決着を!!


  どうして!?


  愚かなのはどっちだァァァ!!!!


  ぜってー、ぜってー逃がすかよ…。


  見てみろ!


  このままじゃ…こんなわたしじゃ、約束を果たせない。


  わたし、天才だから。


  よ!!


  戻りました。


  ハァ…ハァ…でもよ…、ちがうよな? たとえほかのもんはそうでも、ポケモンだけはちがうよな?


  馬鹿。


  きゃああ!! 不良が3人!!


  オレの勘が正しければ、それはおそらくこの巣を襲った攻撃者でもある! すべては仕組まれていた!


  時間(トキ)!?


  アンタにもいたんでしょ!?


  おまえの相手は…、このオレだ!!


  クリスと呼んでください。


  お姉ちゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!!!!!!!!!


  な〜んて言うと思うか? カ〜〜バ!!


  最後の任務だ!!


  シルバー、教えてくれ!!


  ピピピピピピ。







四人はゴールドの帽子に付いてる羽により、時間のはざまを駆けていた。

時間のはざまは、その名の通り時間の流れを感じさせる空間だった。

「これが…『時間のはざま』!?」
「過去の出来事が現れては消えて行く!」
「これはここにいる者の過去を見せるのね……!」

でなければ、ゴールド、シルバー、リナ、クリスの他の記憶も大量に出てくるはずだ。

そんな時、シルバーはなにかの過去を見付けた。

「見ろ!!」

言葉通りに見てみると、そこには黒い髪の若い青年がラプラス二匹と共に極寒の中に突っ立っていた。

……そうだ、この空間にいる者が他に一人いるじゃないか。

「ヤナギ老人だわ!! 若いけどわかる!!
 これはヤナギ老人の…過去!!」

ヤナギは、地割れに遭ってしまったラプラス二匹に手を伸ばしていた。

だが、その努力も空しく、ラプラス二匹は地割れの餌食となって消えてしまった。

『ラ・プリスゥゥ!! ラ・プルスゥゥ!!』

ヤナギ青年は、二匹を失った事によって膝を付いて涙を流した。

その時、懐に入れて温めていたタマゴに、亀裂が走る。

そして  二つの命を失い、一つの生命が生まれた。

『おおお』

涙を流しながら、今生まれた生命に、感動も覚えていた。

だが、子ラプラスがキョロキョロと親を探すので、悲しみは倍になって振り返す。

「す、すまない。私がトレーナーとしての判断をミスしたばかりに…」

猛吹雪の中、ヤナギ青年はラプラスを抱き締めながら、涙を流し続けた。

「許してくれ。私を許してくれ」

許してくれ、

許してくれ、

許してくれ、

ずっと、ヤナギ青年は壊れたラジオのように、その言葉を繰り返し繰り返し呟いていた。



「見たな」



今まで聞いていた声を、少ししゃがれさせたような声が、空間に広がった。

『ヤナギ!!』
「てめえが取り戻したい過去っつーのはまさか…」

ゴールドの問いにはすぐに答えず、一つのモンスターボールを出した。

「紹介しよう。私のラプラス、
 名前はヒョウガ!!」

モンスターボールから見えるラプラスは、あの吹雪の中、生まれた生命だった。

体格はとても良くなっていたが、純粋な瞳は何一つ変わっていなかった。

「このヒョウガのために私は過去に戻る!
 あの時に失った2匹、ラ・プリスとラ・プルスを救うのだ!!」
「それだけのために! たったそれだけのために!! 今までの全部が計画されたっていうの!?」
「クリス。確かにわたし達にとっては、それだけかも知れない。でも、ヤナギにとってはそれだけじゃないんだよ」

