こういう事には鈍い彼女の事だから、きっと気付かないだろうが、被らせたのには意味があった。



  ぜってー、帰ってくっから。



リナの持っている羽をシルバーと、クリスにも握らせる。

「リナ、シルバー、クリス、おめえらと出会ってから、いろんなとこ行って、いろんなヤツら見て、いっぱい戦っておもしろかったぜ、
 すっげーおもしろかったぜ!」

ゴールドは、最後まで、笑顔だった。





「ありがとな!!」





ライコウから飛び降り、ヤナギが行った方向に飛び込んでいった。

「ゴールド!!」
「ゴールドオォォォ!!」
「ゴ、ルド、ゴール、ド、ゴールドォォォォォ!!!!」

手を伸ばす、が、ゴールドの姿はどんどん小さくなっていく。

被らされた帽子からは、彼の匂いがして、泣きそうだった。

その時、ライコウが、何かに気付いたようにこちらを振り返る。

ハッ、と気づけば、リュックからもぞもぞという音がした。

(そうだ……タマゴ)

育て屋から受け取った、リュウとイエローのピカチュウの  タマゴ。

なぜだか、そのタマゴを見た瞬間に、彼の事を思い出してしまい、タマゴを抱き締めた。




ピチョンと、タマゴに一粒の涙が落ち、


音を  奏でた。




その瞬間に、タマゴに亀裂が入る。

「え……」

ピシピシ、とタマゴの殻は割れていき、オレンジ色が見え隠れする。

そして  

ピョコンッ、と色違いのピチューがタマゴの中から元気に出てくる。



生命の  誕生。



それから、

「新しい……兄弟=c…」

ピチューは状況が分からないのか、キョロキョロしている。

そんなピチューに、少し心が安らぐ。

そうだ。キョロキョロしている場合でも、悲しんでいる場合でも、無いんだ。

今は、ただ、勇敢に立ち向かう彼を手助けすれば良いのだ。

「……今は、悲しんでいる場合じゃなかったわね」

少し放心状態だったシルバーとクリスが、ハッと我に帰る。

「あの空間、光ってるわ!!」
「ゴールドが、戦ってる!!」
「あの場に追い付けないまでも」





『オレ(わたし)たちの攻撃エネルギーを送ることはできる!!』





祠の外から、そして時間のはざまから、一斉にポケモン達の技を放つ。



この技が  ゴールドの力となれ!!!!




# # #





あの空間から、凄い光がした。

「終わった、のかしら……」
「わからない……」

リナもシルバーもクリスも、すっかり疲れたような顔をしていた。



リナは、ヤナギを倒して、それで、どうなるのだろう、と今更ながら思った。

あの記憶を見ていなければ、そんな事は思わずに済んだだろうに。

まさかずっと恨んでいた相手の命を、惜しい、なんて思うなんて。

だからだろうか、リナはいつのまにか、『あの歌』を口ずさんでいた。






もう一度そこから見つめてほしい

あなたを取り戻せる、その場所から

静かな静かなさざなみ

悲しみ疲れた心をいやすの






この歌は、ルナの執事から聞いた歌だった。

なぜこの歌を口ずさんだのか、わからない。





もう一度夢からはじめてほしい

「勇気」を呼び戻せる

その夢から






きっと、あまりにもヤナギにぴったり過ぎたから。





忘れかけていた情熱が

笑顔となって心溶かすの





ヤナギに、送りたかったから  




そうよラプラスの背に乗った

あなたの姿を見た金曜日から

こんな想いがあふれていた






時間は、決して取り戻せない。

けれど、今を見つめる事は出来る。

側にはきっと、大事な人達がいるはず。





そうよあの時のように

でも新しく 輝きたい

輝やくあなたを見たい

そうよあの時のように

微笑みたい

でも新しく

微笑むあなたが見たい




ねぇ、気付いて  



# # #



祠の前では、七人が、戦いの終わりを感じていた。

「オレたちが全員攻撃した後、巨大なエネルギーがはじけるのを感じた」
「ほこらの中で…『時間のはざま』でいったい何が起こったんだ…!?」
「リナ達は、一体……!?」

その時、時間のはざまから、何かがこちらへ向かってきた。

「ム…見ろ!!」

それは三匹の伝説ポケモンと、ぐったりしたリナ、シルバー、クリス、それから二匹のピチューだった。

「クリスさん! ライコウスイクンエンテイ!!」
「シルバー!!」
「リナ!!」

イエローはクリスに近寄り、ブルーはシルバーに近寄り、ルナはリナに近寄った。

「大丈夫ですか!?」
「シルバー、しっかり!!」
「リナっ!? リナ!?」

ルナがリナを起こしながら、隣で頭の跳ねた方のピチューが、ピカとチュカに感極まったように飛び付くのを見た。

その側では、色違いのピチューが、ヒカリとチュチュに近寄っていた。

「…!! はじめて見るポケモン…! もしかしてピカとチュカが持ってたあのタマゴから…」
「え? そうなんですか……?」
「ハイ!」
「そう、なんですか、では、ピカとチュカから生まれたなら……ピチュ、でしょうか?」

