グリーンは今、カントーにあるポケモンリーグ会場から乗った列車(リニア)で、前方にある窓を睨み付けながら、額に汗を流していた。 今の今まで、列車(リニア)内の腐る程(勿論比喩で、実際にゾンビになったりとかはしないのだが)いたロケット団をジムリーダー一同で片付けていたのだ。 しかし、マチスによって列車(リニア)は中央で分断されてしまった。 それにより、前方のグリーン等が乗っていた列車(リニア)のスピードは、加速する一方だった。 ポケモンの力で、直接、地殻に震動を与えて、そのエネルギーで車両を止めようともしたが、イシツブテ六匹の力では不可能だった。 なんとかプログラムが修復でき、時間はそれなりにかかるが、やがて列車(リニア)は止まると思った矢先、路線が行き止まりだという事に気付く。 引き込み線にレーンチェンジをしてしまっていたのだ。しかも、ブレーキが働くための距離が圧倒的に足りなかった。 このスピードで行き止まりに突っ込んだら 後は想像するに難くない。 その為、冒頭の状態に戻る訳だ。 「もう…ダメだ!!!」 タケシが視界に段々と見えてきた行き止まりに、思わず弱音を吐いてしまう。 だが、弱音を吐いてしまう位に、本当に行き止まりは間近に迫っていた。 「3分…いや、あと1分もしないうちにあの行き止まりに突っ込むぞ!!」 「くッ!!」 グリーンは、こんな状況をどうやってひっくり返せば良いんだ、と悔しさを噛み締めていた。 そうこう悩んでいる内にも、刻一刻と、時間は刻みを止めてくれはしない。 視線の先に、ギラッ、という光が見える。 それだけじゃない。列車(リニア)が近付く度に、そのシルエットが明確な物となっていく。 そのシルエットは 二つの影は、ボールを空高く放り投げた。 そのボールの一つからは、よく育ったカビゴンが出てきて早々、こちらへ向かってくる。 そして、力を最大限に引き出すかのように、高らかに鳴き声を発した。 カビゴンは列車(リニア)を力一杯、抱き止めるようにし、腰を低くした。 足元が削れる位に踏ん張り、それは間違いなく、列車(リニア)の勢いを削げる位の力だった。 そうして列車(リニア)を受け止めるが、カビゴンは押されながら、額に汗を滲ませた。 もう少しで背中が壁と衝突しそうだという時に、後ろで控えていた色の違うワタッコが、綿胞子≠ナカビゴンの背中に胞子をこれでもかという位に降り注ぎ、背中と壁との接触を和らげた。 壁に接触している為に、少し力を入れやすくなったカビゴンは、ラストスパートで力を振り絞った。 すると、辺りは、列車(リニア)とレールから出る煙の音以外はひっそりと静まり返った。 先程まで、耳をつんざくような音がしていたから、尚更静けさが目立っていた。 列車(リニア)内のグリーン、エリカ、タケシは、カビゴンが背にしている壁の上にいる、目の前の人物に目を疑った。 『レッド、ルナ!!』 それは見紛う事無く、赤い少年と、向日葵のような少女だった。 グリーンは列車(リニア)から飛び出した。 「レッド!! 治ったのか? 体は!!」 「ああ」 そして、レッドは笑みを浮かべながら、 「遅れてゴメン」 と言った。相変わらず呑気な奴だと、グリーンは脱力してしまった。 後、疑問な事が一つ。 「……なぜ、ルナがいるんだ」 「え、ダメですか!?」 「いや、ダメじゃないが……」 その時、列車(リニア)からグリーンに続いてエリカが出てきた。 「レッド! ルナ! どうしてここが!?」 「今回もこいつが教えてくれたんだ。後、わざわざルナが来て、教えてくれた」 レッドは「こいつ」 それに対してルナは少し恥じらいながら、向日葵の笑みを浮かべる。 リナにジョウトの事聞き、『行きたい所が出来た』と言ったのは、レッドの所だった。 真っ先に頭に浮かんだのがレッドで、こういう危機に強いから、力を貸してくれると思ったのだ。 最初こそ酷く驚いたレッドだったが、事情を聞くと、頼りのある返事を返してくれた。 そして、今に至る訳で。 「そうですわ! カスミに…!」 エリカは踵を返して、列車(リニア)内のカスミに知らせようとする。 「カスミ! レッドとルナが来てくれましたわ!! カスミ!!」 だが、そこで気が付く。 先程列車(リニア)が中央で分断された時に、こちらの前方車両ではなく、後方車両に行ってしまった事を。 「リーグ会場は?」 「ああ、ひどいことになっている!」 