「なんで空なんだ!? ボールはヤツの額に当たって姿が消えた!!」
「ボールに納まったようにしか見えなかったのに!!」
「あの時、確かにボールに入ったような音がしたはずよ!!」

三人はシルバーの手にあるボールを囲んで、各々驚愕の言葉を口にした。

そう、確かにクリスタルが蹴ったボールは、ルギアに当たって、ボールに納まったように見えた。

それなのに、ボールの中には何もいないのだ。

「ルギアのパワーを考えれば、あたり前かもしれない。あのキューで『空気弾封じ』ができるのも、わずかの時間だろうと思っていた」
「追いつめたと思っていたのはオレたちだけで、ヤツはまだ力を残していたってことか!」

ゴールドがシルバーの言葉を聞いて、推論を述べながら地に刺さったキューを抜くと、バィィィンというスプリングの音を鳴らしながらキューは壊れてしまった。

それもそうだろう。あんなに高くから刺さったのだから。

「ということは…ボールが当たった時に発せられた光…、あの光幕にまぎれて逃げ出した…!?」
「でも、待って。ルギアはわたしの能力≠ナ止まってたのよ?」
「伝説のポケモンには効かないのかも知れない」
「くっそォ!!」

リナが怪訝な表情をした時、ゴールドが悔しそうに声を荒げた。

キューの損失もあるからかも知れないが。

「待って! 逃げられたのなら、それを追う方法があるわ!」

クリスが自分が背負っていた鞄を下ろし、ポケモン図鑑を出す。

「さ! あなたたちも出して!!」
「何をするってんだ?」
「追尾よ!!」

図鑑を開いて、クリスはマップのような物を起動させた。

そのマップ上には何かの印が付いていた。

「一度でも出会ったポケモンなら、たとえとり逃がしてもその行方を追うことができる新ポケモン図鑑の機能、追尾システム!!

このシステムは、クリスタルがスイクンという伝説のポケモンの一匹を捕まえようとした時に非常に役立った機能だった。

「あなたたちも知ってるでしょ?」
(知らなかった…)
(知らなかった…)

全く知らなかった二人はタラリと汗を垂らした。

そんな三人を眺めながらリナは心の中で、(オーキドの博士から無理矢理手に入れたようなこの二人組が知ってる訳が無いわ……)とか思っていた。

しかしそれを抜きにしても、クリスタルは実に詳しいな、と思う。

「早く! 今ならまだ追いつけるかもしれない!」
(えーと、ここをこうやってと)

クリスタルの見えない所で爆発頭がチラチラとクリスの所作で、起動の仕方を真似ているが。

「それにしてもさっきのボールを蹴り上げてみごと命中させたコントロールといい、図鑑の機能にくわしいことといい、てめー、ただのガチガチカタブツ学級委員じゃねーな?」

序盤はともかく、ガチガチカタブツ学級委員というのは明らかに誉めていなかった。

クリスタルは顔をひきつらせながら「ガチガチって…また…」と呟く。

だが、すぐにパッと顔を挙げて笑顔を見せた。

「わたしはクリス! オーキド博士に全ポケモンのデータ収集を依頼された『捕獲の専門家(ゲットスペシャリスト)』よ!!」
「なんだよ! ず〜っと検索中じゃねーか!! すぐには出ねーのか?」

せっかく自己紹介したにも関わらず、ゴールドは図鑑の追尾システムに夢中で聞いていなかった。

それにしても、リナが「だから、今度はちゃんとした専門家≠ノ頼みなさいよ」と言った事が実現しようとは。

というか本当に専門家なんていたんだな、という所に驚きだ。

「う〜〜ん、ほかのポケモンより時間がかかるのかなァ」

クリスが不思議そうにしていると、シルバーは一人でどこかへと突き進んでいく。

「おい、シルバー!!」
「どこへ行くのよ?」

シルバーが突き進んでいった場所は、随分と切り立った所にあり、険しかった。

三人もシルバーを追って、切り立った場所を登る。

足場は十分にあるので楽に登れるのが幸いだ。

登りきる前に、クリスタルがふと、リナに話し掛けてくる。

「ねぇ、あなたってもしかして図鑑持っていないの?」
「……ええ。だから?」
「だ、だからって……意味は無いのだけれど……」
「……図鑑の内容だったら頭に入ってるわ。追尾システムとかは、出来ないけどね」
「内容が頭に入ってる!?」

クリスタルが驚けば、聞いていたゴールドがひょいっと顔を出す。

「こいつすげぇんだぜ! 本当にポケモン図鑑に表示される事を全部当てやがる!」
「まぁ、わたし、天才だから」
「て、天才……」

自分で自分の事を天才という人を初めて見た、とクリスはリナを不思議そうに眺めた。

第一印象は不良で、フルートを吹いていた時は格好良くて、今はなんというか自信たっぷりで……凄く不思議な人だった。

そんな事を思いながら登りきると、シルバーが洞穴の前に立ち止まっていた。

「……」
「シルバー、追尾にはもちっと時間がかかるらしいぜ、てめーも手伝いな!」
「あなたの図鑑も、あのポケモンと出会ったことを認識してるはずです! 3人で探せば早く…」

クリスタルは言葉の途中で洞穴の内部に気付く。

「この穴は…!?」
「……!」
「大型ポケモンの足跡やしっぽの後だわ!」

丁度その足跡やら尻尾やらは、先程まで間近に見ていたポケモンの物そのものだった。

こんなに大きい足跡を残せるポケモンは、他に見たことが無い。

「こいつはまさか…!!」
「そうだ、おそらくここはルギアのすみかだった場所」
「なに?」

ルギアの足跡をしゃがんで見てみる。自分の体以上にある足跡は、まだ真新しかった。

「このうずまき列島は4つの小島から成り立っていて、それらは洞窟によって地下でつながっている。
 そう聞いたことがあるけど…、たしかにここならあのポケモンがすみかにしてもおかしくないわ」

海の神様であるルギアにとって最も相応しい場所、それがこの渦巻き列島だった。

海が近く、住むのに適切な大きさの洞窟がある。

「…さらに、ところどころに暴れたあとや血痕がある」
「じゃあ…、あのデカブツはオレらに出会う前に、ここで何者かに攻撃されたってーのか!?」
「そう考えれば納得がいく!」
「それが、さっきまでの暴れようの原因ね」

リナがそう言えば、シルバーは深く頷いた。

「あのわれを失った暴れ方、あれはすみかとそして自身を攻撃されたことへの怒り!」
「でも、だとしたら誰がそんなことを…」

その時、クリスの手にある図鑑がビビーと鳴る。

図鑑を見てみると、画面にはローマ字で「ERROR」と表示されていた。

「エラー!? 追尾不能!?」
「故障かよ!?」
「ちがうわ! ちょっと貸して!」

シルバーの図鑑をクリスが受け取り、開いてゴールドの図鑑と並べた。

その図鑑はいずれも「ERROR」の文字が。

「ほら!! 3つ同時に、しかも同じ機能が故障だなんてありえない!」

一つが追尾不能になったら故障でも納得がいくが、三つは流石に故障という可能性は一も無い。

「もっと正確に言えば、追尾システムは正常に働いているのに追尾できない!
 ということは考えられることはただひとつ!!」

ゴク、と鳴った誰かの喉の音が鮮明に聞こえた。

誰かなんて一人しかいないが。

「もう誰かが捕獲してしまった! わたしたち4人以外の誰かが…!!」

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