レッドは四天王に敗れ、行方を眩ましていたが、奇しくも助かり心配で彼を探していたルナ達と合流する事が出来た。

そして、イエローとそれをサポートした四人の活躍で、四天王+αとワタルは倒された。

その後で、ブルーの企みによって、ルナとレッドは二人きりでマサラへと戻る事になった。

いまだにルナのミサンガの糸が二人の指を繋いでいた。

レッドの後ろを、ルナがちょこちょこと着いていく。

余り距離が空くと糸が引っ張られ、外れてしまうかもしれない。

それだけはどうしても避けたかった。

ふと、顔を上げるとレッドの大きな背中が目に入った。

その背中を見たら、レッドと最後に会った時の別れ際に見た背中を思い出してしまう。

ルナは胸の前で拳を握る。

なんだかレッドがまた幻のように消えてしまう気がして。

「レッド……本当にレッドだよね?」
「ああ、オレだよ」
「……っ良かった、本当に良かったっ」

声がかすかに震えている事に、勿論気付いているが、レッドは振り向かなかった。

「……、オレさ、氷付けにされちまう前にさ諦めかけたんだ」
「……え?」

軽く顔を上げ、その時の事をしみじみと思い出すように語り始める。

何を言おうとしているのかが分からずルナは首を傾げる。

「ああ、もう駄目かなって。オレ死ぬのかなって」
「そんな……!」
「でもさ」

レッドらしく無い不吉な言葉に、衝撃を受けルナが身を乗り出すが、レッドがその言葉を遮った。

そして、レッドは振り返りルナに優しく微笑みかける。

そのルナの大好きなレッドの笑顔に、胸が高鳴った。

「意識を失う前に、ルナの顔が浮かんだんだよ」
「私の顔……?」

その顔は、向日葵のような笑顔だったり、泣きそうな顔だったり、頬を膨らませて拗ねている顔だったり。

とにかくルナの色々な顔が目に浮かんだ。

「それを見た瞬間さ、思ったんだ。オレは死んじゃ駄目だって。オレが死んだら、凄く大事な女の子が悲しむんだ、って」
「……!」

レッドがそのままルナに近付いていく。

「それだけは嫌だな、って。オレ、お前の悲しんだ顔見たくないから」
「レッド……っ」
「ルナは向日葵みたいな、眩しい笑顔がオレは大好きだからさ」

微笑みながらレッドは優しくルナを抱き締める。

ルナは体を強張らせるが、泣きそうなりながら、そっと抱き締め返す。

その温もりはレッドという人間の存在を証明するかのようだった。

「でもな  

ギュッ、と抱き締める力を強くする。

「泣くのを堪えて、他の奴等を心配させないように笑うのも、オレは耐えられないよ」
「っ」

これはリナ以外には誰にも気付かれていないと思ったのに。

ルナは動揺した様子でレッドを抱き締める。

「辛い時はオレの胸の中で泣けよ」

レッドがルナの頭を抱え、ルナの顔は丁度レッドの胸の中に収まった。

「これなら顔見えないから安心して泣けるだろ?」

声の調子で、彼がニカッと笑ったのが分かった。

「あ、あの……っ」

恥ずかしそうに顔を赤くし、視線が泳ぐ。

自分の心臓の音が、相手の耳に届いていない事を祈る。

「寂しかったんだろ? 辛かったんだろ? 泣きたかったんだろ?」
「……っ」

レッドが行方不明と聞いた時の事、レッドが四天王のポケモンから攻撃された事、レッドが氷付けにされた事を聞いた時の不安や悲しみが溢れてくる。

実際聞いた時は、横にイエローが居たりして泣く事が出来なかった。

「我慢すんなよ……」

その柔らかい彼の声が、自分の心に深く染み入る。

途端に、目頭が熱くなったかと思うと、生暖かい水が頬を伝っていた。

無意識に涙を止めようとするが、どうしても止まらない。

「……っう、……く」

声を抑えて涙を流すと、レッドに優しく頭を撫でられ、とうとう声を上げて泣いてしまった。

「う、ああああああ……」

レッドの胸は、誰よりも広く、暖かく、安心する事が出来た。

彼のTシャツを力強く握り締め、号泣している間、ずっとレッドはルナの頭を撫でていた。

今まで溜めていた分の涙を全て流したせいで、落ち着くまで長い時間を要してしまった。

それでも、レッドはずっとルナを優しく抱き締め、頭を撫で続けた。

「……っ、有り難う、レッド」

しゃっくりをあげながら、すっかり腫れぼったくなった目になったルナは恥ずかしそうに笑った。

「どういたしまして!」
「あぅ……でもレッドのシャツぐしゃぐしゃにしちゃったね……」
「ん? いや、大丈夫だって」

自分のシャツを申し訳無さそうに見つめるルナに、問題無いと笑ってみせる。

しかし真面目な彼女は引き下がらなかった。

「駄目だよ! 私、弁償するからね!」
「べ、弁償って……」

大袈裟過ぎる、とレッドは苦笑を漏らした。

「何色が良い? おんなじ黒?」
「あ、いや別に洗うだけで  
「ナニイロガイイカナ?」
「う……」

洗うだけで良いと言おうとしたら、威圧的な笑顔で押し黙らされた。

(別に弁償なんて……ん? いや、待てよ? これは弁償じゃなくてプレゼントって考えれば)

勝手に一人でうんうんと納得したように頷くレッド。

そんな不思議な行動をするレッドに、ルナは可愛らしく首を傾げた。

いきなりレッドは表情を明るくし、眩しい位の笑顔を見せた。

「そうだなぁ、今度は黒じゃなくて白が良いな! ルナみたいな純粋な色のTシャツ!」



彼の温かな胸の中
(ここが自分にとって)
(一番安心出来る場所)
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