「どうした、イエロー!?」 「何かがさおを引っ張っているんです!」 「ポケモンの悪戯でしょうか? イエローさん、今助けます!」 キュウコンでイエローに近付き、バタフリーの羽根を見てほんの一瞬躊躇い、竿を一緒に掴んだ。 「わ、これは、つ……よい」 踏ん張るが、引っ張る力は並大抵の物では無くて、一筋の汗を流してしまう。 その時、より一層強い力で引っ張られた。 『うわああ!!』 引っ張られた瞬間に、両目を閉じるが、一体何に引っ張られているんだ、と片目を開ける。 すると、糸は岩に繋がっていた。 (え? あれってどういう 疑問が過るが、そんな悠長な事を考えている場合では無い。 「イ、イエローさん!!」 「岩にぶつかる…!?」 ルナは必死にイエローにぶつからないように自分を下にして、イエローを抱き締めた。 そして、衝撃に備えて両目を瞑る。 イエローがルナが怪我をするなんて嫌で、ルナの胸の中でもがく。 だが、ルナの力が強くて、振り払えない。 ダメだ、ぶつかってしまう そう思って目に涙を溜めた、が、 スルッ。 イエローとルナは岩にぶつかる事無く、岩をすり抜けた。 目を開けていたイエローは、目を疑った。 それから間も無く、普通の床に落下する。イエローはルナがいたから無傷だった。 「わぁぁぁ、イエローさん、私の事は気にせず先に行ってくださぁぁい!!」 「ルナさんルナさん」 「うう、骨を折ったかもしれません、でも心配せずに」 「岩にぶつからなかったんですよ?」 「……………あう?」 バタバタ大袈裟にもがいて苦しそうな顔をしていたルナがぴたりと止まる。 要は、勘違い。 「え、えへへ、てっきり……と、いう事はここはどこでしょう?」 「うーん、塔の中じゃないのかな」 周りは何もない空間。 ただ、三枚のガラスが浮いているだけの、本当に何も無い空間。 突然、パン、というガラスが粉々になった音が背後でする。 「なに!?」 「 振り返ると、そこには見た事の無い位に神聖で、美しいポケモン達が3匹いた。 「キミたちポケモン? 見たことないけどなんて名前? キミがここへボク達を引きずり込んだの?」 (凄く綺麗で、威厳があるポケモン……) そうイエローが聞くと、真ん中の水晶のようなポケモンの額から、光が発せられた。 攻撃か、と思った瞬間に、ドン、という衝撃と共に声が聞こえてきた。 その言葉の後に、また言葉が頭に直接響いてくる。 「おまえのおかげで呪縛から逃れ、現実世界への出口も開かれた=H」 「呪縛……?」 こんなにも綺麗なポケモン3匹が、どうしてこんな何も無い場所に閉じ込められているんだ、と素直に疑問に思った。 「『出口』だって!?」 「出る事が出来るって事!?」 外では、ミカンとイエローのおじが、イエローとルナを探していた。 「イエロー!! ルナちゃあん!! どこだぁ!?」 二人の目の前で、イエローとルナは釣竿に引っ張られ、どこかへ消えたのだ。 それなのに、跡形も無く、姿が見えないだなんて。 「おかしいな、たしかにここに引っ張りこまれたはずなのに?」 その刹那、近くの岩からフイイインという音共に、光が発せられる。 そして、3匹のポケモンが、空に昇るように飛び出してくる。 「きゃっ!!」 「うわっ!!」 3匹のポケモンの姿を、工事現場の人も見掛けた。だが、その時にはもう光としてしか確認出来なかった。 「今のは…!? ポケモンみたいだったが」 「すごいスピード…」 二人は腰を抜かし、唖然としていた時、背後からパタパタという音と、とんっという着地の音がする。 見てみると、そこにはバタフリーで飛んだイエローと、キュウコンに股がるルナの姿があった。 「イエロー!! ルナちゃん!! 無事だったか!!」 「大丈夫!?」 心配して駆け寄ると、二人はぽけーっとしたような表情をしていた。 「…キレイ…」 「?」 「…キレイなポケモンたちだったなぁ…」 「また、会えるかなぁ……」 全く要領を得ない一言で、イエローのおじはぽかんとした。 # # # 「本当にこの石をつきぬけて地下へ行ったのか?」 『ハイ!』 石の上では、ピカとチュカがガリガリと引っ掻き、それをチュチュとヒカリが不思議そうに見つめていた。 つきぬける、なんて事は無さそうだが。 「しかし今はつきぬけるどころか、けずることもできなさそうな硬さだぜ」 「でも、その時だけはスルッと……」 「まあなあ…しかしほかに地下へ行くすべはねえし、信じるしかねえか」 おじはもしかしたら、先程ミカンが言っていた話に関係があるのかも知れない、と思い話の矛先をミカンに向けた。 「さあ、聞かせてくれや。エンジュシティ、ここ『焼けた塔』に伝わる伝説とやらを」 ミカンはコクッ、と真面目な顔で頷く。 「エンジュには、むかし東と西、ふたつの塔が建っていた。そして150年前、突然起こった大火事で焼けてしまったのがこの『焼けた塔』。ここまではさっき話したとおり」 150年前なんて途方も無くて、ルナは昔話を聞いているようだった。 実際、昔の話なのだから、そうなのだが、なんというか本当の事とも判断が付かないような曖昧な感じ。 「実はその火事で、炎に巻き込まれて死んでしまった、名もないポケモンが3匹いたらしいの。 その時…、虹色のポケモンが空より現れ…」 虹色に輝くポケモンは、死んでしまった3匹のポケモンに光を与えた。 その光は、日光より暖かく、母のように暖かかった。 光を与えられた3匹は、息を吹き返した。 3匹のポケモンが気が付いた頃には、虹色のポケモンは飛び去っていた。 「まさか!!」 「じゃあ、今オレたちの前をかけていった3匹が」 「そのよみがえった3匹だっていうのか!?」 「どこへ、行くつもりなんだろう……」 ルナは、恐らく3匹が駆けていったと思われる空を眺めた。 飛び立った3匹はいずこかに姿を消した。 数日後より各地のジムリーダーや強者をたずね戦っていく、彼らのパートナー探し≠ェ始まるということを…、 この時知る者はいなかった!! 神聖な目覚めの時 (また会えるだろう) (なんの根拠も無く) (そう思えるんだ、) 20140126 ←|→ [ back ] |