通常の速度に戻った時、ゴールドが倒れた事によって後ろの黒装束の輩が現れた。傍には黄色いコンセントのようなポケモン。 「ウハハハハ、ケンカの途中で悪いな」 悪そうな人相の男も銀目もどうやらリナの声には気付かなかったようだ。 安心して、ほっと息を吐く。 自分の素性を易々とバラすなんて馬鹿のやる事だ。 「…なにものだ、きさまらは!?」 「ん〜!? オレたちか!? よし、せっかくだから教えてやろう。オレたちはロケット団。近々復活予定の悪の秘密結社よ」 ……馬鹿がいた。 (にしてもロケット団、か) ロケット団という単語にリナは目を細める。 お姉ちゃんの唯一の恨みの対象。それがロケット団だった。 通常なら銀目に任せて立ち去るつもりだったが、そうもいかなさそうだった。 その間に、ロケット団がリュックがどうとか言っていたが、聞いていなかった。 まぁ今までの経緯で推測すると、金目のリュックとロケット団が取るつもりだったリュックを取り間違えたのだろう。 どこまで阿呆丸出しなロケット団なのだろうか。 だったらあのヘラヘラした元ロケット団の方が何倍もましである。 「さあて、せっかくここまで来たんだ。ついでにウツギのポケモンも奪ってやろうぜ!」 なんだろう。この軽いノリは。 「そうだ! あの特別に研究された、チコリータ、ヒノアラシ、ワニノコを3匹全部!!」 「それは無理だな。なぜならワニノコはすでにオレがいただいている。ヒノアラシならおまえが今倒したヤツがそれだが」 そう言ってワニノコの入ったボールを掲げる。 その口振りだと、掲げているワニノコは盗んだ物で、あの凍った床の犯人は銀目のニューラらしい。 なんだか改めて面倒な事に巻き込まれたんだな、と思ってしまう。 木の陰でロケット団が銀目にコンセントポケモン(エレキッド)を仕向けるのを眺めながら深い溜め息を吐いた。 そんな事など勿論露知らず、銀目はさっとポケモン図鑑を取り出し、相手のポケモンの情報を調べる。 「ワニノコ!!」 ボールから出したるはさっき盗難したばかりの大顎ポケモンのワニノコ。 リナは目を見張った。 さっき手に入れたばかりのポケモンを使うだなんて無謀という物だ。 銀目の目論見が分からず、息を飲んだ。 「ウワハハハハ!! 今手に入れたばかりのポケモンを使うのか!? なついていなければ命令など聞かないぞ!!」 ……ロケット団と同じ事を考えていて、リナは無性に自分に腹が立った。 「なついてないほうがいいって場合もある。 ワニノコ、やつあたり!!」 「ギャ 「へぇ、成る程?」面白い、というようにリナは口角を吊り上げた。 ロケット団が焦り出した時、銀目は素早くロケット団の一人からボールを盗んだ。 なるほど、こういう風に効率良く、尚且つ素早くワニノコを盗んだのかと感心する。 「ボ…ボールを…! 待て!」 銀目に盗まれたボールを取り返そうとしたロケット団の前にニューラがこれまた素早く立ちはだかる。 そして「ギロ」とロケット団を睨み付け≠ス。 ポケモンは勿論、ロケット団も両手を上げる位にたじろぐ。 技なんだろうが、主人の目付きに似たニューラなら素でも可笑しくないと思うリナだった。 「だましうち!!」 コンセントポケモンのようなエレキッドにニューラの鋭い爪が炸裂する。 「さっきのやつあたり≠ヘ、わざを使うポケモンがなついていないほど威力が高くなるわざだ。手に入れてすぐにわざマシンで覚えさせた」 やはり、とリナは納得した。 やつあたり≠ヘ通常で覚えられるような技では無い。 だから可笑しいと思っていたのだ。 「くそう…、なんて強さだ…」 ロケット団はやられたエレキッドを見詰めながら悔しげに顔を歪めた。 「まだだ……!」 銀目がボールを盗んだ方では無い奴が、腰のボールを取り出し構えた。 一瞬も驚く表情を見せず、ただ面倒臭そうにロケット団を銀の眼で見据えた。 しかしその時、「ザシュ」という音がしたかと思えば、ロケット団の足元は攻撃によってすり減っていた。 途端にロケット団の額から大粒の汗が流れる。 「今のは脅しよ。このイーブイは絶対に技を外さないわ。アンタ等が立ち去らなかったら……猿並みの脳味噌のアンタ等でも分かるわよね?」 木の陰から見知らぬ少女の声が聞こえてきた。 声の調子で微笑んでいる事が分かった。 ロケット団諸君は言い知れぬ恐怖感でいっぱいだった。 「お、覚えてろ お決まりの捨て台詞を吐いていくのは悪者の真骨頂なのだろうか。 「……お前は誰だ」 分かってはいたが、銀目がこちらに向かって疑問を投げ掛けてくる。 やはり胸には不快な違和感。 「名乗る程の物じゃないわよ。そうね、一つ言うならただの『天才』って所かしら」 「は?」 「それより、早く行かなきゃマズイんじゃない? そろそろ研究所にいたオチビちゃんとウツギの博士が起きて通報する頃よ」 「……」 銀目は、一瞬だけ迷った素振りを見せてからその場を去った。 (はぁ……やっぱわかんないな) 自分のこの胸のモヤモヤをなんとかして欲しい。 リナは胸を鷲掴みにし、二回深呼吸した後に木の陰から顔を出し、銀目や警察がいない事を確認すると、木の傍から離れた。 木にもたれかかっていた為、軽く汚れてしまった背中を必死に払う。 服のセンスがダサ……もとい、個性的だろうとあのお姉ちゃんから貰った大事な服だ。 命に変えても守り抜いてみせる。 と、そんな大袈裟な事を考えていると、ふと目の端に映り込んだ物が気になってしまった。 しかし自分には関係無い。 そう思い、その場を離れようとした。 「……」 だがその歩みは徐々にゆっくりになり、やがて立ち止まった。 (あー、もう!) 頭を乱暴にがしがし掻いて、自分に影響を与えてしまった優しい姉を呪いながら、力無く横たわる金目 「さて、行くわよ」 少し照れたように顔を赤らめたリナが、先陣切って進み出した。 背を向けられたゴールドの首筋には可愛らしいマリル柄の絆創膏が貼られていた。 鈍く輝かしき銀の瞳 (関わる気なんて、) (全く無かったのに) 20131106 ←|→ [ back ] |