鍾乳洞内を荒い息で駆け抜けていく。

高鳴った鼓動がどうにも止まらず、身体中に響き渡る位になっていた。

ミサンガに、そっと触れる。

ミサンガが切れているという事は、もしかしたらこの近くにあの彼がいるのかもしれない。

勿論、ナナのニャースの素早い引っ掻き攻撃を受けたから、という可能性も決して否定出来ないが、それでも駆ける足は止められなかった。

「意外と、長い、ね……」

肩に乗っているピカチュウに言うと、ピカチュウも不安そうに鳴いた。

「あ、でも……もうちょっと先に出口が  

もう体力的に限界だったのだが、より一層高鳴る心臓と同調するかのようにだだだっと加速する。

そして  



『あ!』



四つに分かれていた道から、レッド、グリーン、ブルー、ルナが同時に出てきて顔を合わせた。

「レッド!! やっぱり無事だったのね」
「命は拾ったようだな」
「はは…は、なんとかね」

間違いない。

特徴的な髪の毛、赤い帽子、綺麗な燃えるような赤の瞳、眩しい太陽のような笑顔。

彼は正真正銘マサラタウンのレッドだ。

「……レッド君」
「ルナ……、ゴメンな」
「何で、謝るんですか」
「心配性なルナの事だから、凄く心配させたんだろうな、って」

目頭の熱くなった目を細める。

違う……謝って欲しかったわけじゃないんだ。ただいつものように笑って欲しいんだ。

ルナはその意味を込めて頬をつねった。

「!」
「……これで許してあげます」
「……ああ!」

ニカッと笑う彼。久し振りに見た彼の笑顔に、胸が熱くなった。

つられてルナも向日葵のような笑顔になる。

「おしゃべりしているヒマはないぜ。とにかく外へ出よう」
「……グリーン、相変わらず空気読まないな」
「……」
「ホホホ、わざとじゃない?」
「……うるさい女だ」
「ああ! 待ってください〜!」


◆ ◆ ◆



空中でイエローとワタルが激しいバトルを繰り広げている中、その真下で倒れていたカツラが目を覚ます。

「う…う…。この糸は…!」

白く輝く絹糸がカツラの目の前に垂れた。

すぐにそれを掴む二つの陰。……それから別のシルエットが二つ。

「キミたちは! ブルーにグリーン、ルナ! それにレッド!」

カツラは苦しそうに額に汗を流しながら、「無事だったか!」とレッドに言った。

「ああ。シバを倒してここにかけつけたぜ」

それから上空を仰ぎ見た。

「上空のあれは!」
「キャタピーの糸がおりてきている…。イエローくんが上に!?」
「イエローさんが……相手はもしかして  
「ああ。相手はキミの想像している通り、四天王の将・ワタルだ。そしてあの鳥はおそらくワタルの切り札!」

それを聞いた瞬間に四人は顔を見合わせてうなずいた。

そして、自分の手持ちのボールを出しあった。

「フッシー!」
「カメちゃん!」
「リザードン!」
「チュカ!」

四匹の技が一斉に放たれる。

それは糸の先の、イエローの下へと飛んでいく。

「糸にそって、上空へオレたちのエネルギーを送るんだ!」

まるで四匹のポケモンをイエローの所へ直接送るかのように。

イエローは、上空で四人がエネルギーが送ったのを感じ取った。

(これは…、ルナさんたちのポケモンの「気」!)

その時ふと、フシギバナ、かメックス、リザードン、ピカチュウ以外の「気」を感じた。

誰かなんて脳で理解する前に、本能でわかる。

自分は己の事を冷たい存在だと思っている、本当は人の何倍も優しいお兄さん。

イエローはふっと笑ってから、気合を入れるように拳を握った。

「ピカ!」
「ピッ」

五匹の「気」を背負い、イエローは光を帯びていく。

本当は戦いたくなんてない。

でも  それでも、ワタルの考えを正すために小さな少年は立ち上がる。

破壊するんじゃない。ポケモン達や大好きな人達を「守る」為に力を使うんだ。

(トキワの森よ! ボクに、みんなを「守る」力を…!!)



100まんボルトオオオ  








彼の足下には幾輪もの花が咲き始めた。

「イエロー……」
「リュウ」
「……首領(ボス)」

いつのまにいたのやら、サカキがリュウの後ろに立っていた。

「首領の捜し物の件ならまだ情報が揃いきってないですけど?」
「ああ、わかってる。お前が最初っからオレの部下なんかじゃない事もな」
「……気付いてたんですか」

「偽わる」者として少し情けないと思うが、ボスのチートさは重々承知だった。

いつかはバレるだろう事もわかっていた。

「でも情報はきちんと提供するつもりなので安心してください」
「……なら、いいが」

居心地がかなり悪くて、咲き始めた花達にまた目を移す。

波動で弾かれたバッジエネルギーを、イエローのトキワの力が変化させた。

さらに、その弾けたエネルギーがカントー本土の方まで及んだ。

これで荒れ果てた荒野、土地に緑が増える事だろう。

「破壊の力」がイエローの優しい心と能力で「与える力」に変わった  

「さて、行きますか。英雄の下へと」

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