そう言いながら照れたようにはにかんで見せる。

ルナも自然と笑って見せる。

『……』

風が吹く。

その風は、ルナの向日葵のような髪と首に巻いた赤いスカーフを揺らした。

ルナはスカーフに触れるだけで、レッドは挑戦状の封筒を眺めるだけだった。

二人は何も喋らず、沈黙だけがその場にあった。

レッドが挑戦状を受け取ると必ず沈黙が訪れる。

しばらくして、沈黙を破ったのはルナの方だった。

「遠いみたいだけど、行くの?」
「あぁ、モチ!」
「そっか……」

毎回感じる少しの寂しさに、ルナ自身戸惑っていた。

「ルナも、たまに挑戦状受けるだろ?」
「ホントにたまにだよ……。レッドみたいに頻繁に受けてるわけじゃないよ」

本来ならば二位くらいに健闘していただろう、なんて誰かが言ったものだから、挑戦状がルナにまで来るようになった。

ブルーは貰っていないのに。

なんて、別に面倒臭い事でも無いのに、ぶすくれてしまう。

「それに、もしこれから挑戦状を貰うなら断るよ。最近研究の手伝いが乗りに乗っているところだから」
「良かったな!」
「うん。……私も、人の事言えないけど、図鑑も埋めてくれると嬉しいな」
「う……、その内な!」

この前、オーキドが「レッドはホントに図鑑を完成させる気があるのか?」なんてぼやいていたのを思い出す。

「せっかく、ポケモンは151をはるかにしのいでいるってわかったのに……」
「え、なんだそれ!」

話を聞かせてくれ、というように身を乗り出すレッド。

本当はまだ断定できない為、人に口外してはダメなのだが。

目を輝かせるレッドに、つい「ちょっとだけだよ」なんて話始めてしまった。

ポケモンの話を聞いたり、話したりするとレッドが無邪気に目を輝かせたりするのが楽しくて。

ルナの、ポケモンの話を語る口がどんどん回りはじめて止まらない。

レッドと話すのが、すごく楽しかった。

気が付くと夕方になっていた。

「じゃあ、明日には行ってくるな」
「うん。頑張ってね」
「あぁ! ありがとな、新しいポケモンの話を聞かせてくれて!」
「ううん! 全然ちょっとだし!」
「それでも楽しかった。じゃあな!」

ニッコリと満面の笑みでそんな事を言うのは反則だ、と顔を赤くした。

しかし、駆けていく彼の背中を見て、胸騒ぎがするのはなぜだろう  

こんなにまで心が落ち着かないのは、なぜだろう  

気のせいだと自分に言い聞かせるように、力強く首を横に振った。

まさかその嫌な予感が当たるなんて、この時のルナには予想もしていなかった。


貴方の背中が遠ざかった
(この時の私は、本当なら)
(どうすれば良かったの?)


20121213

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