ザザザザ……。

水の上を駆けるような音が鼓膜を優しく刺激する。

夢の中では温かい野原で昼寝をしていたからか、少し肌寒く感じる。

出来れば布団が欲し  

「ん?」
「お、気が付いたか?」
「うわあ!!」

ガバッ、と目を覚まして起き上がると、いつものパーカーを羽織っていない黒いお兄さんがいた。

すると前の方から憧れの二人が一緒に近付いてくる。

「よっ、気がついた?」
「イエローさんケガ無いですか? 疲れてませんか? もう少しお休みになった方が良いんじゃないですか  ?」
「あーもー、ルナは本当に心配性だな」
「そうそう。もっとプラス思考でいこうぜ? まず最初に『おはよう』とか」
「それってなんかおかしくないか?」
「煩い。赤ちゃんはお口ミッフィーちゃんにでもなってろ」
「なんだと!?」
「ちょっ、ちょっとお二人共……」

レッドとリュウが火花を散らして喧嘩を勃発させようとしているので、慌てて止めに入るルナ。

今までボーッとそれを眺めていたイエローが我に返った。

「しまった! ボク、また眠って…! ワタルは? あの大きなポケモンは!?」

一人でコロコロ表情を変えてわたわたするイエローに、ルナはクスッと笑った。

相変わらず「彼」は可愛い。

「ワタルはキミが吹きとばしたんだ。あのポケモンなら西へ飛び去った」
「だから安心して下さい」
「もうカントーを襲おうなんて連中はいないさ」

この三人に笑顔を向けられたら、眩しくてしょうがないのだが。

「今、カントーとも連絡がとれたわ。四天王の軍も、ワタルが消えたと同時に力を失ったらしいわ!」
「それにしても不思議だ。イエローくんのポケモンたちは、キャンセルをくり返してきたために、逆に最後は驚異の進化をとげたのか。
 通信での進化のみが確認されているというゴローニャまで…」

後ろの方でギャラドスに乗っている二人、ブルーとカツラが順に言う。

ギャラドスの長い背には、レッド、ルナ、イエロー、リュウ、ブルー、カツラ、ついでに下半身は水の中なマサキという大人数が乗っていた。

そんな事よりも、マサキにはブルーに聞きたい事があった。

「なぁ、ブルー」
「なあに?」
「あのな、イエローの…あの麦わら帽の中身のことなんやけど…。
 わいはおまえから聞いとるし、カツラさんは見てしもうた言うてはる」
「一緒に修業したグリーンも、どこかで変だと思ったでしょうね。鋭いもの! それからあの黒い、結構私好みの爽やかイケメン君も知ってる風だし」

別に知らなくても良い情報が入ってきた気がするが、マサキはあえてムシする。

「…てことは、レッドとルナだけが知らんゆうことか!?」
「そうね」

レッドはともかく、ずっと一緒に旅をしてきたルナは知っていても良いものだが。

しかも、ルナとイエローは過去に一度会って話をしているというのに。

そろそろ彼女の鈍感さは度を越してきている。イエローが不憫だった。

「なんで教えてやらへんねん!!!」
「だってえ…」

片目を瞑って、一度そこで区切るブルー。



「だまっていたほうがおもしろいもの!! ホホホ  !!!」



「……」
(……うるさい女だ)

マサキは呆れたような目をして、グリーンはズボンのポケットに手を突っ込みながら、心の中で溜め息を吐いた。

「と・こ・ろ・で、グリーンはいいの? ルナと話さないで」
「……どうしてオレが」
「そのペンダントの中身、ルナなんでしょう?」
「なっ……!? お前いつのまに……!」

