ウバメの森の中で、ナナは、辛い気持ちを背負い、立っていた。 リナにとって忌まわしい記憶は、自分にとっても忌まわしい記憶だった。 ナナは それも、秘密(シークレット)の。 なぜ秘密(シークレット)かと言えば、ナナは情報収集が担当だったからだ。 情報収集の基本は、人に探りを入れている事をバレないようにする事。 だから、根本から、なにもかも秘密(シークレット)としたのだ。 ナナは、逃げ出さなかった、否、逃げ出せなかった。 「 そんな時、背後からザッという足音がした。 まさか 「よくもやってくれたわね」 しかも、どうやって出たのだ。 「エスパータイプの苦手なタイプってなーんだ」 リナはいつのまにか幻影を見せていたポケモンであるエーフィの首根っこを掴んでいた。 「虫と、ゴーストと、悪……」 「ピンポーン」 激しく棒読みで言うと、リナの背後からレディアンが出てくる。 レディアンは見た目からも明らかな位の、虫タイプ。 「虫のさざめき≠ナエーフィにも影響を与えたのよ。幻影だろうと異空間だろうと、エーフィに繋がってるには違いないだろうからね」 少し乱暴にこちらへエーフィを放り投げてくる。 それを的確な場所に投げられた為、動く事なく受け止めた。 26.5sの重量が両手にのしかかる。 「どうせ、あの男に足止めをするように言われてんでしょ? だったら、わたしはアンタを倒してみせる」 そう言って側にいたマリルリの頭を撫でるリナは、どこか吹っ切れた様子だった。 思わず、唇を噛む。 「なんで、そんなに……」 自分には無い物を持っているんだ。 「……あたし、あんたが羨ましい。それは、今も、昔も、変わらない」 「羨ましい?」 顔に影が射しているナナは、よく分からない事を呟いた。 羨ましくなるような事、何一つやった覚えは無い。 「あたしはッ、本当にあんたが羨ましかった!!」 突然、ボロボロと泣きじゃくる。尚更訳が分からない。 「自分の意思で男から逃げてッ……でもそんな事ッ、あたしには出来なかった!!」 ずっと、ずっと、逃げたいと願っていた。 外の明るい世界に行きたい、と何度願った事か。 仮面を、投げ捨ててしまいたかった。 それでも出来なかったのは、臆病者だったから。 「あたし……カリンとイツキに会ったわ……同じ境遇だと思って嬉しかったわ。だけどッ……違った!! 自分から弟子入りしたって……!!」 カリンとイツキは、面白可笑しそうに笑っていた。 ナナは、マスクド・チルドレンが、連れ去られて来たような人ばかりだと思っていた。 しかしそれは、思い違いでしか無かった。 「あたし……驚愕したわ……それと同時に、嗚呼、男の元にいたら、ずっと孤独なんだ、って……思い知らされたわ」 ぐっ、と握られた拳。 拳には溢れた涙が、小さな水溜まりを作っていた。 確かにそれだけを聞けば、ナナは、可哀想な子のように見える。 だが、リナにとってそれは、馬鹿馬鹿しい考えに過ぎなかった。 「孤独? 独り? 馬鹿じゃないの」 「なッ……!?」 「独り≠ニ一人≠ヘ違うわ! アンタは自由を求めたの!? 男に抗った事があるの!? アンタは自分から独りになって、それを酔いしれてただけよ!!」 ナナがは自由を羨むだけで、自分自身では何もしていなかった。 ただ自分が可哀想な悲劇のヒロインだと思って、自分を労るだけ。 本当に一人が嫌なら、その身を賭して男に抗うべきだ。 「あんッ、あんたに何が分かるのよ!!!!」 「分かんないわよ!! でもね、わたしが羨ましいんだったら!!」 ナナが掴みかかってくるが、リナは負けない位の気迫でナナを見据えた。 「闘いなさいよ、自分の意思で!! 抗いなさいよ、運命に!!」 「……ッ!!」 誰もが強く無い事なんて、リナだって分かってる。 だが、闘う事は、誰にだって出来るはずだ。 どんな型だって良い。地味なのでも、ほんの小さな事でも。 そうやって闘っていけば、自ずと力をつけていける。 「わたしがこの旅でわかった事。それは」 旅立った時は、まさか自分がこんなにも変化を得られるなんて、思っても見なかった。 旅に出て、ジョウトに来た事によって、 ゴールド、 シルバー、 クリスタル、 そして、 兄弟≠フ存在に気付けた。 それらは、リナの心を支えて、強くしてくれた。 「人間は、本当の意味では孤独になんてなり得ないという事!」 いつだって、どこだって、誰かが自分を支えてくれる。強くしてくれる。 愛してくれる 誰にだってある幸福だ。だけど、一歩外に出てみないと、それは分からない。 それを 「アンタにもいたんでしょ。仲間が。友達が。家族が。相棒が。兄弟が!! ポケモンが!!」 この世界に入れば、手に入れられる幸福。 それは、ポケモンが、側にいる事。 「ポケモンはね、こっちの心を見透かしてくるのよ」 人間の感情を理解し、時には言葉を理解し、人間を見つめる。 ポケモンは、下手をすれば人間より優秀だ。 野生は、自分の判断で技を出せる。自分で戦える。 それなのに人間の元を離れないのは、 「だから、独りにさせないように、傍にいるんじゃない」 マリル、いや、マリルリが、リナにとってのその存在だった。 いつも突き放して、何も好かれるような事をしていなかったのに、ずっと側にいて、愛してくれた。 そんな大事なものの存在に 「アンタのニャース、心配してくれてたでしょ」 その言葉に、ナナは涙を溢れさせながら、ニャースを見た。 先程リナのポケモンの攻撃で転げ落ちてボロボロだというのに、自分の事よりもナナの事を心配してオロオロとしていた。 嗚呼、そうだった。 いつも、自分の側にいてくれたじゃないか。 辛い事があっても、悲しい事があっても、いつも、いつも、 かなり側にあったから、気付け無かった。 もう、当たり前の事になっていたから……、 「カモミール」 きゅっ、とその小さな体を抱き締めた。 有り難う、こんなあたしの側にいてくれて。 そう思いながら。 (さて、今のうちに……) 別に嘘を吐いて隙を突きたかった訳では無いが、今のうちに通らせて貰う。 しかし、その行く手を阻む者が立ちはだかった。 「ア、アンタ……!」 その人は 道は鮮やかに開かれて (人とポケモンは) (絆で繋がってる) 20140129 ←|→ [ back ] |