「(そうだ!)ヴェルテ! そのままクレールに向かって10万ボルト!!」
『!?』

二人が技の指示が止まる位に、リナの事をとち狂った人を見るような目で見る。

それもまた、作戦の内。

ランターンはデンリュウの電気を蓄電≠オ、まるで電気を食べたかのように美味しそうな顔をする。

ランターンからはパリパリと電気が漏れだしている。

「! これってもしや!!」

リュウが声をあげる。だが  遅い!!



「クレール、10万ボルト<Hォオ!!」



リナにしては珍しい位の大声に合わせて、ランターンから激しい電流が弾けた。

それは真っ直ぐにウインディとニャースに向かっていく。

ニャースもナナも、すぐに対処出来ずに、青い顔をしている。

ドォォォォオオオンッ!!!!

凄まじい轟音が鳴り響く。煙も辺りに立ち込め、暴風を引き起こしてリナの髪を揺らした。

これできっとウインディとニャースは  そう、思った。



  しかし、



「よくやった、ヒエン」

ウインディとニャースはぴんぴんで、特に外傷は見られなかった。

「嘘」
「え?」
「ランターンの不思議な特性がある事、知ってたよ。情報屋、嘗めんなー?」

ニィ、と笑うリュウ。

しまった、やられた……。リナはよりにもよって、この男に騙されるなんて癪でしょうがなかった。

「さっすがリュウね!」
「お前同業者だろうが……なんで知らねぇんだよ……」
「あたしは調べなきゃいけない事しか調べないの!」
「それって明らかに効率悪いだろ……」

そんな事を言ってる場合では無い。

「ヒエン、神速=v
「ッ!」

神速≠ヘ必ず先制攻撃が出来る、かなり速い技だ。こんなのが避けられる訳が無い。

ランターンはウインディの大きさ、そして重さによって木へと吹っ飛んでしまう。

「クレール!!」

木に叩きつけられたランターンは、戦闘不能にはならなかったが、辛そうに歯を食い縛っている。

「……いいわ、戻って」

その言葉を聞いた途端に、ランターンは戻りたくないかのように起き上がろうとした。

だが、それをリナは許さなかった。

「戻りなさい」

強い口調で、もう一度言われる。

ランターンの体がビクリと跳ねた。誰でもそうなってしまうだろうが、大好きな御主人に言われてしまえば、何倍にでも恐怖は膨らむ。

怒られた事では無く、嫌われる事に、だ。

「……無理、して欲しくないの」

だが、嫌われた訳でも、怒った訳でも無いようだ。

ただ、心配して  

ランターンは寂しそうにボールに戻っていった。

それを見て、リナは柔らかく微笑む。

と思えば、真剣な顔で顔をあげ、マリルリに視線を向けた。

「……最後は、やっぱり貴方に頼る事になるわね」

フッ、と笑えば、マリルリはいつもより頼もしく、御主人の笑みを真似した。






「行くわよ、兄弟=I」






ザッ、と地を鳴らし、リナの前に兄弟≠ナあるマリルリとデンリュウが守るように立ち並ぶ。

「フルート、ウインディにハイドロポンプ!! ヴェルテ、ニャースに雷パンチ!!」

マリルリは弾むように飛び跳ね、上空からハイドロポンプ≠し、デンリュウは森の木々を利用し、ニャースの背後を取り、雷パンチ≠埋め込む。

「ヒエン!」「カモミール!」

素早い攻撃に、ウインディとニャースは何も出来ずに、食らってしまう。

しかし、すぐにやり返せない位に、二人は弱くは無かった。

「飛んでしまえば避けるのは難しいはずだ!火炎放射!!」
「あたしのカモミールの素早さ嘗めないで頂戴!乱れ引っ掻き=I」

マリルリは、リュウが言ったように、着地するまでは避ける事が出来ないようで、まともに食らってしまった。

水タイプに炎タイプは今一つだが、あの状況下だ。きっとそれなりにダメージを受けたはずだ。

「! 何!?」

だが、マリルリは思った以上に、全く効いていなかった。

そんな……力量(レベル)も断然こちらの方が上のはずなのに。

一方で、デンリュウとニャースの戦いはというと。

デンリュウは全くダメージを受けていなかった。

なぜなら、ニャースは麻痺に犯され、攻撃をする状況じゃ無かったからだ。

雷パンチ≠フせいでそうなったのか。或いは、それ以上の理由があるのか  

リナは当然、どちらの隙も見逃す事はしなかった。

「フルート、ヴェルテ!!」

そう、名前を呼んだだけ。技を言うだけで、時間(トキ)は流れてしまうから。

だから後は、何も言わなかった。

それなのにマリルリはウインディに最大限近付いてハイドロポンプ≠吐き出し、デンリュウはニャースを羽交い締めにしてから雷≠撃ったのは、きっと  



「勝った」



  互いが互いを想い合い、理解し合っているから。



リュウとナナはただただ、唖然としていた。何が起きたのか分からないというように。

やがて、リュウは「へぇ」と怪しげに微笑んだ。

それを見たナナはリュウの脇をパシッと叩く。

「笑ってる場合!? 早く次のポケモン出しましょうよ!!」
「次? 次なんてねぇよ」
「はぁ? まだポケモンいるじゃない!!」
「どちらにせよ、ヒカリがいねぇし。それにもう終わったんだよ」
「終わりって……」

不満たらたらなナナに、リュウは清々しく笑ってリナを見た。

ちょっとドキッとしたのはいきなりの事だからだろうと思う。

「あいつは六匹だした。オレ達も二人合わせて六匹出した。ほら、オレ達の負けだろ?」
「こっ、これは正式なバトルじゃないのよ!?」
「何言ってんだよ、バトルはいつだって正式で、負けた時は潔く、だ。敗者に言う事は何も無い」
「だってこれは……」

ナナの言葉は段々と力を失い、消え失せた。

納得はしていない。でも、リュウの言う事なら、納得をせざるを得ない。

惚れた弱味、というよりは、リュウ絶対理論が頭の中にあるのだ。

リュウが今まで大丈夫と言った事は大丈夫だったし、駄目だと言った事は駄目だった。

だから、何も言わない。

「じゃあ、通して貰うわよ」
「ちょっと待てよ」

パシッ、と掴まれる手。

コイツ絶対わたしがスキンシップ苦手なの分かってやってるだろ。とか思って滅茶苦茶イラッとする。

「何」
「オレ達も行くぜ。最終決戦、って奴にな」
「はぁ?」
「え、あたしもー……?」
「オレ等はもう、じーさんの言いなりにはならねぇ。だから  

手は掴まれたまま。真剣な漆黒の瞳が、さっきの無機質な瞳と打って変わって、生気を帯びてリナのダークマゼンタの瞳とぶつかる。

そして、はぁぁぁぁあ、と深い溜め息を吐き、渇いた音をたてて手を振り払った。

「お好きにどうぞ」

わたしが決める事じゃないし、とリュウから背を向けながら言う。

プッ、と素直じゃない彼女の頭をわしゃわしゃと掻き乱しながら、リュウは笑った。

ナナが羨ましそうに見つめ、リナが鬱陶しそうに真っ赤な顔でキャンキャン文句を言っていた。



さぁ、行こうか、最終決戦へ  



過去を断ち切り、未来へ
(もう、この悲しい戦いを)
(終わらせよう、じーさん)


20140131

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