表情を動かさなかったグリーンが、ブルーの一言にポーカーフェイスを崩した。

「ホホホ!! ブルーちゃんを舐めない事ね!」

そこまでいくと、もはや神業としか言いようがない。

もう少しその技術を別の所へと活躍して貰いたいものだと、グリーンは率直に思った。

「で? レッドやあの爽やかイケメン君に取られてもいいの?」
「……」
「アラ、だんまりなんてセコいわよ?」
「……うるさい女だ」

一方、前の方に座っている四人はというと、

「あああ!! なんでお前ら……小指が糸で繋がってんだよ!」

リュウが半ば絶叫して言うと、レッドが少し鬱陶しそうに顔をしかめた。

「しょうがないだろ? いつの間にかルナのミサンガの糸がオレの指に絡まってたんだからさ」
「……あの〜」
「ん?」

オズオズとルナが挙手する。

それからリュウの指辺りを指差す。

「リュウくんとイエローさんも、糸が絡まってますけど……」
  え』

二人は同時に見てみると、確かにイエローとリュウの小指は黄色い糸で繋がっていた。

恐らく、イエローのミサンガもルナと同じように切れたのだろう。

それを見たイエローの顔が、みるみる内に真っ赤っ赤になっていく。

「ごめんな、イエロー! 今頑張ってほど……あ、逆に絡まっちゃった。痛っ!?」
「無理にほどこうとすると危ないですよ!」

真っ青になる指を、ルナが咄嗟に掴んだ。

なんとなく熱を帯びるリュウの顔に疑問符を浮かべながら、それとは真逆に冷たい指を心配して優しく握り締める。

ふと顔を上げると、リュウの顔が思いの外近くにあって心音が大きく鳴り響いた。

いつになく寂しそうな顔をするリュウ。

どうして、そんなにも寂しそうで、切なそうな顔をして自分を見つめているのかわからなかった。

「リュウく  
「ところで、どうすっかなー、ピカ」

わざとか天然か、いきなりレッドはピカチュウの頭に手を乗っけながら言う。

リュウが溜め息を吐いた事は言わずもがなだ。

「手持ちに戻したいけど、キミにもなついているみたいだし…」

途端に、イエローが眉を八の字にして浮かない顔でピカチュウを見た。

イエローの気持ちが伝わってきて、ルナは自身の眉も八の字にした。

無論、ルナのピカチュウともイエローは仲が良くて、それも同等だ。

そんな二人を見て、レッドは満面の笑みになり、



「いっそ、みんなで一緒に暮らすか!?」



「それいいですね!」

ルナが身を乗り出して言うと、イエローとリュウが真っ赤になって黙ってしまい、後ろにいる三人は天然な二人の言葉に呆れていた。


永久の旅路
(この旅路は永久に)
(忘れないだろう)


      YELLOW


Fin...?




こうして、イエローたちと四天王(例外もいたが)の戦いは幕を閉じた。

カントー本土へ戻ったイエロー、レッド、ブルー、グリーン、ルナはカスミらと再会。破壊された町の復興に力をそそぐこととなる。

そして他の者たちもまた、それぞれが新たなる目標を持ち歩き出していった。

マチス、ナツメはサカキの命に従い、自分たちのジムへと戻った。

しかし、キョウとサカキ本人の行方はわからぬままであった。

リュウはたまにトキワを出入りしているようだが、詳細はわかっていない。

ナナは情報屋をメインとした「なんでも屋」をやりながら故郷に帰ったらしいが、これまた詳細はわかっていない。

そして、時間は流れ舞台は移る     



「リナー?」
「んー、なにー?」

ルナの妹、リナは依然としてテレビゲームの画面を見て操作しながら返事をした。

今まで一切ゲームをしていなかったリナだが、ナナミから研究の手伝いが終わった後に「家で暇だろうから」という厚意がきっかけで、すっかり今ではベビーゲーマーになってしまった。

帰宅した時ルナは最初こそ驚いたものの、ゲームなんかに縁が無かった為、リナのプレイを見るのが最近の楽しみになっている。

「あのね、頼みがあるんだけど……」
「何? お姉ちゃんの言うことなら断らないよ」
「そっか! じゃあ  ジョウトに行って欲しいんだ!」
「うん、わかった」

ピタリ。

リナの全ての動作が止まった。

そのせいで、テレビ画面には敵キャラにフルボッコにされ「GAME OVER」と表記されてしまう。

まぁ、どうせさっきセーブしたばかりだから大丈夫  って、そうじゃない。

なんだってええええ!!?

リナの声は、大きなルナ家の豪邸に木霊した。


Fin.



20130413

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