耳に響いてくる小波(サザナミ)。

その音は、酷く心を落ち着かせる物だった。

ゆっくりと波打つように流れていく時。安らかな時。

しかし、そんな時に、声がした。





  お姉ちゃんッ!





それは、大事な大事な、  家族の声。

「リナ!!」

ハッ、と目を開けると、海水を飲んでいたようで、しょっぱい味を舌先で感じると共に咳き込む。

咳き込みながらも、周りを見渡してみると、隣ではイエローとそのおじ、そしてピカチュウ4匹が眠っていた。

息はある。とりあえず息を吐く。

それにしても、ここはどこだと見渡したって、ジョウトの知らない所だった。

「ど、どうしよう……」

目を覚まさないイエローとおじを、そのままにする訳にはいかない。

「ロコ!」

ボールからキュウコンを出すと、海辺なので逃げ出してしまった。

相変わらず恐がりで、こんな時なのに笑ってしまう。

「大丈夫だよ、イエローさんとおじさま、それからチュカ達を背中にあげてくれる?」

すると、やっとわかってくれたのは、ルナが言った通りに背中に乗せた。

「問題はどこへ行くか、だよね」

うーん。と顎に手を当てていると、足元から鳴き声がした。

見てみると、ブラッキーがいて、自分の蒼く光る模様を見せる。

「あっ、そっか! ゲッコウは人探しに長けてるもんね!」

通常のブラッキーには無理だが、このブラッキーはその蒼く光る模様で気配を感じる事が出来る。

なら、こんな時には打ってつけだ。

ちなみスオウ島の時もその能力を活用して貰った。

あの時は接する事に、少しの抵抗を感じていたが、もうそんな事は無い。

「でも、そもそも場所がわからないのに大丈夫?」

大丈夫だ、というようにうなずいてみせるブラッキー。

本当かどうか疑うよりも、このブラッキーの頼りがいのあり過ぎる行動に、感動してしまう。

うるうるしてしまっていると、ブラッキーはルナの腰をスリスリしてくる。

「うひゃぁあ!? く、くすぐった、あ、あぅ」

だが、くすぐっていた訳では無いようで、どうやって取ったのやら、スカートのポケットからメモを取り出した。

「あ、それって……」

そのメモは、先日エンジュシティに行った時にピカチュウ達をみたミカンがくれた物だった。

『あなた達、可愛い♂♀のピカチュウを四匹も連れてるのね。それならここへ寄るといいわ。もし時間があったらだけど…』

そこに書いてあるのは34番道路にある、育て屋の住所と地図。

34番道路と言ったら、まさにここの事だった。

それを、ルナの方は知らないが、ブラッキーは知っていた。

なぜならこの地図と、この辺りの地形が一致するから。

そんな事は、ヘリコプターや鳥ポケモンに乗って空にでも飛ばなければ分からない事なのだが、ブラッキーにはそれを感じ取れる不思議な能力がある。

どうしてかは分からないが、それが希少価値である色違いポケモンの特筆すべき所なのだろうと思う。

「じゃあ、ゲッコウ。ここに案内してくれる?」

ブラッキーは強く頷いた。

ルナはブラッキーを頼りがいのあるポケモンだと思っているが、ブラッキー自身はそれをルナのお陰だと思っている。

こうやって向き合ってくれて、こうやって頼りにしてくれるのは、凄く嬉しくて、凄くくすぐったくて。

とにかく、頑張りたいと思えた。

「わ……仲の良いポケモンがいっぱい! ここが育て屋なんだね!」

コクリ。また頷いた。

「イエローさん達の介抱をしてもらおう!」
「誰じゃ!?」
  っ!」

いきなり後ろから声をかけられて、必要以上に肩がびくついてしまった。

振り返ると、それなりのお年を召した方がいらっしゃった。

「お前さんは  
「は、はい!? な、なんでしょう。可愛らしいお嬢様っ!」

条件反射でつい言ってしまった。

昔、母からお年を召した方にはそう言えと教わっていた。勿論、冗談だったが。

しかし、子供だったルナに、冗談もへったくれも無く、真に受けてしまったのだ。

「……」
「え、えと、すいません、あの」
「……ふ」
「……麩(食物)?」
「ふふふ、やはりあやつの娘じゃな! そっくりじゃ!」
「…………へ?」

つい、すっとんきょうな声を出してしまう。

目も丸々とさせる位に驚いていた。

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