なんだか煮え切らない思いがあったが、ピチューの跳ねた前髪に触れながら、名付けた。

ふと、イエローは疑問が浮かんだ。

「誰がこのタマゴを孵したんですか?」

そうイエローが言うと、ルナの胸の中で、今までピクリとも動かなかったリナがビクンと動いた。

顔を見ると、今まで見た事が無い位に、絶望仕切ったような顔をしていた。

「リナ……?」
「…タマゴを孵したのが誰かと聞かれれば、このはねた前髪…ゴールドという男だ…と答えることになる。だが…」

シルバーは、顔を前髪で隠し、重い口調でぽつりぽつりと喋る。

それを聞く度に、リナは強く口を噛んだ。




「ヤツは『時間のはざま』の中で…、
 …散った…!」





ほこらの前にいた人達は、揃って耳を疑い、驚いた。

「仮面の男…ヤナギの野望をくい止め、セレビィを解放する。
 それと引き換えに自らの存在を差し出した…!!」

そう言って間も無く、シルバーが、『時間のはざま』に行っていた反動か、はたまたゴールドを失った反動か、よろけてしまう。

それを支える手がひとつ。

「しっかり立て!」
「グリーン…」

グリーンの行動に、ブルーが柔らかく微笑む。が、

「話はすんだか? だったらオレといっしょに来い!!
 オーキド研究所における図鑑盗難、ウツギ研究所におけるワニノコ強奪の容疑でおまえの身柄を預かる」

ぐい、と掴んでいた手を引っ張り、警察のような事を言う。

「リーグ会場で会った時から怪しいと思っていた」
「ちょっとちょっとちょっと!!」

ルナの胸から離れ、グリーンの元へ駆け出してその頭をひっぱたく。

「なっ……!?」
「アンタ、本当昔から血も涙も無いわね!!
 鬼、悪魔、陰険、ウニ!!!!」
「…………」

リナは、暴言をとにかく並べた。

しかしそれをグリーンは無視して行こうとする。

昔からこんな感じだ。もう慣れている。

リナは焦って、シルバーの腕を掴んだ。

「シルバー……!」
「いいんだ」
「いい……って」
「オレは自分の運命に決着をつけるために生きてきた。そのためなら手段を選ばない、と」

シルバーの言葉を痛い位にわかるブルーとリナは、額に汗を浮かべて、目を逸らすしか無かった。

「しかし今日、その戦いは終わった。
 今、どんな裁きを受けようとなんの悔いもない」

言葉も、出なかった。

けれどシルバーを、否、シルバーも、こんな易々と失いたくは無かった。

何か、何か、言わなきゃ……!!

「さあ、行くぞ…」

嗚呼、シルバーが行っちゃう!!

早く、早く、何か、何か……!!





ちょっと待ったぁ!!!





  聞きたかった声が、した。





「シルバーをしょっぴこうとしている、そこのトケトゲ頭の兄ちゃんよォ!!
 あわててしょっぴく前によォ、ちょっと確かめたほうがいーんじゃねーか?」

ヒラヒラ、と何かの紙が落ちてくる。

それをグリーンは取った。

「その指名手配書とそいつの顔はよォ…、笑っちまうくれえ全然違うぜ!!」

その手配書は、あの嘘のモンタージュだった。



「けど人違いっつーんなら、
 まあ、よくあるこった。気にすんな!



祠の上に、キューを持ったゴールドが、そこにいた。



「ゴ、ゴ、ゴールド!!!
 ど…どうして!!?」
「どーしてだァ? 帰ってきちゃ悪ーのかよ!? あ〜〜〜ん!?」

リナは、クリスとゴールドの方へ駆け出した。

それに気付いたゴールドは、いつもの、あの太陽のような笑顔を見せた。

「おー、リナ! 飛び付いてくんのか? いいぜ、来い  ってぶふぁぁあ!!!!」
「悪いわよォォォォォ!!!!」



リナはゴールドの顔面を思いっっっきり、殴った。



「な、なにすんだよ!?」
「何、人を死ぬほど心配させておいて、のうのうと帰って来てんのよ!! 馬鹿じゃないの!?」

言葉ではそう言うが、リナの顔は真っ赤になっていて、泣きそうだった。

ゴールドはちょっと困ってしまって、目を逸らして頬を掻いた。

その逸らした先に、良い感じに話を逸らせる要因がいて、そっちに行く。

「よっ、麦わらくん…じゃねーや、麦わらギャル! さっきは悪かったな!」
「ちょ、ちょっとゴールド、失礼よ!」

クリスが慌てて、ポケギアのイエローのデータを見せた。

「年上!?」

自分よりちびっこいイエローに、大層驚くと、イエローはちょっと肩を落としていた。

そんな時に、老夫婦と釣り人がこちらに向かってくる。

育て屋の老夫婦と、イエローのおじだ。

そしてその後ろから来るのは、

「おお!! オレの相棒たち!!」

エイパム、ニョロトノ、キマワリ、ウソッキー、マンタインだ。

「あら! この様子、進化したてね。このあたりの岩場には陽光線っていう『たいようのいし』と同じエネルギーが含まれているから」
「あ! ねぇ、ブルー! 確かこの子がニョロゾのもう一つの進化型だよね!!」
「そうよ! 通信進化の方!」
「おお!!」

暫くぶりに会った相棒達と戯れていたゴールドが、二人を見て口許を緩ませる。

「誰だ? このフェロモンムンムンのねーちゃんは。
 しかもあのルナちゃんもいるぜ! 握手して欲しいっス! あ、後サインも!」

ゴールドはブルーのお尻に触れたかと思えば、ルナの手を無理矢理掴み、どこから出したのやらサイン色紙を取り出す。

  ボカ!!!!

「汚ない手でねえさんに触るな!!」
「右に同じよ!! 何が握手よ!!」
「て、てめ〜ら」

先程リナに顔面を殴られたというのに、今度はシルバーに左頬を、リナに右頬を殴られる。

「なにすんだ、シスコンビ!! ちったぁオレに感謝しやがれ!!」
「うるさい! 話が別だ!!」
「誰がシスコンよ!!」

三人は殴りあいを始めてしまった。

それを見て、呆然とするレッド、ルナ、ブルー。

クリスは涙を拭っていた。よかった、と。

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