「私ね、その子のお姉ちゃんなの。だから貴女をその子の所に連れていく事は出来るわ」 途端に、綿毛さんはパァッ、と明るくなって顔をあげた。 それに対して「でもね……」と続ける。 「私は今すぐに、行かなきゃならない所があるの。でもそこに行くには鳥ポケモンの力を借りなきゃいけない。つまり、捕獲しなきゃならないの」 私には、貴女をリナに連れていく時間は無いの そう説明するルナは、酷く真剣な表情をしていて、怖い位だった。 綿毛は、ちょっとの間しょんぼりとして俯いてしまった。 しかし、すぐに顔をあげ、手の綿毛で自分の胸を叩いてみせた。 叩いてみせた。が、人間なら「ドンッ!!」と鳴る所が、「ふわっ」と綿毛が舞うだけだった。 「……え? 任せとけ、って?」 一体何を任せれば良いのだ。 そう思っていると、綿毛は岩影から出てきて、しばらくじっとしている。 何を、しているのだろう。 その時、さわさわと周りの草木を揺らすような風が、ルナの向日葵の髪を揺らす。 気持ちの良い風だ、と思っていると、綿毛がぴょこんと、ジャンプしたでは無いか。 そうすると、綿毛は風に乗り、体を浮かせた。 「うわあ、浮いたっ!」 綿毛のポケモンは、やはり綿毛のポケモンらしく、綿毛のような役割を持っているらしい(ややこしい)。 実はこのポケモンは一度風に乗ってしまうと、綿胞子を匠に操って世界一周だってしてしまうのだが。 パッと見ただけでは、全然そんな事は無さそうなポケモンだった。 見た目で判断してはいけないのは分かっているが、十分な視覚を持っていると、どうも目に頼ってしまう所がある。 そんな見た目以上の凄さを持つ綿毛は、自分の足をポンポンと叩いた。 「え、掴まれって?」 コクンと、今日何度目かになる頷き。 言われた通り、自分の頭上にいる綿毛の足に手を伸ばし、掴まる。 すると、綿毛は綿胞子を操り、上空に飛び上がった。 「わぁ、わぁっ! すごいっ!」 思わず感動して歓喜の声を、わーわーと出してしまう。 「これで、私を運んでくれるの!?」 今度はにっこりと笑みを向けてくれる。 どうやらそうなようだ。 これでルナの心配は解消された。 ただ、一つだけ、不安な事があった。 腕が攣(ツ)りそう。 「あ、あのね! 綿毛、じゃなんか呼びにくいっていうか、ちょっとどうかと思うから、今だけニックネームとか、付けても良いかな?」 綿毛は一瞬キョトンとして、やがて綿毛のようにふわっとした笑みを浮かべた。 それはyesの証し。 ルナも向日葵のような笑顔を綿毛に向けた。 「じゃあね、貴方の名前は 種族名が分からない状況だが、綿毛のようなので、『綿』から取って『ワッタ』と名付けた。 ワッタは嬉しそうに笑い、綿胞子を操ってふわふわっと風に乗って、跳ねるように空を飛んだ。 ワッタ 生まれてこのかた、ニックネームなんて付けて貰った試しが無いからだ。 付けて貰った時、ニックネームを付けて貰うだけで、こんなに嬉しいのだな、と初めての感覚に心が踊った。 この姉妹は、タイプは違えど、どちらも本当に良い人で、自分に希望をくれる人達だと思った。 二人にだったら、狭っ苦しいボールの中で過ごしても良いだなんて、考えてしまう。 そう考えてしまうのは贅沢だろうか。 (この速さなら、あそこにすぐに行けるかもしれない ワタッコから見えない所で、ルナは真剣な瞳で上から眺める景色を見ていた。 あそこにいるであろう、あの人の顔を思い浮かべながら。 ふわふわと綿毛は舞い (全然似てない姉妹に) (惹かれ、着いて行く) 20140130 ←|→ [ back ] |