いつだっただろうか……この美しい世界に、龍が現れたのは……。

魔物は暴れ、人々は恐怖に震え、元気に咲いた花は潰され、そして世界に終焉が告げられた。


「ねぇ、私の声が聞こえる?」


「あなたにはあるかしら。
 この世界をを救う力が……」


「お願い!!
 私たちと共に戦って……」


#PUSH ENTER#



「………………。ん? ここは……どこだ……?」
「ようこそガーデンへ! お待ちしていましたよ。
 さぁさぁこちらへどうぞ」

気が付いて周りを見渡せば、身近には胸が無駄に大きい(ここ重要)女が自分の前に立ちはだかっていた。

  ガーデン?

改めて見渡してみると、すぐ近くに多くの花が並べられた花屋が。

ガーデンって……ただの花屋じゃないか。

「……アンタ誰だよ!? そしてここはどこだ?
 ……確か携帯ゲームを……」
「あなたは私がこの世界の『ガーデン』へ召喚しました。
 申し遅れました。私『野花 咲耶』と申します」
「はぁ……。とりあえず家に返してくれないか?」
「それは無理でっす☆
 あなたはこれから旅にでます!」

え、何この人、滅茶苦茶ムカつく。

ていうか言う事が電波過ぎる……。

「はあ? 無理ってどういう事だ!?
 早く帰せ! 今帰せ!!」
「まぁまぁ!
 とりあえず……あなたの属性を調べてみましょうか!」



「成る程、ここで属性を選ぶのね」

お馬鹿なポケモン達のせいで、またキキョウシティに戻って回復しなくてはならなくなったリナは、ポケモンセンターの待合室に腰掛けながらPFP(携帯ゲーム機)の画面を眺めながら呟いた。

画面には「太陽」と「月」と「流星」。

太陽……自分は太陽という柄じゃない。一瞬、金目や赤野郎が浮かんだが振り払う。

月……月は神々しいイメージがある。これも柄じゃない。お姉ちゃんと銀目が浮かんだ。お姉ちゃんは分かるが、銀目は目の色だろ。自分は単純か。

流星……まぁ、無難にこれにしとこう。というか自分、気分で決めてどうする。

リナは○ボタンで流星の属性を選んだ。

その後に、3つの属性の説明をされる。

「遅いわ!!」

まぁ、どちらにせよ流星が無難で結果オーライだったが。



「さぁ説明してもらおうか!!」
「少し長くなるのですが……」
「3行で説明しろ! 3行で!!」
「ココ異世界
 旅にでる
 世界を救え」



『わけがわからない』

ゲームの主人公とリナの気持ちがシンクロした。

はぁ、と溜め息を吐いてセーブして電源を落とす。

なんだかすっかり気が抜けてしまった。やる気が起きない。

また他に何かゲームをやろうと思った時、ちょうど名前を呼ばれた。

回復が終わったようだ。

リナは重たい腰をどうにかあげ、受け付けに向かった。


# # #



「またのお越しをお待ちしております」

ぺこりと頭を下げられながら、ボールを鞄に入れて出口へ向かう。

ふと立ち止まり、テレビ電話のある場所を振り返った。

「たまにはお姉ちゃんに電話するか」

言葉は素っ気ない物の、表情は周りの人を引かせる威力を持つ位ににやけていた。

「まぁ、出るか出ないかわからないけどね」

家の方の番号をプッシュしながら呟く。

今は研究所の手伝いをする余裕が無い位に忙しいルナ。

それは誰かさんのせいなのだが、ルナはきっと向日葵のように眩しく笑って、

「私がやりたいだけだから」

と言うだろう。

なら敢えて自分が何かを言う事は無い。

逆に大事なお姉ちゃんを悩ませるきっかけになってしまうから。

『はい、もしもし! あ、リナ!』

テレビ画面に表示された愛しき自分の姉。

自分の姿を確認すれば、凄く可愛らしい笑みを見せた。

相変わらず胸を突き動かすのが得意な彼女だ。

小さく「フヘへ……」と笑うが周りの客はともかく、姉は変わらない笑みを浮かべる。

ルナからは、目にフィルターでもかかってるのか、リナがクールに微笑んでるように見えているのだ。

そんなルナには眼科を勧めよう。

『どう? 元気にしてる?』
「うん。元気だよ。お姉ちゃんいれば元気100倍になる自信あるけどね」
『良かったぁ、元気が一番だもんね!』

うん、何気大事なところをスルーする天然なお姉ちゃんも久しぶりに見た。

『今どこ? あ、そっちのポケモン捕まえた? ちゃんとウツギ博士に会えた? オーキド博士から図鑑貰えた? 友達出来た? 旅、大変じゃない? 私に何か出来る事無い? それから  
「わかった、待って、そんなにいっぺんに喋らないで」
『あ、あぅ、御免……』

