「『時間のはざま』の中で私の氷壁にはさまれると、フフフ、どうなるか…」

ヤナギが親指でくいっ、と祠の中を指差した。

そこには一枚の大きな薄いプレート。

否、違う。そのプレートの中にいるのは  




『ゴールド!!』




  ゴールド本人だった。

ゴールドは立体的な二次元へと成り果ててしまっている。

「さらばだ、諸君!」

ヤナギが祠の中へ飛び込んだ訳でも無いのに、祠の前に行って光を浴びただけで、消えてしまった。

「ヤナギが消えた!!」

体に自由が利くシルバー、リナ、クリスは祠の前へと駆け寄った。

しかし、ヤナギの姿は跡形も無くなっていた。

「くううう!! あんにゃろおお!!」
「ゴールド!! アンタ、なんて姿になってんのよ!!」

その言葉に、やっとゴールドはこちらに気付いたらしい。

「おう、リナにクリスにシルバー!! それにその他大勢か!!
 ドちくしょうめ!『時間のはざま』の入口まで追いかけたまではよかったんだがよォ!!」

そんな事を言っているゴールドに、シルバーが「つかまれ!」と祠の中に手を伸ばす。

すると、シルバーの手は祠の中で異様な位にまで曲がりくねる。

急いでリナがシルバーの肩を掴んで祠から手を抜かせる。

シルバーは突っ込んだ左手に、痛みではなく、手の違和感と少しの痺れに呻いた。

「気を付けろ、シルバー! こん中はねじ曲がった異空間!
 なんの用意もなく入ったら、たちまちオダブツだぜ!!」
「だったらなんであの男は祠の中に入れた訳?」
「それはヤツが…ヤナギがこの異空間の中で動けるのは守られているからだ!!
 あのボールの中には2枚の羽が仕込まれていて、ヤツはその影響下にいるからだ!!」

その言葉に、隣り合っていたルナとイエローは、顔を見合わせた。

「イエローさん、もしかしてあのエンジュの時の事って……」
「は、ハイ! ボクはあの場所を焼けた塔の地下だと思ってたんですが……違ったんですね!」
「はい。きっとそここそが」
『「時間のはざま」!!』

だが、どうしてルナとイエローはあの場所に入り込む事が出来たのかと、考え込む。

「オレたちもあの2枚の羽を持ってりゃ……」
「ルナ! あの羽だ!!」
「ええ!?」
「あの時、ヒカリと一緒に渡したのは、羽なんだ!!」
(だ、だから私が入れたんだ……)

なるほどと納得しながら、よし、じゃあ羽を、と思って止まる。

羽は……バックに付けている。

バックは……、



凍っている。



「あぅあぅあぅ……」
「……ご、御免、オレが悪かった」

だばーっ、と泣き始めるルナに至極申し訳無さそうに言う。

御免、本当に悪かった。だからどうか泣き止んで……。と言っても泣き止んではくれない。

手が拘束されていないので、ルナは手で顔を覆って号泣する。

というか、あの、視線が痛いんですけど。

特にレッドとリナの視線が凄まじく怖い物であった。

「クソーッ、他になんかねぇのか、他に…………あ?」



ああああ!!!



ゴールド、イエロー、リュウが、他の羽の存在に気付き、声をあげた。

「オイオイオイ、おまえらなにボーッとしてやがる! オレが自由になる方法がそこにバッチリあるんじゃね〜か、コラ!!」
「ほ、方法って!?」「どこに?」
「目ん玉ひんむいてよく見ろ!!」

クリスとリナが言うと、ゴールドは苛立ったように叫ぶ。

リナはその口調に、祠に閉じ込めてやろうかと思うが、本当にそんな事をする訳は無い。

「そこで凍ってる麦わらくん!
 帽子にささってんのは、まさしく『ぎんいろの羽』と『にじいろの羽』だ!!」

麦わらくん  イエローの麦わら帽子には確かに、銀色に輝く羽と虹色に輝く羽が突き刺さっていた。

急いでクリスとリナがイエローに近寄る。

「え〜、本当なんですか、イエローさん!?」
「だったら早く出しなさいよね」
「ハ、ハイ! …あれ?」

ぐいぐいと引っ張ってみるが、なにしろ三年前から刺さりっぱなしの羽だ。簡単には外れない。

「ん…く、はずれない…」
「取りゃいいだろ、帽子ごと!!」

イエローの黄緑の瞳が見開かれ、やがて揺れ動く。動揺の為だ。

帽子をしっかり抑えて、左右にいるレッドとルナをチラチラと見る。

「で、でも…」
「何がでも、だ!」
「察してやれ……金太郎」
「金太郎ってオレの事かよ!?」

リュウはイエローがどういう気持ちで帽子を被っているか知っている為、ゴールドに言うが、愛称の方に意識が行く。

というか苛立ちが増した気がした。

「あーもーじれってえ!! だったらバクたろうに取らせるぞ!!」

横に立っていて手が空いているバクフーンが、「ボク?」みたいな顔をして自分を指差している。

それでまた焦りが増したのか、イエローは顔を真っ赤にして、麦わら帽子を掴む手に力が籠る。





わかりました!!
 自分で取ります!!






帽子の中からは綺麗な金髪が姿を見せた。

日に当ったその金髪は、本当にキラキラと輝いていた。

イエロー・デ・トキワグローブ。

性別  女。

それは、約二名を固まらせる事実だった。

レッドと、ルナだ。

思考が追い付かないのか、二人は目を丸くし、口をほんの少し開けながら微動だにしなかった。

イエローが女だという事を知っている者で、唯一動けるリナはどさくさで麦わら帽子をイエローの手から奪い、祠にかざす。

すると、硝子が割れるような音がし、ゴールドが落ちてきて、それをライコウが受け止めた。

「よっしゃああ、助かったぜ麦わらくん…って、
 なんだあ!? 麦わらギャルかあ!?」

ゴールドも知らなかった事で、可愛らしいポニーテールを見て驚いた。

「しかもなんかビミョ〜に気まずい空気…。ま、いっか」

レッドとルナは相も変わらず微動だにしなく、ブルーは咳き込んで誤魔化し、グリーンは呆れていて、リュウはだから言ったのにという顔をしている。

「この帽子をとるっつーだけで、アンタにはアンタの戦いがあったんだな、麦わらくん!」

真っ赤な顔をして恥じらうように俯くイエローは、本当に可愛らしい女の子だった。

「さて、この2枚の羽は持ってくぜ! これで『時間のはざま』に飛び込んでも、動けるはずだ、ヤナギのようにな」

すると、ザッ、とシルバーがエンテイに乗り、クリスがスイクンに乗り、リナは問答無用でライコウ、つまりゴールドの後ろに乗った。

口元には三人共、笑み。

聞かずしてもわかる三人の胸中に、ゴールドも、ヘっと笑った。

「おめえらも来んのかよ? な〜んて聞くだけ野暮だな」

そして三人は  祠の中の『時間のはざま』へと飛び込んだ。




「行くぜ!! 時間を!
 時間(トキ)を越えろおおおおお!!」




そのゴールドの雄叫びは、時間のはざまに、そして三人の耳に木霊した。



(過去なんて、)
(振り返っちゃ)
(駄目なんだ!!)


20140201

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