「アンタの名前は……そうね、やわらかい綿毛が特徴的だから  ヴェルテ」

メリープから名前を付けて欲しいと催促され、捻ったように見せかけてまんまの名前を付ける。

音楽用語で「柔らかい、優しい」という意味だ。

ヴェルテ、と名付けられたメリープはそれだけで感極まってリナを抱き締めた。

「ちょ……アンタも抱き付くの好きね」

マリルといい、チョンチーといい、甘えん坊ばかりなチームだなと思う。

本当に手を焼かされてばかりで、でも悪い気はしなかった。

「さて……やっとヒワダタウン、か」

結局鳥ポケモンは手に入らず、うやむやになって自力で歩く羽目になっている。

「マリル……また拾ってきたの?」

小さく溜め息を吐く。

なにしろ、先程からマリルはぼんぐりという木の実をいちいち見掛ける度に拾ってくるのだから。

最初は食い意地が張っているから食べ物だと勘違いしたのかと思ったのだが、どうやら形が気に入ったらしくにこやかに眺めている。

ぴょこんぴょこんと跳ねて歩きながら、それを片時も離そうとしない。

お陰でリナのリュックの中はぼんぐりでぎっしりだった。

しょうがないな、と溜め息を吐きながらもぼんぐりを捨てたりはしないのがリナだ。

「……あ」

短く声を漏らしたリナの顔は嫌そうにひきつっていた。

前方にはキューを支えにしながら歩く、爆発頭の不良。

(まさかこんな所で遭遇するなんて……またなんかに巻き込まれそうだからゆっくり歩くか)

心の中で呟き、自分でうんうんと頷く。

「あ  、ハラヘった  

なるほど、だからそんなにヘロヘロなのか。

納得しながらも早く歩かない爆発頭に苛々する。

よろよろと歩くものだから、間隔が段々狭まっているのだ。

これではまた顔を合わせてしまう。

それだけは免れたい  

そう思ったまさにその時、マリルの鼻にメリープの綿毛が飛んできて、くしゃみをしてしまった。

はっぶしゅ! いっくしょいっ!

「親父か!!」
「!」

思わず突っ込んで、慌てて口をつぐむ。

しかし時既に遅し。

爆発頭  ゴールドは待ってましたと言うように満面の笑みでのしのしとこちらへ近寄ってきた。

「なんだよ、いるなら言えよー! いやぁ、丁度良かった! オレ今ハラヘっててよー! なんか持ってねー?」
「悪いわね、猿にやるような餌は持って無いの」
「テメェ……そりゃどういう意味だ? ああん?」
「あら御免なさい。猿に言語は理解出来ないものね」
「むきゃ    !!」