「よし! リーグ会場に急ごう!」 「はい!」 レッドの言葉に、ルナとグリーンが揃って首を縦に振った。 「師(センセイ)!」 「ウム! 残党どもを押さえつけておく役目、しかと引き受けたぞ!! 行って来い! そして…頼んだぞ、グリーン!!」 流石、師(センセイ)。弟子の言いたい事は言葉を交わえずとも、分かったようだ。 グリーンはしっかりと頷いた。 そして、一つのボールから、あるポケモンを出す。 「乗れ!!」 「サイドン!?」 「オレの新しいポケモンだ。地面タイプのこいつのドリルで地を掘り進む!! 地上にはどんなワナがはられているかわからないからな」 「なるほど!」 それにしても、このサイドンはもしかしてあのジムリーダー試験の時に捕まえたサイドンじゃ無かろうか? そんな時、サイドンに乗ろうとしたルナが上手く乗れずに滑ってしまい、転んだ所を支えていたレッドに、エリカが話しかける。 「レッド、あなたポケギアは持ってますこと?」 「いや?」 「でしたら私のこれを! 何かの時のために!!」 サッ、と投げられたポケギアを、レッドがキャッチする。 「サンキュー!! 行って来る!!」 三人は、サイドンに乗り、そのサイドンのドリルで掘った道を真っ直ぐ進んでいく。 グリーンは前、ルナはレッドに乗せるのを手伝って貰ったので真ん中、レッドが後ろである。 地をドリルで掘っている為、砂煙が舞って、ルナの目や喉を攻撃する。 その為、咳き込むのは当然の事で。 「大丈夫か? ルナ」 「う、うん……ケホッ」 「んー……こうすれば平気か?」 突然、ぐいっと引っ張られる腕。 「へ?」と間抜けな声を出す時には、もうレッドの胸の中だった。 「え、あの、え……」 「あれ? グリーン、ちょっと待ってくれ!」 「?」 ルナにとっては、レッドこそちょっと待ってくれ、という感じだった。 否、確かに目や口に入らないから楽だが 「今、リーグ会場へ進んでるんだよな。 でも運命のスプーンが進むべき方向はこっちじゃないと…」 「………」 グリーンはレッドの持っているスプーンを見ると、確かにスプーンは向かって右を差している。 しばらく考え込んだ後、また前を向き直した。 「いいだろう、オレもそのスプーンの指す方向にのろう! サイドン、進路変更だ!」 サイドンはグリーンが指差した方向へ、素直に進路変更した。 ここまでわざわざ掘ってくれたのに……実に嫌な顔一つせずに、立派な物だった。 「いったいどこへ行けと言うんだ?」 「フッ、さっそくポケギアが役に立つ」 先程エリカに借りたポケギアの、マップを見る機能を使う。 「レッド。このマップ画面をのぞいてみろ。このままスプーンの指す方向に進んだら、どこに着く?」 「ここは!?」 マップの右上には、「ウバメの森」と書かれていた。 ルナは相変わらずレッドの胸の中でありまして、見えないのでじたじたしているが、なぜか抱き締める腕が強くなる。……何故? その時、背後に二つの気配が現れる。 それは三年前、そして一年前に戦った事のある 「キョウ!!」 「シバ!!」 元ロケット団幹部のキョウ、そして四天王のシバだった。 「え、嘘!?」とルナがやっとそちらを向く事が出来た、が、離しては貰えなかった。 じたばたともがいていると、キョウが手裏剣型のボールから、シバはヌンチャク型のボールから、それぞれバルキーとドククラゲを出した。 「ルナはここにいろ! ブイ!!」 レッドがやっと離したかと思えば、サイドンから飛び降りてエーフィをバルキーに向かって放った。 ここにいろと言われても、とも思うが実際今はこの狭い中だ。無駄にポケモンを出しても、邪魔なだけだろう。 ルナはエーフィの攻撃をなんなく交わすバルキーを見つめた。 あれは、本体では無い 「く!!かげぶんしん≠ゥ!! よし! じゃあこっちも!!」 影分身≠ノ対抗出来る技を、エーフィだって持っている。 「じこあんじ!!」 エーフィの姿が複数へと増加する。 そして隣では、メノクラゲの触手がサイドンへと襲いかかる。 サイドンはその触手を角で弾いた。 互いに、距離を取る。 「久しぶりだな。会えてうれしいぞ、レッド」 「そしてグリーン!!」 それぞれ戦いを交えた事のある者の名を呼ぶ。なんだかちょっぴり蚊帳の外状態だ。 その瞬間に、バルキーがエーフィに向かってくるので、レッドは構えた 「え!?」 ←|→ [ back ] |