クリスが理解に苦しむ、という顔をしている。

確かに、それだけのように感じる。だけど、誰にでも変えたい過去はあるはずだ。

ルナだってリナだって、両親がいないから必死に支えあって生きてきた。

二人でいる事に充実感を感じながら、どこかであの幸せをもう一度、と思ってしまう。

特にルナは、そうだった。

平気なフリをしても、ふとした時に思い返して、涙を流してしまう。

表面では笑っていても、心の中では泣いていた。

どうしてあの時、と  

「そうだ!! おまえたちにとってはそれだけのことであっても!! 私にとっては生きていくすべてだったよ!!」

刹那、ゴールドの帽子に何かが掠め、羽が外れてしまった。

「あ!!」

その瞬間に、四人と三匹の体が鉛のように重くなっていく。

凄い圧力が体に襲ってくる。

「…そしておまえたちにはひとつウソをついてしまったな。
 私にとってポケモンとは『道具』であると言ったが、あれは正確じゃあなかったなあ」

ウリムーの背中に手を当てながら、少し声を落ち着かせて言った。

正しくは愛すべき存在!!
 愛して愛して愛しぬく!!『道具』とはその愛を貫くために利用するその他一切のもの!!


愛すべき存在、それはきっとラ・プリス、ラ・プリス、そしてヒョウガなのだろう。

愛が強い故に、歯車がずれたように暴走をするヤナギ。

元は、ただのポケモンを愛すトレーナーだったのだ。

「そのまま時間のうねりに押し潰されるがいい!! ほこらの前の連中も、もうおしまいだ!!」

リナもゴールドも、体を動かそうとするが、思うように動かない。

「さあ、セレビィ!! 急ぐのだ!!
 早くこの私をあの時へ!! あの時間へ!!!」

そう言ったヤナギを見るセレビィの目は、不思議な色をしていた。


# # #



ほこらの周りでは、どんどん絶対零度により氷が広がり、凝結を始めていた。

という時に、レッドとルナは気になる事が一つ。

「イエロー、おまえの髪…」
「えと、イエローさん、あの、それって……カツラとか、じゃないですよね……」
「レ、レッドさん、ルナさんこれは…」
「その話はあとにして!!」
「今はそれ所じゃねぇよ……」

自身の髪を抑えて狼狽えるイエローに、ブルーとリュウは突っ込む。

本当にそれ所じゃない。今は氷の事を考えなくては。

「森全体が凍結する! 溶かしてもすぐ復活してくる!! まさに永久氷壁!!」
「あいつの氷は特別なのよ!! 有り得ない位に!!」

グリーンのリザードンがグリーンの氷を溶かそうとするが、すぐにまた形作ってしまう。

ナナは苛立ちに足で氷を蹴る。

「でもどうして? リザードンやそっちの炎ポケモンの火炎では氷人形はすぐ復活するのに、
 クリスさんたちの氷人形は…」
「復活する気配…なし、溶けたままだ」

イエローの言葉を引き継ぎ、グリーンがそのクリス達の氷に目をやった。

「伝説のエンテイ! その炎だけは特別なんだ!! エンテイの炎だけはヤナギの作り出す氷を完全に溶かしきることができる!!」
「特別には特別って事ね!」
「じゃあそこにわずかに残ってるエンテイの火種、それを森全体に広げられれば!!」