心配そうに、必死に聞いてくる姉には慣れている。

そういう時は大抵、自分の事を心配してくれている時だ。

だからいっぺんに喋られて、困惑もあれば歓喜もある。

「えーと、まず今どこって質問の答えは『キキョウシティ』。あんまり進んでないかな」

とはいえ、きっと姉の場合はもっと時間がかかったろうが。

大半は迷子という理由で。

「次にこっちのポケモンを捕まえたかっていう質問。答えは『yes』」

そう言ってボールからチョンチーとメリープを出して、姉に見えるように掲げた。

『わあああ!! 鮟鱇ポケモンのチョンチーと綿毛ポケモンのメリープですううう!!』

すぐさま目を輝かせながら身を乗り出してきた。

研究家の助手の知的好奇心と、二匹の可愛さによって心を揺れ動かされたのだろう。

「電気タイプばっかなんだけどね」
『さすがリナ! 捕まえるの上手いもんね!』
「ま、まあね……」

ただ単に、ルナが尋常じゃない位に捕獲が下手なだけだが、それはあえて言わないでおく。

「んーと、ウツギの博士とオーキドの博士は色々あって……」
『色々?』
「うん。色々。かくかくしかじか」
『ご、御免、わかんないや……』

漫画じゃあるまいし、かくかくしかじかと言って伝わる訳は無かった。

リナはルナに今まであった事を簡潔に纏めて話した。

ルナは少し驚いた顔をしたりしたが、深くは何も言わず、ただ耳を傾けていた。

『なるほどね……』
「御免ね、お姉ちゃんがせっかく……」
『ううん。大事なのはポケモンを貰う事でも、図鑑を貰う事でも無いと思うから』

優しく微笑みながら言う姉は、どこか力強かった。

『私は、リナが旅に出てくれた事が嬉しかった!』

ニコッと向日葵のように微笑まれ、何も言えなくなる。

自分が旅に出たのはお姉ちゃんのように『自分の為』にではなく『お姉ちゃんの為』だなんて。

『あ、そうだ。そのゴールドさんって人と仲良くなれたの?』
「え……全然。あんな不良と誰が仲良くなるもんか」
『そ、そんな事言わないで……』

相変わらず他の人には厳しいようだ。

唯一、リナの悪い所はそこなのかもしれない。

旅をしていく内に、少しずつでも構わないから、変わって欲しいと思った。

「旅は……大変じゃないよ。お姉ちゃんが恋しくて仕方ないけどね」
『私もリナに早く会いたいなぁ』

ぷるぷる。

思わぬ不意討ちに鼻を押さえて身悶えた。

ヤバい、馬路可愛い。

『だ、大丈夫!?』
「うん、大丈夫。ただ萌え死にしそうだっただけ」
『燃え死に!? やだやだ死なないでー!!』

会話がいまいち噛み合っていないが、これが二人のデフォルトだ。

お互いがお互い、想い合い過ぎてベタベタなのだ。

「最後の質問は……大丈夫、お姉ちゃんからして欲しい事はこうやって顔を見せて欲しいだけだから」
『リナ……』
「心配してくれて有難うね。でも本当に大丈夫だから、今お姉ちゃんがやりたい事に専念してね」
『……うん』

少し眉を下げ、淡く微笑む。

それに応えるように自分もまた微かに笑いかけた。

『……リナ』
「ん? 何?」

テレビの向こうのルナは手を挙げて、空を撫でる。

何をやっているか分からず首を傾げた。


  よしよし』


よしよし……って、まさかテレビを通して撫でるフリをしているのか。

呆気に取られてしまう。

ルナが手を下げて、またニコッと向日葵の笑顔を見せてきて、はっとする。

「あ、有難う!」
『どういたしまして』
「そ、そろそろ行かなきゃ。切るね?」
『うん……また連絡してね』
「勿論」

そう言ってテレビ電話の電源を落とし、せかせかと出口へと急いだ。

何事だとポケモン達も急いで着いていく。

駆け足でポケモンセンターの外へ飛び出し、そして  



「お姉ちゃんラァァァァブッ!!!!」



  叫んだ。

それはもう大声で。

他の人の目も気にせずに。

リナの声は辺りに木霊し、周りの人達は彼女を凝視する。

キキョウシティの中心で、愛を叫ぶ。

「お姉ちゃん馬路可愛い。何あの可愛さ! よしよしだって! テレビ電話で! くーっ、こりゃ妹冥利に尽きるってもんだぜ! 生きてて良かった   !」

るんるんとスキップしてヒワダタウンに向かうリナ(仮)。

ここにきて彼女のキャラ崩壊が著しい件について。

これはもう、精神科に行く事をお薦めしよう。

ポケモン達、周りの人達がドン引きの中、鼻歌が聞こえそうな位御機嫌なリナだった。

シスターコンプレックスとはまさしく彼女の事だろう。


女神様とは貴女様の事
(まだまだこれからの)
(旅を頑張れそうです)


20131110

[ back ]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -