小さな体はレッドの上を飛び越え、レッドの向こうに行く。 「ウ シバが奇声を発し、ポケモンと自分の気を同調させる。 「ハーッ!」 するとバルキーは壁に向かって拳を振りかざした。 「この先まっすぐ掘り進んでいくつもりだったんだろう? 目的地までは最短ルートだが、このあたり一帯は強固な岩盤地帯なのだな」 バルキーが殴った事により、崩れた岩盤を見て、三人はまさか、と驚きに口をぽかんと開けた。 二人は敵では無く、寧ろ、 「手伝おうじゃないか」 「ウハハハハハ!! 我われはおまえたちと戦いに来たのでは無い!! 助けに来たのだ!!」 「な、なんだって!?」 まさかの助っ人に、レッド、グリーン、ルナは耳を疑う。 かつて、敵として戦っていたというのに、なぜ急に。 「オレたちはリーグをめちゃめちゃにしたヤツと戦いに、ウバメに行くところだったんだ。そこにおまえたちが来たから、てっきり敵の一味だと…」 「クククク、では言っておこう! オレもシバ殿も、もう二度と誰かの配下につくことはない。 オレたちが追求したいのは自分たちの戦いだけだ。おまえたちには…、それを伝えたかった」 その真っ直ぐな瞳から、今の言葉が真っ赤な嘘だとはとても思えなかった。 きっとそれは、キョウと、それからシバの紛れもない本音。 それも含めてなのか、グリーンが暫くキョウを見据えてから目を閉じ、フッと笑った。 「生きていたんだな?」 「ああ。あの時スオウ島で『ベトべとんの術』で地下から逃れたオレだったが、 激しい島の地殻変動で身動きがとれなくなってしまっていた」 その時、キョウを助けたのがシバらしい。 シバは元々戦いが好きなだけの善人だ。放って置けなかったのだろう。 「グリーン…、おまえとともに戦った四天王戦、その中でオレはある感情を持った。 それは自分自身を研ぎ澄ます事で得られる戦いの充足感だ!」 四天王戦でグリーンと手を組んだ、キクコとの戦い。 あの戦いで、キョウはロケット団としての冷徹な感情が、変化した。 「これまで主君のために生きてきたオレが、はじめて自分の戦いをつきつめたいと感じた。 時を同じくして出会った、似た考えを持つシバ殿。オレとシバ殿は互いに修練しあう友となった」 シバだって、ただの戦いを好むトレーナーであっただけで、事件を起こす気等無かったのだ。 また、その時に戦ったレッドのお陰で、尚更バトルの楽しさ、充実感という物を感じる事が出来た。 本当にキョウとは、どこか似ていた。 「グリーン!! そしてレッド!! おまえたちとの再戦を果たすために!!」 シバが、キョウの言葉を引き継いだ。 「その意気込みでリーグ会場に行った! おまえたち2人も必ずあの場に来るはずだとふんで…」 「ところがあの騒動だ!!」まるで苛立ちを発散させるかのように、シバはバルキーと共に岩盤に拳を埋めて崩した。 確かに、再戦する余裕など、これじゃあ無い。 「本心を言えば今すぐにでもここでおまえたちと戦いたい。だが先を急ぐおまえたちを引き止めることができないのも知っている」 キョウとシバは、拳を掲げ、こちらに拳の裏を見せる形になる。 「だから今は言って来い!! そして勝って来い!!」 「そのあとだ!! 修練をつんだ我らと手を合わせるのはな!!」 ルナは二人の言葉に、ほっと息を吐く。 二人共、組織に縛られる事無く、ただ純粋に好きなバトルをやりたがっている。 今はもう悪の組織では無い。バトルが好きなただのトレーナーだった。 「さあ! 今のが最後の岩盤だ!!」 シバがそう言うと、レッドとグリーンは互いに顔を見合わせ、頷いた。 「わかった!!」 そして、またウバメに向かうべく、シバが掘ってくれた穴を通ろうとする。 するとシバはまだ何か言う事があったらしい。 「そうだ、レッド!」 「え?」 「セレビィというポケモンを知っているか?」 「セレビィ?」 レッドがグリーンとルナの顔を伺うが、二人共首を振ったので、またシバの方を向き直した。 「初めて聞くけど…それは?」 「別名『ときわたりポケモン』。その名のとおり、時間(トキ)を渡る能力を持っているらしい。 セレビィを手中にしたものは過去にも未来にも行けるという」 そんな神様みたいなポケモンがいたのか、とルナは驚愕すると同時に、好奇心が沸き立った。 いけないいけない、今研究家の助手としての好奇心が出てどうするのだ、と自分の頭をぽかりとぶった。 「なぜ、そんな話をする?」 「さっき目的地はウバメの森だと言っていたからだ。ウバメこそセレビィの逸話が残る場所…。かつてワタルから聞いたことがある」 そういえば、リナがどこかに行こうとしていたが……まさか、ね。 「もしかすると…、この騒動の核心ではないかと、そう直感した」 「そうか…! 覚えとく!!」 シバのその一言を最後に、三人はサイドンで更に奥へと突き進んで行った。 因みに、また胸の中に収められるなんて事態、とてもじゃないが耐えられないので口は押さえている。 「!! グリーン、見てくれ!!」 「進路か? 右、左、どっちだ」 「右でも左でもない!!」 ルナも、レッドの手にある運命のスプーンに目線を向ける。 「それって!」 「ああ!」 『真上だ!!』 その運命のスプーンの導き通り、真上に掘り進め、やがて外へと出た。 今まで空気の薄い穴の中にいたので、空気の美味しい事と言ったら無かった。 「ふはぁ……」 「ここが目的地か!!」 確かにウバメの森というだけあって、トキワの森と似た雰囲気が薫る。 否、ウバメの森の方が入り組んでいて、迷子になってしまいそうだ。 「これは!?」 グリーンの声に反応すれば、神聖な祠がそこにはあった。 確かに、セレビィというポケモンがいるらしいだけあって、凄く神々しかった。 それにどことなく、光ってる気さえする。 「『ウバメの森のほこら』。『森を護りしものの場所』だって?」 「まるで神様が祀(マツ)られてるみたい……」 「これってもしかしてシバの言ってた…」 「まちがいない。まさに逸話の地そのものに出たわけ…」 言葉を遮られるように、グリーンは何かに気付いた。 「グリーン、どうした?」 「グリーン?」 「かすかに鳴ってる」 「何が?」 すると、グリーンは上着のポケットから「アレ」を取り出した。 それは本当にかすかだが、小さく音を発していた。 「オレとおまえのポケモン図鑑が」 「え!? じゃあブルーもこの場所に来てるのか!!」 「ブルーが!? どこどこっ!?」 急いでキョロキョロとするが、どこにもブルーの姿は確認出来なかった。 ルナはブルーがいないと思ったら、しょぼんとしてしまう。 ちょっと、というか結構、がっくり。 「ブルーといえばレッド、おまえの持っているカメックスは…」 「ああ、ブルーから借りてるんだ」 レッドは懐(フトコロ)からカメックスのボールを取り出す。 そこには確かに、ブルーのカメックスが収まっていた。 「シロガネ山へ行く途中で偶然会った時、危険な場所だから持って行くといいって…。 でもカメックスはブルーの飛行手段でもあるだろ? いいのかって聞いたんだ。そしたら…」 『そしたら?』 たまたま、グリーンとレッドへの問いが被る。 「『空を飛ぶことの心配はもういらないから』って。どういう意味だったのかなあ?」 「おそらくああいう意味だったんだろう」 「え?」 グリーンが差した方向を、素直にレッドとルナが見やる。 すると、驚きの光景がそこにあって、レッドとルナは一緒になって目を見張った。 「ブルー!!」「ブルー!?」 ブルーは、上空でファイヤーに乗り、フリーザーとサンダーを携え、銀色の鳥と虹色の鳥と対峙していた。 無意識だったんだ (久しぶりに会ったからか) (君と触れ合いたかった。) 20140130 ←|→ [ back ] |