、また人の物盗みやがったのか」
「ちょっと待って! これはおじいちゃんが実力を認めて、この人に作ってあげたのよ!」

女の子の言葉に、ゴールドは納得いかなさそうな顔になる。

「オレをバカにしたガンテツが、このヤローは認めただと? まったくおもしろくねー!」
「そもそもアンタがガンテツのボールを馬鹿にしたからでしょ」
「そ、それは……。よくあるこった、気にすんな!」

苦し紛れに笑うゴールドをリナは駄目だこりゃ、と呆れたように溜め息を吐いた。

それよりも、と図鑑を開きリングマのデータを見る。

「捕獲って言ってたな。リングマか…。ヘビーボールの目的はこいつってわけだ」
(まさか……)

そのまさかだったらしく、ゴールドはにやりと笑ってリングマに向き直り指を差した。

「ヒメグマは後回しだ! リングマはオレが先にいただくぜ!」

予想通りの言葉に、また深い溜め息を吐く他無かった。

リナと女の子をほったらかしにして、リングマの奪い合いをし始めた。

「はぁ……なんなのよアイツ等」
「お、おねえちゃん……」
「ん? 何?」
「溜め息吐いてたら、幸せ逃げちゃうよ……」
「幸せねぇ……」

なんだか姉にも同じような事を言われた気がする。

しかし幸せなんて別に望んでいないし、何が幸せかさえ分からない。

だが  

「そうね。溜め息吐かないようにするわ」
「うんっ!」

純粋な女の子を見ていたら、溜め息を吐いているのが少し馬鹿らしくなってきた。

そう思っていた時、二人に影が射す。

リングマの爪が二人を襲おうとしていたのだ。

「きゃあああ!!」

手を引いていたら遅い。

リナは女の子を抱きかかえ、岩影に女の子を避難させた。

「おねえちゃん……」
「ココにいて」

最早ゴールドはリングマに夢中になっている。

なら、自分でヒメグマを捕まえようじゃないか。

ヒメグマの近くに行くと、パートナーの名前を呼んだ。

「マリル」

強く頷いたマリルがヒメグマと対面する。

ヒメグマはリングマの子供かなんかなのか、リングマの傍にいるので必然的にリングマとも近い。

「(リングマに注意しなきゃ、か……)マリル、水鉄砲!!」

マリルが口から水の鉄砲を勢い良く発射するが、ヒメグマは素早く避けた。

「チッ、ちょこまかと……」

舌打ちをして唇を噛んだ時、ヒメグマがマリルに頭突き≠かまし、マリルが飛んでいった。

「マリル!」

マリルに視線をやったのが運のツキ、ヒメグマが勢いそのままに自分に向かってきた事に気づけなかった。

(しまっ……)硬く目を閉じて衝撃に備えた。

しかし、その時  自分を守るようにゴールドが立ちはだかった。

「なっ……!?」

そして自分を抱き締めるように抱え、飛び退いた。

混乱しながら着地時に聞いた音は、足を捻った音で、嫌という位耳に残った。


人の魂が籠るボール
(なんでわたしなんか)
(助けたのよ、馬鹿!!)


20131117

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