ロケット団の本拠地シルフカンパニー本社ビルにて繰り広げられたあの戦いから…2年という歳月が経過していた  

マサラタウン北  

「うわあああ〜!」

配達員は現在形で、暴れているポニータに振り回されていた。

いつもはこんな事は無いのか、配達員は慌てふためいている。

「ヒヒ〜ン!」
「こ、こら! いい子だからおとなしく……」

それでもポニータはおとなしくはならず、依然として暴れていた。

そんな時、ポニータが駆けていく先に少年少女の影が。

配達員は夢中で叫んだ。

「あ…! 危なーい! キミたち! 気をつけ…」

すると少年は、静かに立ち上がった。

驚く配達員をよそに、少年はボールの開閉スイッチを押す。

そのボールの中からは大きなポケモンが出てきた。

配達員が固く目を閉じていると、その大きなポケモンは花から種を出す。

種からは粉が出てき、ポニータの動きを鈍くした。

倒れたポニータ。代わりに配達員はポニータの背中から投げ出されてしまった。

「うわわ、うわああ」

運悪く、投げ出された場所は石のある地面だった。

このままでは石で身体のどこかを負傷してしまうだろう。

「地面にぶつかる!!」

地面にぶつかる体勢をとり、より一層固く目を瞑った。顔は青ざめていた。

「!? あ…」

ふわりと身体を包む感覚に目を開けると、大きなポケモンの花の中だった。

「よくやったフッシー!」

少年らしい、低くも高くもない声が聞こえてきた。

配達員はポカンとした様子で、少年少女が二人でポニータを撫でているのを見つめる。

「よしよし。あ、大丈夫?」
「いやいや、助かったよ。急にはりきって走り出すもんだから。思わずたづなを離してしまって」

へこへことしながら少年少女に近づいていく。

「ここマサラのきれいな空気は、ポケモンを元気にさせるからね! いつも以上に走りたくなったんだよな、ポニータ!」
「ポニータが好みそうな広い広い草原があるしね。仕方ないよ」

今度は可愛らしい、しかしキャピキャピした声では無い、大人しい声が聞こえた。

少年少女はポニータをもう、なつかせているようだった。

二人をしばらくボーッと見ていた配達員は、思い出したように焦り始めた。

「おっと、いかんいかん、仕事中だった。はやくマサラの配達分届けなくては」

その時、少年が一通の手紙に目線をやる。

それからそれを拾って見つめた。

少女の方は心優しく手紙をカバンに入れるのを手伝っている。

ちょっぴり恥ずかしそうに手をせわしなく動かして少年に目を移す。

「そうそう、キミたち、マサラの人間なら、知ってるかな?『マサラタウンのレッド』その手紙のあて先なんだけど…」

その言葉を聞いて、二人は笑顔を浮かべる。

「もちろん知ってるさ!」
「ええ。だって  
「マサラタウンのレッドとは、このオレのことだもの!」

レッドはボールを投げたりキャッチしたりを繰り返している。

その足や背は二年前よりも伸びていた。

足には黒のスカーフが結ばれている。丁度、少女の首に巻いてある赤いスカーフと同じようだ。

レッドが名乗ると配達員は驚いたようにレッドを指差す。

「ええっ!? じゃあ、キミがあの前回のポケモンリーグ優勝者!?」
「そういうこと! ちなみに、隣のルナも前回の入賞者だよ!」
「れ、レッド……」

わざわざ言う事は無いのに、と真っ赤な顔で恥じらうルナ。

ルナの向日葵のような髪は、二年前よりも長くて艶やかになっていた。

「手紙は確かに受けとったよ!」
「あ、待って下さい! あ、さようならっ」

レッドは手紙を手に、駆け出していた。

きっちり挨拶をしてからルナは配達員の前から遠ざかった。

配達員のポカンとして二人の後ろ姿を見つめていた。


◆ ◆ ◆



広い草原の、座るには丁度良い岩に腰をおろしてレッドは封筒の口を手で切った。

そこには達筆な筆文字で、『挑戦状』と書いてあった。

「ふうーん。挑戦状ね…」
「またですか。二年経っても相変わらずですねー」

「そうだなー」とレッドは相槌を打ってから、ルナを子供みたいな顔で睨む。

「ほらまた敬語ー」
「え、あ、本当だ! ……仕方ないじゃない、癖なんだもん」
「でも敬語で無く話せ、って言ってから二年も経ってるんだぜ?」

不満そうに口を尖らせて言った。

二年経ってもルナはちょくちょく敬語で話してしまう。

簡単に慣れるものでは無いのかもしれない。

そんな時、ルナとレッドの腰のボールからピカチュウが出てきた。

「あっ、ピカ!」
「チュ、チュカ!?」

二匹は嬉しそうに寄り添っていた。

最近ここのところずっと、勝手にボールから出てはイチャイチャし始める。

「またか……」
「すっかり仲良しさんになったね」
「こっちにとったら、はた迷惑だけどな」



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