「エネル、もうちょっと右」 そう言うと、レディアンが右に移動してくれる。 リナは今、渦巻き島周辺を駆け巡っていた。 とはいえ、レディアンはやはり虫タイプだ。エネルギッシュなレディアンでも、流石に疲れてしまう。 時折ある陸地で休憩していたりもする。 (流されたとしたら、タンバか、コガネか……もしかしたら、そこまでいってないかもしれない。いや、結構な力で押し流されたから……) ポケギアのマップを見ながら、ルナが流れ着く場所の予測をする。 大丈夫。姉の事だからポケモン達に助けてもらいながら陸地に着くはずだ。 そう、自分に言い聞かせて。 それでも逸る気持ちは抑えられない訳で、無意識の内に手のひらに爪をたてていた。 (確か、あの時の水流の向きは 「よし、エネル、コガネに向かって!」 こんなに広い海の上にいるのにも関わらず、どっちに行ったら良いのかわかるらしく、レディアンは迷わずコガネの方向に向かった。 虫の習性と、コガネから近いウバメにいたからだろうか。 (さて、アイツ等は何してるかしら) ポケギアで、つい先日貰った番号にかける。 「あー、もしもし?」 『あ! リナ! やっとかけてくれたわね!!」 「えーと、クリス、だっけ? わたし、これでも早い方だけど……」 『遅いわ! 連絡してくれないと心配するじゃない!』 それにしても、そんなに会話をした訳じゃ無いのに、どうしてそんなにも心配してくれるのだろう。 きっと真面目な彼女だから、他人同然のリナでも心配が出来るのだろうとは思うが。 『あなたの事、ゴールドから色々聞いたわ!』 「はぁ!? 絶対ろくな事言って無かったでしょ」 『そんな事無かったわ! あなたの事凄く信頼してるみたい!』 『オイオイ、クリス! な、なに勝手な事言ってんだよ!』 『あら、だってさっきだって』 『あれはぜってーにリナに言うなよ!!』 『別に言っても良いと思うけど』 「ねぇ、切っていい?」 自分無しでべらべら喋るのは止めて欲しい。切実に。 苛々して言うと、クリスは『ごめんなさい!』と謝ってくれるが、ゴールドは画面の外に行ってしまった。 「それより、アンタ達は今何してるの? 随分背後が煩いけど……」 『ええ、今ポケモンリーグ会場にいるの』 「! カントーじゃないの!? 何しに行ってるのよ……」 『それはね……』 クリスの話によると、仮面の男の正体は、全ジムリーダーのうちの誰かだという事がわかったらしいのだ。 そこで、ポケモン協会は独自の調査を進めていたが、決定的な証拠をつかむため、今回のポケモンリーグに全ジムリーダーを集める事にしたらしい。 表向きはリーグ開催オープニングセレモニーの出し物として、全ジムリーダーによる対抗戦を行っている。 しかし本当の目的は 「なるほどね……わたしも行きたいけど、お姉ちゃんの事があるから……教えてくれて有り難う」 『ううん、だってわたし達、もう友達じゃない!』 「……とも、だち?」 にっこりと星のように綺麗に笑う彼女は、リナにとって理解不能の言葉を言ってみせる。 なぜならリナは今まで友達なんて物は、いた試しが無くて、いたのは姉だけだった。 仮面の男に捕まる前も、そもそもあまり外に出なかったリナは、一人で遊ぶ事が多かった。 『そう、友達。……駄目かしら?』 「………」 いつもなら、間髪入れずに、「わたしは誰かとつるむ事は絶対にしないわ」と言っていただろうが、今は、違う。 ジョウトに来て、色んな事が、180度もひっくり返った。 だから 「いいわよ。 宜しく、 出来る事なら、直接言いたかったが、今はどちらにとってもそれどころじゃ無かった。 だが、今ここで生まれた『友情』は、初めてで、なんだか照れ臭いが大切にしようと思った。 『ええ! 良かった、断られたらどうしようかと思っちゃった』 安心したように笑う彼女は、やはり星のようにキラキラしていて、眩しい。 「あ、コガネに着いた。切るわね?」 『ええ。また、連絡してね?』 「わかったわ。それじゃあね」 プツッと切ると、ふぅ、と息を吐いた。 『友達』、か。 昔はくだらない物だと思っていた。そんな物、自分には関係無いと思っていた。 自分は、昔から他と違っていて、他の人と別々にされていた。 今はもう掠れつつある5歳の記憶も、天才だった為にちやほやされていて、特別扱いされていた気がする。 そして、仮面の男に捕まった時も、特別枠≠ニして一人だけ隔離されていた。 姉の所に住む事になる頃には、あの広い家で本ばかり読んでいた。 たまに姉が外に行こう、と言った時も、自分は良いと首を振った。 その頃には、人と関わる事に嫌気を感じていたのだ。 姉以外にはずっと心を開かずに、オーキド博士にも、誰にも笑顔を見せる事は無くて。 同世代の子供と関わるのが、一番嫌だった。 自分と同じ年の子供が、楽しそうに笑っていて、その笑顔が、凄く遠くに感じた。 嗚呼、自分とは違うんだな、と。 今にして思えば、確かに自分と他の人とは少しの差はあったが、勝手に自分と他の人を切り離していたのは他でも無く、自分だった。 関わろうとしなかったのは、 ←|→ [ back ] |