はぁ、と溜め息を吐き踵を返す。 「……マリル?」 ぷるぷると体を振り、強い瞳でリナを見据えた。 「手助けでもしたいの?」 少し呆れを含んだ瞳で見つめ返すと、マリルは表情を動かさず、体も動かさなかった。 もう一度、溜め息を吐く。 「わかってるわよ。最後まで居ろ、って言うんでしょ」 マリルはいつもそうだった。 一度そう決めたらやり遂げるまで背を向けない、向かせない。 普段は子供の癖に、こういう時はしっかりする。 (とは言え……明らかにわたしお邪魔よね) 壊れた階段の方を見上げる。 「力ずくでも…。返してもらうぜっ!!」 いつものようにゴールドが突っ込んでいくようにヒノアラシの火の粉≠ナ攻撃する。 しかし相手のワニノコの水鉄砲≠ナ押し返されてしまった。 「くっ!」 「ワニノコは、おまえのヒノアラシに対しては天敵! なぜなら…」 「『水』は『炎』を消すからだってんだろ! わかってらあ! んなこたぁーよぉ!!」 少し驚く。 何も考えずに突っ込んでいっているものだと思ったからだ。 「だがな、オレは『研究所で仲よかったワニノコに戻ってきてほしい』と思うバクたろうの気持ちを考えた! バクたろうは必死だぜ! ここはこいつ自身が体をはるしかねえってことだ!」 「………」 へえ……。リナは目を細めた。 「相性というものは気合いだの根性だのと無関係に存在する。ヒノアラシの炎もみずタイプの攻撃でくすぶるばかりだ」 「そりゃどうかな。気持ちの強さは教科書の物差しじゃ…、計れねーぜぇー!!」 「なに!? くすぶる煙がつぎつぎに…! 部屋をうめつくしていく!!」 「へっへっへー、狙ってたんだよ。えんまく≠セぜ さっとゴーグルをかけるゴーグル。 ちなみに煙は微量だがリナのもとにも届き、咳き込む彼女の額には青筋が。 しばらくしたらゴールドは半殺しされる事であろう。なんまんだぶつ。 「『水』は『炎』に強いです。『炎』は『草』に強いです。『草』は『水』に強いです。タイプです、相性です。 そんなごたくはもう聞きあきてるっつーんだよ!! こいつが戦いてえってんなら、それで勝つしかねぇ!!」 リナは無意識に生唾を飲む。 そんな事を言う人は、今までに見た事が無かった。 誰もがタイプ相性を気にしてバトルをする。勿論、リナも例外では無い。 彼が、ゴールドが、眩しく見えた。 当の本人ゴールドは、ワニノコ泥棒の隙を見て、ワニノコへの説得を試みる。 もう指令を聞かなくていいんだ、と。 しかし、ゴールドはワニノコに噛まれ、リナの位置でも五月蝿い位の断末魔を発する。 どうやらワニノコは研究所に戻る気など毛頭無く、トレーナーである銀目と一緒にいたいらしいのだ。 つまる所、ワニノコが銀目になついてしまった。 その時地響きに似た音が鳴り響く。それは下のフロアにまで影響していた。 「……今度は何やらかしたんだか」 頭を抱え、今度こそ踵を返したくなった。 目を凝らして上を見るに、ゴールドが煙を撒き散らしたせいで3階中のからくりが一気に作動したようだ。 下からでもからくりが作動したらしい音が聞こえたのだから。 頼りなのは視覚だけだった。 「ヒノアラシとワニノコが鉄球の上によじ登ってる?」 炎タイプのヒノアラシ、水タイプのワニノコ、鉄球。 「……なるほどね」 主人達はどちらも無茶苦茶だが、ポケモン達はまともな頭の良い子らしく安心した。 ヒノアラシは背中から炎を出したいらしいが、先のワニノコからの攻撃で火力が出ないらしい。 ゴールドが応援するが、火力はなかなか上がらなかった。 遂には、火力が出ないのは銀目のせいだと言い始めた。 その時。 ピクリとヒノアラシが反応したかと思えば、火力が復活した。 そのまま鉄球を熱し、そこに、心無しかパワーが上がったワニノコの冷凍パンチ≠ナ鉄球は見事に割れた。 「す、すげえ。やったぜ、バクたろう!」 格好良く地に着地したヒノアラシに、ゴールドが少し興奮したように言った。 「熱を持ったものを急に冷やすと、温度の変化にたえられなくなって崩れやすくなる。へへ、同じ研究所にいたおまえたちならではのコンビネーションの勝利だな」 そしてちょっと照れ臭そうに「今回は助かったぜ、ワニノコ…」と振り向いた。 しかし、いるはずの銀目とワニノコは綺麗に居なくなっていた。 「なにい!? い…いない!?」 「銀目ならそこの窓から出てったわよ」 「に…逃げられた リナが驚きの飛躍力で3階に上ってきた。 「人間技じゃねぇ……」 「わたし天才だから」 「つか来れんならもうちょい早く……」 「お邪魔かと思って」 放置された事を根に持っているのか、妙に刺々しい態度だった。 困ったようにゴールドは頬を掻いた。 「あ、そういやさっき、なんでいきなりバクたろうの炎が復活したんだ?」 「……さぁ」 ふと疑問を言うと、リナが冷たい声を発する。 そのままリナは踵を返し、ゴールドに背を向けてマダツボミの塔から出ていってしまった。 「なんだ……? アイツ」 謎多き天才少女 (確かあの時) (微かな音が) 20131023 ←|→ [ back ] |