「な……なんでよっ!?」

ナナは驚愕を顔に浮かべた。相当、焦っているようだった。

それに対して、ルナはニッコリと笑ってみせた。

「私はもう、過去に囚われないって決めたので」
「!」

悔しそうにナナは顔を歪めた。

その時、足下からサンドパンが飛び出し、その爪で器用にナナの持っているボールをくすねた。

「穴を掘る!?」

サンドパンがそのままルナの元へ行こうとするのを阻止する為、慌てて「カモミール!!」と声を張り上げた。

しかし  

「!光の壁=c…」

ルナのラッキーによる防御で、逆に阻止されてしまった。

そこまで計算されて動いていたなんて。

これ以上に無いくらいに悔しい思いで一杯になって、どうかしてしまうんではないかと思った時、ルナはボールをサンドパンから受け取った。

ブラッキーをボールから出すと、ルナはブラッキーと同じ目線になるようにしゃがみこんだ。

「今までごめんなさい……。これからは貴方と向き合うよ。だから、力を貸して……ゲッコウ」

そう、ルナが言うと『月光』は静かにナナの方へ体の向きを変えた。

一見拒絶に見える行動だが、ルナを守るように立ちはだかるブラッキーは、とても拒絶しているようには見えなかった。

ブラッキーは、口を開けて黒い光を溜めるとナナの後方へと発射した。

「しまっ  

ナナのすぐ後ろには、見えないポケモンがいた。

その証拠に、何もない空中にブラッキーの攻撃が当たったように見えた。

攻撃がぶつかった事により、出てきたるは耳が長く少しネコのように見えなくもない、尾が二股に裂けた薄紫色のポケモン。

そんな幻想的なポケモンが放つ光が消えたと思えば、今度はリュウとスターミー、ペルシアンがパッと姿を現した。

「痛っ!」
「リュウ君!」

嬉しくなって駆け寄ると、リュウは痛そうにお尻を擦りながらニカッと笑った。

「ツバ、キ……」

ペルシアンはと言うと、目を回して混乱していた。

恐らく、リュウの側にいるスターミーの妖しい光≠ノよる混乱だろう。

「よし! さっさと倒しちまおう!」
「ハイ!」

微笑み合う二人に、そうはいかないとナナがキツく見据えた。

「カモミール、ツバキ!」
「ヒエン!」「ロコ!」

ニャースとペルシアン、ウインディとキュウコンがそれぞれ向き合う。

「ネコに小判=v
『火炎放射!!』

キュウコンとウインディの攻撃は、ペルシアンの混乱があってか、避けられずにまともに当たった。

二匹は少し踏ん張る素振りを見せてから、パタリと倒れてしまった。

「くっ……、キキョウ!」

名を呼べば、エーフィが美しい毛を靡かせてナナの前に出た。

エーフィはブラッキーと同じく、まだ世間には知られていないイーブイの新しい進化系だ。

ルナはそれだけはわかったが、後は全く二匹の事を知らなかった。

行動が読めずに困惑するのと同時に、思わず興味深いと思ってしまう。

他にもこの二匹のような未発見のポケモンがまだまだ沢山いるのかと思うと、ルナの前身の血が騒ぐ感覚がした。

「キキョウ、サイコウェーブ≠諱v

エーフィから放たれた技は他でも無く、先程二人を惑わし≠ス技だった。

その技は、真っ直ぐリュウへと向かっていく。

「やべっ」

焦りの言葉を漏らし、リュウは避けようとするが、まともに技を受けた  

  なんて、な」

  ように見えただけだった。

リュウの目の前には光の壁≠張ったスターミーがいた。

焦ったようなアクションは偽り≠フもので、本当は相手を油断させる為の策略だったのだ。

「ルナ!」
「はい!」

すぐさまルナはシャワーズと目を合わせた。

思いを、感覚を、行動を、分かつ≠謔、にルナとシャワーズがシンクロする。

シャワーズの口からは、美しく不思議な薄い光が放たれた。

リュウの策略にまんまとはめられ、油断したナナが驚きに目を見開く。

それもそうだ。全く指示がルナの口からは聞こえず、タイミングが予測出来なかったのだから。

  

ナナは、何も言えずにただエーフィがゆっくりと倒れていくのを眺めていた。

何よりも自分の自慢である惑わし≠ェ、いとも簡単に防がれて、そしてルナの能力を前に何も出来なかった事が悔しかった。

「……っ、はあ」

諦めたような、脱力したような様子で溜め息を吐く。

「ま、いっか。どうせワタルの言いなりになるつもりなんか無かったしー」

それならあんなにまどろっこしい事はしないで頂きたかった。

切実にリュウはそう思った。

「ナナさん」

スッ、と差し出される手。

「何、コレ」

少し顔をひきつらせて言うも、ルナはニコニコニコニコと笑っているばかりだ。

一瞬叩いてやろうか、なんて思うがしょうがないので素直にルナの手を取って握手をする。

どうしてあそこまで酷い事をされたというのに、そんなに自分に優しく出来るのか理解し難かった。

(ただ単に馬鹿なのかしら……)

それでも、悪い気は全然しなくて。

なぜリュウが彼女にベタぼれしているのか、認めたくは無いがわかった気がした。

「……ねぇ、貴女  
「ルナ、です」
「は?」
「ルナ」
「……ルナ」
「はい! なんでしょう!」

名前を呼んだ途端に満面の笑顔になった。

いや、もとから笑顔ではあったが、笑顔は笑顔でも圧力のある笑顔だった。

「そのミサンガ切れてるわよ?」
「え……!?」

見てみると、確かに自分の着けているミサンガは自然にプツリと切れていた。

その事を理解すると同時に、体がすぐに動いて出口へと駆け出した。

ミサンガが切れる時は、その願いが叶った時。

もしかすると  

「あ、ちょっと!? ……行っちゃった。なんなのよ、もー」
「まさかアイツが……」
「え? アイツ?」
「なんでもねーよ」

物凄く不満そうな顔でそっぽを向いた。

「え? え? なんの事よ?」
「だからなんでもねーって。それより」

バサ。

ナナの顔を覆い尽くす大きな黒い布。

引き剥がして直接見てみると、それはさっきまでリュウが着ていた、彼のお気に入りのパーカー。

「え、これ……」
「バーカ。鳥肌立ってんの、見え見えなんだよ」
「ッ!!」

      ッ、と一気に耳まで顔を赤くするナナ。

「大丈夫か? 顔、赤いぞ?」
「〜〜っ。バカッ、天然タラシ〜!」
「は!? タラシ!? なんだそれ!?」
「情報屋でしょ、自分で調べて!!」

パーカーを羽織り、フードを被って顔を隠す。

恥ずかしすぎて顔も合わせられなかった。

「………やっぱり、大好き」
「は? なんか言ったか?」
「……」
「痛たたたた!? なんでつねるんだよ!?」





  レッド!」


恋する者達の混線模様
(愛しい人への想いは)
(強さとなって溢れる)

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