ゴールドは例のウツギ博士のポケモン盗難犯である銀目の少年のモンタージュ写真を、窃盗犯である男に見せた。

だがしかし、

「そ…、そんなやつ…知らねえ!!」
「本当か!!?」
「ひいいいっ」
「アンタ、弱い者虐めは駄目よ」
(何気にけなされた……!)
「あら、わたしその写真の人見たわよ」

思わぬ人が目撃者だった。

「なにー!? どこでだ!?」

すぐさまゴールドが食い付く。

恐らく、その目撃現場に行ってその銀目を追いかけるのだろう。

リナには全く関係無い事だが。

「マダツボミの塔の前で! ついさっき!!」


# # #



「これが、キキョウシティマダツボミの塔っスか」

そう、リナには全く関係無い事、のはずだった。

「ちょっと! なんでわたしまで行かなきゃいけないのよ!」
「『30メートルもの大きなマダツボミが塔の中心になったという言い伝えがある』  。本当っスかねー?」
「コラ無視すんな」

問答無用でゴールドのみぞおちに蹴りをお見舞いしてやる。

「ゴフッ」
「アンタなんのつもりよ!」

苦し気に唸るゴールドに、リナは襟を掴む。

「なんのつもりって……」尚更苦しそうにしながら相手を見つめる。

「一人じゃ心細くて」
「うそつけ」
「一緒に居たくて」
「うそつけ」

大法螺吹きの嘘を即答でバッサリ切る。

当の本人は上手く誤魔化せず頭を掻いた。

「わたしは誰とも関わりたく無いの。それで早くカントーに行きたいのよ」
「でもオメェさぁ」

いきなり真剣な目付きをこちらに向けてくる。

思わずリナは身を引く。

「あのヤローが気にかかってんだろ?」
「はあ? そんな訳無いでしょ。あの銀目とは何の関わりも無いし」
「だったら何であのヤローの話になると険しい顔すんだよ」
「元からこういう顔よ」
「それこそ嘘だな」

心の中がじくじくとして気持ちが悪い。

自分だって分からない。

あの少年に会った時の事を思い出すと、いつの日かの記憶が甦りそうで。

無意識にそれを避けている自分がいて。

もう訳が分からない。

「オメェ……なんかに背を向けようとしてんじゃねぇの?」
「……」

ゴールドの言葉はリナにとっていつもイライラさせる物であるが、今回は特に酷い。

まるで本心突かれたような。

「別に無理に来いとは言わねぇよ。とにかくオレはワニノコを盗んだ、あのヤローを見つけださなきゃなんねぇ!!」

ロープを使って屋根に上っていくゴールド。

どうしてそんなに真っ直ぐ何かに向かって行けるのだろう。

リナはゴールドが、ほんのちょこっとだけ羨ましかった。

一瞬、ゴールドがこちらを見る。

ぐっと拳を握ったリナは、答えだとばかりにロープを上手くつたった。

素早く上りゴールドの横に行く。

「……何笑ってんの」
「別にー?」
「はぁ……で、なんでわざわざロープ?」
「もし、やつがここででもなにか盗もうとしてるっつーのなら、今回もこんなふうにしてしのびこんだのかもしんねーだろ?」
「ああ……」

ゴールドにしては良く考えた発想だ。

「やつの足どりをたどるなら、同じように行動してみるのが一番  っと」

古式床しい窓を開けて中に忍び込む。

確かに足どりを辿るには良いかもしれないが、自分達も泥棒みたいになっているのだが。

そして不法侵入とかでは無いのか。

刑務所に入ったら「吐け!」と言われてカツ丼を差し出されるのだろうか。……カツ丼は良いな。

一瞬でそういう思考を巡らせるリナ。

まさかの一人暮らしの癖がここで出るとは。

リナも中に入ると機械が動く大きな音が鼓膜を揺らす。

床は木で出来ていて、歩く度に軋む。

「なるほどー、機械じかけの塔か……」
「大きな歯車の形ね……」

歯車に重りのような物がついた紐が垂れている。

引っ張りたい衝動に駆られたが、引っ張ったら死亡フラグな気がしたので抑えた。

「おっと」

歯車を潜る所で、ゴールドが身を少し屈めて避ける。

チッ、ぶつかれば良かったのに。

「オイ、聞こえてるぞ……」
「あら、御免なさい?」

悪びれた様子も無く真顔で謝るリナに、ゴールドの脱力感は半端では無かった。

もはや怒る気にもなれない。

「さて…あのヤローはどこだ」

きょろきょろと辺りを見渡す。

いつの間にかゴールドの横にいるポケモンはエイパムからヒノアラシになっているが、ゴールドの真似してきょろきょろするヒノアラシが可愛いので突っ込まない。

  っ!
「何よ五月蝿いわね……  っ!?

ズラリと並ぶハゲ頭  もといお坊さん達とマダツボミ。

「そなた達もポケモン武道の修業に来た者であろう!?」

急いでぷるぷるぷるぷると必死に首を振る。

だがお坊さん達は無視。

「新たな修業仲間歓迎申すぞ。拙者はモクネン!」
「チンネン」
「エイソウ」
「ソウネン」
「カクネン!」
「カイネン!」

いや聞いてませんそんな事、という暇も無く。

「そなたは今よりナンヤネンと名乗るがよい。まずは頭をきよめて…」
「ボウズ!!?」
「あはははははは!! ボウズだって!! 案外似合うんじゃない!? あはははははは!!」
「そなたも今よりドナイヤネンと名乗り、共に頭をきよめ……」
「わたしもかい!?」

部外者気取りで笑っている場合では無かった。

「オイオイオイオイオイオイオイオイ!! ちょっと待ってくださいよー!! オレはこの前髪に命かけてんだぜー!!」
「何でわたしまでハゲ頭にしなきゃなんない訳!? わたし仮に女の子なんだけど!! お・ん・な・の・こ!! 日本語わかる!?」
「それにいきなりナンヤネンなんてなんやねん!!? オレにはゴールドっつうちゃんとした名前がありっつ  んだよ!!」
「それを言ったらわたしのドナイヤネンってのもどないやねん!! なんでどっちも似たような意味で関西弁なのよ!!」
「ここには人探しに来ただけっスよ!」
『いきなり誤解すんな  !!』

二人でそう言うと、ゼェゼェハァハァと息をする。

ゴールドはともかく、多くの言葉を喋る事が少なかったので精神的疲労身体的疲労がどっと出た。

思いの丈を全て出した気もする。

「…ということは修業のために来たのではないと!?」
「そうですそうです、ええ、そうです!!」

ゴールドが必死に言い、リナが必死に頷く。

「……マダツボミの塔は本来ポケモン修業の塔。修業者以外の者は足を踏み入れてはならない」

まさか……。リナは嫌な予感がし、お坊さん達から後ずさった。

「イヤでもやっていただきますぞ! ポケモン武道の修業!!」

お坊さん達は一斉に構える。

こんなのはポケモン修業では無い。一方的なポケモンバトルだ。

「マダツボミ!! 空中舞踊つるぎのまい!!」
「うおあ!!」

いきなりで驚くゴールドと、あらかじめ予想していたリナがマダツボミ達の攻撃を避ける。

マリルがそれきたとばかりに身を乗り出す。

「アンタ水タイプでしょ、死にに行くようなもんよ……」

ただしご主人からのお許しが出ずに不完全燃焼で終わってしまった。



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