リナは今、マダツボミの塔を出て、32番道路にいた。 「この先をまっすぐ行くと繋がりの洞窟で、そこを抜けるとヒワダタウン、か」 ジョウト一周にはまだまだのようだった。 お姉ちゃんとの再会が遠のいた様に感じ、深い溜め息を吐いた。 「鳥ポケモン辺り捕まえてズルしようかな」 純粋に旅を楽しんでいたマリルが驚いたようにリナを見る。 そんなマリルの視線を無視して、ざくざくと草むらに入っていく。 「うわっ、雑魚鼠と雑魚蛇ばっか」 さらりとコラッタ好きとアーボ好きを敵に回すような事を言う。 「……ん?」 イーブイとチョンチーで蹴散らす中、一匹のポケモンと目が合う。 ふわふわした体と額の丸い宝石、黒と黄色の角が特徴的なポケモンだった。 「確か、あのポケモンは 脳内のポケモン図鑑に検索をかけようとした時、そのポケモンが頭突き≠リナの腹部へと放ってきた。 「ぐふッ」呻き声をあげ、苦しげに顔をしかめた。 すぐさまポケモン達が反応する。 だが、なぜか困ったようにオロオロとしながら立ち往生していた。 可笑しい。いつもこういう時はポケモン達が助けてくれるはずだ。 まさかここに来て反抗期か。 本当にそうなら、他の奴等は リナはスパルタ教育だった。 ゆとりの時代はもう終わりを告げたのだ。今の時代はスパルタだ。 そんなどこかの教育番組の内容まで考えて、ふと気付く。 ふわふわのポケモンから敵意を感じない。 野生で攻撃してくるポケモンなんていうのは大体敵意を向けている。 しかし不思議な事に、このポケモンは攻撃したのにも関わらず敵意を微塵も感じなかった。 「というより……」 スリスリスリスリスリスリ。 「なんかおもいっきりスリスリされてる……」 ふわふわの物体は自らのふわふわの毛をリナにこれでもかと言う位にすり付けられていた。 また、それをマリル達は唖然として見つめていた。 なるほど、動けない訳だ。 納得している場合では無いとふわふわを押し退けようとした。 しかし意外に力が強い。 「た、確か、このポケモンの名前は……」 流石のリナも、たじたじなようで。 「メリープ……」 ふわふわの物体の名前を呟くと、メリープは嬉しそうに鳴いた。 大層リナになついたようだが、なつかれたリナはなぜ自分に意味も無くなつくかわからなかった。 むしろ罠かと思ってしまう程だ。 「ちょ、メリープ……え?」 困った表情になりながらメリープを退かそうとするリナの頬に違和感が。 暫く呆然としていたが、間を開けてからそれはメリープがリナの頬に口付けした事に気付く。 自分の頬に手を添えながら、この暴走羊をどうしたもんか考えていると、周りから凄い殺気を感じた。 「は!? アンタら……」 振り返ってみればそれはマリル、チョンチー、加えて珍しくイーブイが、メリープに向かって放っている物だった。 一体この場には何が起こっているというのだろう。理解に苦しんだ。 マリルやチョンチーなんかメじゃない位のトラブルメーカーらしいメリープは、3対1じゃ分が悪いと思ったのか、こちらに向かってウルウル光線なる物を放ってくる。 「う……」 流石の淡白なリナも、その可愛さに薄く頬を染めた。 それをみた3匹はまた殺気を強く発し、そしてお互いに目配せし始める。 (なんなの一体……) 小さく溜め息を漏らした所で、イーブイが思いっきりメリープに体当たり≠かました。 「い……!?」 あのいつも冷静沈着で大人なイーブイがここまで派手にやらかすとは思っても見ず、驚きの声をあげる。 メリープは体当たり≠ウれ、リナの傍から離された。 ギリッ、とメリープがイーブイに睨みを利かせた時、イーブイが尻餅を付いているリナの膝にすとんと乗った。 まるで、「ここは自分の特等席だ」と言わんばかりに。 クールな顔でリナを見詰めるが、どこかそのアーモンドのような瞳には甘えのような物がある。 「シャ、シャルフ……」 綺麗な鋭い声で鳴き、淡く微笑む彼(♂)は格好良かった。 しかし横から突進≠オてきたメリープによって吹っ飛ばされ、その特等席はぶんどられてしまった。 イーブイは怒りに体を震わせる。 またイーブイが来るのかと思いきや、今度はチョンチーが十字のような目をキツくさせ、メリープの上に乗り、そして 「え、ちょ、まさか、タンマ……!」 