リナの売り言葉に、ゴールドは堪忍袋の緒が切れたように、それこそ猿のような鳴き声をあげた。

内心、扱い易いゴールドにクスクスと笑いながら、外面ではツンとした表情をする。

「じゃあ試しになんでハラヘってるか言ってみなさいよ」
「……買い食いのしすぎで金がなくなっちまった」
「ほら見なさい。自業自得じゃない」

やれやれと首を振ると、流石に自業自得である事位わかるのか、返す言葉に困っていた。

リナから目を逸らした時に見えた物を、バッと見やる。

それは丸い緑色の木の実だった。

「おお! うまそうな木の実発見!!」
「あ、それ食べれな  
「いっただきまーす!!」

リナの言葉はゴールドによって遮られ、ガブと勢い良くかぶり付いてしまった。

ゴールドはかぶり付いたまま硬直し、顔だけをひきつらせる。

「うえっ、ぺぺぺっ、にがっ!!」

余りの苦さに吐き出し、ポケモン達とリナが呆れる中、可愛らしい笑い声が聞こえてきた。

「へんなおにいちゃん!」

声の方を見てみると、柵に座っている二つ結いをリボンで結んだ小さな女の子。

「それは、ぼんぐりの木の実よ。食べる人ははじめて見たわ。よっぽどお腹がすいてるのね」

可笑しそうに笑った後、ちょっと悩んでから「ここで待っててね!」と無邪気に走っていってしまった。

ゴールドはまだ舌に残るぼんぐりの味に顔を強張らせながら不思議そうに、女の子を見送った。

その間に進もうと思ったが、そうは問屋が卸さない、と言った顔をしたマリルが行かせてくれなかったので仕方無くゴールドと共に女の子を待つ羽目になった。

しばらくすると、女の子は木のトレーのような物を持ってきた。

女の子が地面に置いたのを良く見ると、トレーの中には皿があり、その上にオニギリが乗っている。

「はい、めしあがれ!」
「おおっ、にぎりめし!!」

腹ペコだったゴールドは光の速さでオニギリに飛び付いた。

「すまねえ! 嬢ちゃん、恩にきるぜ!!」
「ふふ、ポケモンたちもたくさん食べてね」

女の子はゴールドのオニギリだけで無く、ポケモン達の林檎まで用意してくれた。

それを見たリナのポケモン  主にマリルなのだが  が羨ましげに見詰めている。

その視線に気付いた女の子はほがらかな笑みを浮かべながら「あなたたちもどうぞ」と言ってくれた。

林檎をがっつく自分のポケモンを溜め息混じりで穏やかに見守っていると、女の子はリナの服を控え目にくんくんと引っ張った。

「ん……?」
「お、お姉ちゃんもどうぞ」
「……いいの?」
「うん……!」

オドオドと話し掛けてくる女の子。

そんなに自分は怖いのだろうか、と思いながら尋ねると、女の子は少し頬を赤らめて子供らしく元気良く頷いた。

素直にオニギリを食べると、嬉しそうにニコニコしていた。……そんなに人にオニギリを食べて欲しいのだろうか。

的外れな考えとは知らずにリナが思っていると、女の子はぼんぐりの事について話し始めた。

「さっきの『ぼんぐり』を使って、私のおじいちゃんはモンスターボールを作るの。作るボールにはいろんな種類があって……」
「オイオイ、ちょっと待てよ! 木の実からボールを作るだって!?」
「そうよ。わたし、ポケモンとお友だちになりたくてポケモンがなついてくれる『フレンドボール』を頼んでみたけど」

少し沈んだ顔をしながら「でもダメだって」と呟くように言った。

「おじいちゃんのボールは、使いこなせる人でなきゃ渡せないんだって」
「職人気質って奴ね」
「木の実がボールにねえ。ほんとにそんなことできんのかよ!? できたとしてもロクなもんじゃねーだろ!?」
わしの作るボールをバカにするな、小僧   !!!

いきなりの怒鳴り声に耳を塞ぐゴールドとそのポケモン達。

リナも迷惑そうに眉根を寄せて耳を塞いだ。

「な、なんだ、あんた誰だ?」
「わしはガンテツという物じゃ!」
「い、今話したわたしのおじいちゃんよ」

やっぱり、と溜め息を吐く。

ただでさえ五月蝿い奴は嫌いなのに、こういうお歳を召した方は口五月蝿くて敵わない。

「ええか、小僧。昔はすべてのボールをこのガンテツの一族がぼんぐりを使うて作ったんや!! 今、工場で作られるボールはしょせん大量生産された初心者用! わしのボールはトレーナーの実力がなければ使いこなせん!」

だったら自分は簡単に使いこなせるだろう、なんて思ったが言わぬが花。

こういうのは自分で言わずに実力をその目でしかと見せるのが筋だ。

とはいえ、つい言ってしまうのが「わたし、天才だから」なのだが。

「小僧、おまえのような凡人トレーナーには、市販のボールが丁度ええやろ」

さ、帰るで。と言いながら、名残惜しそうにこちらをチラチラ見てくる女の子の頭を掴んでゴールドから背を向けた。

その子供にカチーンと来たゴールド。眉を吊り上げる。

「だまってきいてりゃ、言ってくれるじゃないっスか…。オレには使いこなせねえだと?」

こめかみに青筋を立てながらガンテツを睨み付ける。

「おもしれえ! じゃあオレがそのボール、みごと使いこなして、実力を証明してやらあ!」
「…ホウ、いきごみだけは立派やないか」

まさか自分とほぼ同じ事を言うなんて自分が情けなかった。

「で、使いこなせへんかったらどないするんや?」
「そんときゃあ大口たたいたワビに、一生あんたの下で下働きでもしてやるぜ」
「ほお、よお言うた!」

また面倒臭い事を……。

すぐさまこの場から離れたい気分になったが、それをマリルは許してくれないだろうから気分が重たい。

「よっしゃ、そういうことなら特別に作ったろ。どのボールにするか選んで、ぼんぐり取ってこりゃ」
ええ  !? なんだよ、材料はオレが取ってくんのかよ!?」
「つべこべ言わんと、さっさと行かんか。陽が暮れるで!」

大声で喧嘩染みた事をする二人の間でおろおろする女の子。

それを見たリナは、なるべく関わらないようにしたかったのだが、女の子の頭に手を置き、自分の鞄を二人の前に突き出す。

「この中にぼんぐりがあるわよ。このバカ男二人」

女の子におろおろさせるな、という意を込めて言うと、二人はしばらくポカンとして、はっとしたように怒りを露にした。

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