「円形攻撃陣! 壱!」 マダツボミは綺麗に繋がり、横並びした。 「弐!」 左側に居たマダツボミが繋がったまま宙に浮いた。 「参!」 ぴたっと綺麗に円形になる。 マリルがそれを見て目を輝かせ、ぺちぺちと手を叩き拍手する。 無言でご主人が止めたが。 「いあいぎり≠チ!」 「あ、あぶね!」 「うわ、怖い顔」 円形になり、それがブーメランのようにこちらに飛んで来るのだ。 しかも素早く、顔も怖い。 その時ゴールドが「あ!」と短い叫びを漏らす。 リナがそちらを振り向くと、自慢のゴールドの前髪がはらはらと舞い降りていた。 恐らくマダツボミ達の居合い斬り≠ナ斬られたのだろう。 「あ 改めて叫ぶゴールド。その間にお坊さん達は「これぞ修業のたまもの。そなたも修業をつめばこのような…」と言うが、ゴールドの鋭い睨みで黙らされた。 「イヤね、最初はね、イキなり押しかけたオレも悪かったのかな でも、もー頭きちゃったもんね!」 笑みをひきつらせ、青筋立てている。 「修業…いや、勝負してやろうじゃないの! エーたろう!」 頑張れーと他人事のように言い、脇でゲームを始めるリナ。 だがゴールドは夢中で気付かないようだ。 「三角防御陣、壱!」 三匹のマダツボミが並ぶ。 「弐!」 二匹のマダツボミがその上に並ぶ。 「参!」 一匹のマダツボミが更にその上に立つ。 「リフレクター=I」 ゴールドによって飛ばされたエイパムがリフレクター≠ノぶつかりダメージを受ける。 先程の三角防御陣は3秒で作られた物である。 流石の素早いエイパムも、避けられない。 「エーたろう!!」 リフレクター≠ノ当たり落下したエイパムを受け止め、ポケモン図鑑を開く。 「くっそーっ、やっぱし図鑑にあるとおり、ひょろっとしてるくせにメチャすばやいっスねー!」 図鑑の解説には「ひょろっとした体つきだが、獲物を捕らえる時の動きは目にも止まらない程素早い」と表示してあった。 「おまけにあのチームワーク! なんか弱点ねーかー!」 そう言ってる間にもマダツボミ達はじりりとゴールドを追い込む。 しかしゴールドはそこまで焦った顔をしていない事を、リナは知っている。 なにかしら策があるのだろう。 「フフフ。最後の攻撃は、どんな陣形が望みかな?」 「陣形か。なんだか組み体操みたいっスね。倒立とか…やっちゃったりして」 その言葉通り、マダツボミ達がビッと二匹一組で倒立をした。 「扇もできちゃったりして…?」 ビッと三匹一組で扇をする。 「でもまさかタテ一列につみかさなったり…はできないっスよねぇ」 ビシッとタテ一列に並ぶ。引っ掛かった。 陰でリナはにやついた。 「できる! そしてどんな陣形からでも攻撃に入れる!」 「いやーマジですごいっスよ。絶対おいつけない。 おいつけっこないけど、勝負はオレの勝ちっス」 元々壊れて穴が開いていた床下からムクとヒノアラシが出てくる。 マダツボミ達は驚いてヒノアラシを見る。 しかしもう遅い。 ヒノアラシの背中から火がメシと灯る。 「ファイヤ 大きな炎がヒノアラシの背から出火し、下からマダツボミ達を炙る。 『なんだと!!』 「へっへっへ。数とすばやさでかないそうになかったんで、下から一気にあぶれるチャンスを狙ってたんっスよ! こいつを床下にしのばせてね!」 お坊さん達の驚愕の表情を見て、得意気に言うゴールド。 「オレのポケモン、ヒノアラシ。名前はバクたろう。背中がバクハツしてっからね」 (そのまんまね……) 「ワカバタウンでウツギ博士からもらった、オレの相棒っス!!」 相棒≠フ言葉に、あの時、オーキド博士に言った時と同じ感覚が甦った。 この感覚はなんなのだろうか。むず痒い。 