白い息を吐きながらイエローがそう言うが、

「動けないのにどうやって!? できるわけが…」
「いや! 方法はある!! カメックス!!」
「ええ!? カメックス!?」

なぜこの状況で水タイプのカメックスなのか、レッド以外訳が分からなかった。

だが、レッドは確信していた。きっと火種を広げられると。

「ブルーから借りていたカメックス、水泡(キャノン)の水が尽きた時に補給したんだ!! シロガネ山の秘湯の源泉を!!」

「待てよ、秘湯の源泉?」リュウが何かを思い出す素振りを見せた。

だが、グリーン達には有り得ない組合わせだった。

「レッド、正気!?」
「炎を広げるために水流だと!?」
「………いえ!」

突然ルナがブルーとグリーンの言葉を掻き消すように声を発した。

驚いて、全員がルナを見ると、



ルナは向日葵のような笑みを浮かべていた。



漏れる息は白く、頬は寒さのせいでほんのり赤みがかっている。

笑みの先は  レッド。



「レッドを、信じよう」



そんな優しい言葉を言われては、誰もが笑みを浮かべて、レッドを信じるしかなかった。

レッドは、ルナに笑いかけながら頷き、カメックスに合図を送る。

するとカメックスは火種に向かって水流を吐き出した。

その水流は、水流以上の物となり、全員の氷にかかった瞬間に、溶け出した。

「!?」
「どういうことだ!?」

溶けたのは良いが、どうして水流がこんな威力の高い炎に膨らませたのだ。

「ハァ、ハァ…シロガネ山の秘湯の別名は炎(ファイヤー)温泉。つねに発火性の高いガスをまとい、触れた炎の威力を増大させるんだ!」
「なるほど……! 凄い!」
「さあ! ほこらに入って行った4人に加勢だ!!」

七人と十匹が祠に向かって走り出した。


# # #



「う…ぐ」
「ハァ…ハァ」

四人は、過去の記憶が通り過ぎていく空間で、三匹の伝説ポケモンに乗りながら、体を這いつくばらせていた。

  オレのリュック返せ  !!

  リュック? 知らないな。

「ハァ…ハァ…見ろよ…ワカバでのオレたちだぜ。
 思えばあん時リュック泥棒をおめーだと思いこんで…それがすべての始まりだったんだよな」

シルバーを、リュック泥棒だと思い込んでいなければ、ゴールドはこうして旅に出てはいない。


そして、リナに会う事も。


これはある種の運命の悪戯という物なのかも知れない。

「…へへへ、言うの忘れてたけどよ、悪かったぜ。ありゃあオレの勘違いだった」

ゴールドは少し手を動かし、シルバーに親指を立ててみせる。

それから、重い体だからか、弱々しく言葉を紡いだ。





「ゴメンよ」





なんでそんな事を言うの?

リナは目を疑う以上に、凄く、悲しくなった。

まるで、これで、終わりのような  

「今、言っとかねーとな…くっ、なんせもう二度と、お天道さんを…おがめね…えかも、し…れ…ね…え」

手を伸ばしながら、そう、言う。

どうして……、

いつもなら、こんな事でもポジティブに、そして、リナにも考えられないような発想でなんとかしてきたじゃないか。

なんで、どうして、

「なぜ…ここまで…おまえがここまでして戦う必要がどこにある? オレのため…か?」
「バカ言うない、…誰がおめーなんかのために」
「!」
「…ずっと考えてたぜ、『何のために戦うのか』って…な」

シルバーとリナは、ずっと復讐の為に戦ってきた。

だったら、それにいつも関わってきた自分は何のために戦うのか。

誰の為? 何の為?


「誰かのためとか、何かのためとか、オレにはやっぱし恥ずかしくて言えねえ。
 オレの戦いは自分のため…オレ自信の戦いだぜ…!!」


自分は、自分のやりたいように、自分の意思で全てを為す。


「まあ、ただ、オレがオレのために起こした自分勝手な行動でも…最後に誰かの役に立つ…つーなら悪かねえな」


重い体を無理矢理動かし、額が汗で一杯になる位に手を思いきり伸ばす。

そして  ガッ、と掴む。

掴んだ瞬間に、楽になっていく体。

ゴールドは振り替えって、リナの方を向いた。

そして、顔を見ると、リナは張り裂けそうな顔をして固まっている。

天才な彼女の事だ。これからゴールドが何をするのか、予想が出来ているのだろう。

ゴールドはそんなリナの手を掴み、しっかり羽を握らせた。

それから  自分のゴーグル付きの帽子を彼女に被らせた。

「……ッ」漏れた声はそれだけだった。

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