「結局自分、か……」

とはいえ、関わり方を知らないのだからどうしようも無い。

……いや、それを理解して、自分に関わり方を教えてくれた人が、いた。


「リナ、オーキド博士っていう、ポケモン研究の権威なの! 私の恩人なんだ!」


「ねぇ、外で遊んでみない?」


「きっと楽しいよ! リナはなんでも出来るから大丈夫!」


「今日が駄目でも、明日行こうね!」


「レッド君って凄く良い人なんだよ! リナに会わせたいなぁ」

自分に、外の世界に馴染ませようとした、自分の大切な  姉。

その言葉に、いつも背を向けていた。

「お姉ちゃん……」

今、いないと思うだけで、こんなにも不安になる。

ずっと、そばにいてくれた人  

「絶対大丈夫、だよね」

いつも心配かけないように、そう言っていた。

言われた時は、どこが大丈夫なんだよ、とか思うけれど、今は不思議と大丈夫な気がしてきた。

頭の中で、姉の向日葵のような笑顔が過ったからかもしれない。

「……海沿いに歩いてみようか」

少しだけ和らいだ不安感。

リナはレディアンにそう言うと、パタパタと側に着いていてくれる。

因みに、マリルは御休み中だ。

昨日はランターンと共に海を必死に探してくれたから、きっと疲れたのだろう。

滅多にリナから離れる事が無いが、今だけはこっそりとボールの中に入れている。

(海の方からは全然気配しない……)

五感だけでなく、六感まで働かせているが、なかなかルナの姿は無い。

これほどまでにもどかしい思いは初めてかも知れない。

「………少し、休むか」

先程から歩き通しで、疲労の感覚は無いが、微かに足に痛みを感じる。

なにより、レディアンが疲れているようだった。

「まだ流れ着いてないのかも知れない、もう少し待って……ん?」

34番道路の草むらにある岩に座ろうとした時、その岩の影からポケモンの声がした。

それは微かで、普通の人だったら聞き逃しそうな位の声だった。

よく気付いたな。さすが、わたし、天才。

「ナニコレ。なんか花っぽいけど……」

岩影の花を、ツンツンと突っついてみる。

すると、その花は「ビックゥゥゥッ!!」と激しく跳ねた。

流石のリナでも驚いてしまい、ぱっと手を離す。

ポケモンというのは確実なのだが……なんというか、正体不明だ。

花の部分だけが剥き出しになっていて、体があるであろう部分は地に埋まっていた。

「出てきなさいよ」

そう言うと、またビクゥッと跳ねた花(仮)。

相当怯えきっているようだ。やれやれしょうがない。

こういう場合は言葉で何を言っても通じない物だ。

なるべく使いたくは無かったが  リナは近くの適当な葉っぱをむしった。




それはまるで、自然の作り出した子守唄のようだった。

普通の笛などでは感じる事の出来ない、柔らかい音色。

  草笛。

リナは草を笛のように吹いていた。

そのせいで、周りにいたポケモン達は顔を出し、群がった。

そして、さっきの岩影にいた花も。

花はピンクの体をおろし、リナの草笛を、周りのポケモン達と聞いていた。

不思議と、その音色を聞いていると、心が安らぐ。不安も、恐怖も、全部どこかへと消えていく。




やがて草笛は曲が終わったと共に、余韻を残して消えた。

実に、良い音色だった。

そう思っていると、ふと、自分の体が浮く。

え、な、ちょ、

「へぇ、色ちがいのポポッコか」

通常黄緑色のポポッコは、桃色の可愛らしい色に染まっていた。

好奇の目で見られた途端に恐怖がまた沸き上がってきてしまう。

ポポッコはバタバタともがく。

「ねぇ、逃げるのは構わないけど、怪我をしてんだから動かない事をお勧めするわ」

言われた瞬間に、ああ、そういえばさっき自分を捕まえようとした子供に  痛たたたた、と痛みがぶり返す。

「アンタも大変よね、好きで色違いになった訳じゃ無いのに、追い回されて」

その口調は、まるで自分の事と重ねたような、憂いを帯びていた。

「はい。これで傷は塞がったけど、無理はしない事」

ポポッコの手足に傷薬を塗り、包帯を巻いて立ち上がる。

それを、不思議そうに見つめているポポッコ。

「ああ、別にわたしはアンタを捕まえようとは思わないわ。だから自由にしてなさいな」

小さく微笑めば、レディアンと共に、ウバメ近くの方の海沿いに行ってしまった。

耳には、草笛の音と「自由」という言葉だけが残っていた。


雪のように白く儚く
(記憶は染み入る物)


20140127

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