「さーて、オマヌケなあんたらに忠告だけど、このままだと、このままだとマダツボミの塔がマックロコゲの塔になるよー!」 「ひいい……!!」 いまだに背中の炎がメラメラとしているヒノアラシを背に、ゴールドは明るく脅迫する。 しかし完全に目が笑っていない。 きっと先程の髪の毛の事をまだ怒っているのだろう。 キキョウ煎餅の時と言い、案外心の狭い奴だった。 # # # 「いやー、よかったよかった。こころよく協力してもらえて」 すっかりマダツボミの塔は、エンジュシティにある焼けた塔≠ノなりかけてしまう位にブスブスと煙をあげてしまっている。 そんな焼けかけたマダツボミの塔≠ノある階段を上っていく。 「みなさんに会ったとき、すぐに『気が合いそうだな』って思いましたよ」 (うそつけ) (うそつけ) (うそつけ) お坊さん+リナは即座に思った。 「さて!」 ゴールドは先に進もうとし、途中で止めた。 「…と、待てよ。ところでヤロー、なんでこんなところに来てるんだ!?」 「……それ今更考える?」 「オイ、坊さん。この上にはお宝でもあるの?」 「ここと同じく修業部屋ですが?」 リナは瞬時に嫌な顔になった。 ここと同じ、と言う事は上にはウツドンを連れたお坊さん達が居て、君は今日からナンデヤネンだ、とかまた命名されて頭をハゲにされてしまうのだろうか。 「まさか今度は、ウツドンの集団が待ちかまえて…」 「それはありません」 同じ事を考えていたらしい。 「広く言えば、この塔そのものが修業の塔! レベルアップのために強者が各地から訪れます。 1階はポケモンの知識のための学堂。 2階はトレーナー戦の技術をみがくための対戦場。 そして3階は己をみがくための修業堂。 本気で進まれますのかな?」 フフフ、と気取って笑うお坊さんにリナは馬鹿らしいと溜め息を吐いた。 だいたい、レベルアップの為の対戦場なら、まだヒノアラシを手に入れたばかりのゴールドに負けるなよと言いたい。 「ああ、オレは本気だぜ! もう一度、探しているヤツの特徴を言うからよく聞きな!」 ビッと人差し指を突き出す。 「@髪が赤くて長くて」 あれは赤というより赤茶な気がしたが、そこはあえて突っ込まない。 「A目付きはメチャ悪くて!」 うんうんと頷くお坊さん。 銀色の目とか言った方が良いと思うのだが。 「Bワニノコをつれていて!」 またうんうんと頷く。 リナとしてはワニノコよりももっと印象深いポケモンがいたが。 「ちょうどあんな感じであろうか!?」 「そーそー、あんな感じあんな感じ」 お坊さんが指差したのは赤みがかった髪の毛をした、目付きの悪いワニノコを連れた銀目の少年。 例のワニノコ泥棒と容姿が見事にそっくりだった。 まさに瓜二つ! …………。 「…ん!?」 改めて見てみる。所謂二度見という奴だ。 すると、やはりワニノコ泥棒本人がワニノコとニューラを連れて立っていた。 「いやがったー!!!」 すぐさまゴールドは「待てっ!!」と階段をかけあがった。 リナはその場で立ち尽くして銀目の少年を見つめる。 銀目の少年、というよりニューラを見つめる。 あのニューラを見ると、何かを思い出しそうになり、不快に胸に違和感を感じるのだ。 やはり自分は彼を思い出したくないのだろうか。 「ワニノコ、きりさく!!」 「うおっ!」 ワニノコの切り裂く≠ノよって階段が音をたてて壊れてしまう。 ゴールドはエイパムの器用な尻尾を使って上へ這い上がるが、階段に上る事自体していなかったリナは下に置いてかれてしまった。 「……引き際、かしら」 寂しげなリナの呟きは誰の耳にも聞こえず溶けていった。 髪の毛を守り抜け (なんて嫌なタイトル) 20131022 ←|→ [ back ] |