「ぎゃああああああ!!」 当たり前だが、メリープ達を膝に乗せたリナも感電する。 普通は死にかけるが、リナは頭がアフロになって真っ黒焦げになるだけだった。 これには「わたし天才だから」では通せない筋という物がある気がするが本人が問題無いなら、大丈夫、問題無い。 「んな訳あるかぁ!!」 メリープは同じタイプとはいえ、ダメージを負ったようで少しフラリとした。 電気対決だとばかりに、メリープは電気ショック≠放った。 「ちょっと、肝心のわたしは無視かい……」 しかし、チョンチーはなぜかダメージを受ける所か、回復したんじゃなかろうかという位に元気になっていた。 「! アレは……」 勿論、目敏い彼女が見逃すはずが無かった。 確か前に愛しのお姉ちゃんが、研究成果を楽しそうに話していた時に語っていた。 『ポケモンもね、人間みたいに進化してるんだよ。ほら、人間ってお猿さんが進化して出来たでしょ? だからね、ポケモンもバトルする内にね、みんな進化してきたんだ』 『……進化、って「進化」でしょ?』 『違う違う! 普通の進化じゃなくて、人間がお互いに意志疎通しやすいように言葉を使えるように、ポケモンもバトルしやすいように進化してきてるんだよ!』 『最初からそう言ってよ……』 『あぅ……だって』 『分かってるよ、説明下手なんでしょ?』 『えへへ、そうなんだよね』 お姉ちゃん馬路可愛い (それだ……!) しかしその「特性」は、まだ全部のポケモンに出来た訳じゃないらしい。 (クレールの「特性」って何かしら) その考えを遮ったのは妙に弾力のある丸い物体による物理攻撃だった。 はっきり言おう。 マリルが顔面衝突したのだ。 「痛いんだけど!!」 怒りに任せてマリルを投げると、見事にメリープに向かってシュートしてしまった。 ボーリングのピンのように綺麗に倒れたメリープはマリルにとって効果は抜群な電撃を放つ。 それをちょこちょこと逃げ回るマリル。 そんなマリルのちょこまかした動きにもっと怒りが募るのか、段々攻撃が見境無くなってきた。 (マリルって逃げ回るのは得意よね……) 「流石、わたしと逃げ回っただけあ……る?」 わたしと逃げ回った=c…? どんな場面で自分とマリルが逃げ回るのだろうか。 一瞬のいらない思考を振り払うように首を振る。 「ていうかメリープ 今までマリルを追いかけていたメリープは、リナに呼ばれると、高速でリナの傍にいきすり寄った。 「アンタは何がしたいの?」 さっきからわたしに被害来てるんだけど、と心の中で呟き。 メリープは問われればキョトンとして、当然の事だと言うようにスリスリしながらリナのカバンの中のボールを取り出した。 「……つまり、仲間になりたい、と?」 コクコクッ、と勢い良く頷かれる。 「でもアンタ、電気タイプよね……」 そう呟くように言って、将来サンダースのイーブイとチョンチーを一瞥する。 もしメリープを仲間にすれば、メンバーのタイプ偏り過ぎである。 しかもやんちゃばかり。 「電気タイプは……ねぇ?」 溜め息混じりで言えば、途端にメリープの瞳がうるうるとし始める。 「ぐ……」 思わず目を逸らしてしまう。 一体どうしてさっきから自分はこんなに悩まされているんだ。 前までは、良い物は良いと、悪い物は悪いとすぐに見極めていたのに。 しかしメリープの瞳を見ていたら何だかどうでも良くなってきた。 「……良いわよ」 メリープからは喜びが、3匹からは嫌悪が伝わってきた。 「ただし」 思わぬ言葉に、四匹は一斉に不思議そうな顔をする。 「四匹共仲良くする事」 四匹全員何度か瞬きした後、その四匹全員嫌な顔一つせずに微笑んだ。 そして何だかんだで自分等の事を考えてくれている主人に抱き着いた。 「わ! ……別に、わたしが巻き込まれるから面倒なだけだからね。別に、その、他意は無いんだから!」 真っ赤な顔をして誤魔化すリナ。 そんな不器用な主人を微笑ましく見詰めながら愛しそうにポケモン達はじゃれた。 貴女に惹かれたんです (ツンデレで不器用な) (御主人様が大好き!!) 20131104 ←|→ [ back ] |