「 驚いたように、顔を歪めて一歩、後退った。 彼はこんなにも強い目をした事があっただろうか。 自分の知らない彼を見せられた事もそうだが、ルナという少女への深い気持ちを見せつけられたのが何より悔しかった。 リュウにこんなにも愛されて、自分の身を犠牲にする位に全身全霊に守られているのに、それに気付かないルナに何より腹が立った。 「じゃあ……あたしと戦うの……?」 「必要とあれば」 サラリと言ってみせる。 少なくとも、そこには自分を大切に思う気持ちなんて微塵も無いようだった。 それを聞いてまた悔しくなって、下唇を噛んだ。 リュウはルナに向き直り、不安そうな顔を覗かせた。 「オレと、戦ってくれますか……?」 そして、ゆっくりと手を伸ばした。 するとルナは、さっきまで強張っていた顔を優しく崩した。 「勿論です。私もリュウ君と戦いたいです」 そう言って優しく両手を出してリュウの手を包み込んだ。 「ずっと……二年前からずっと、考えていたんです」 「何を……?」 「私がリュウ君に何が出来るかを」 突然の言葉に、リュウもナナもルナを食い入るように見つめた。 少し間を開けてから、ルナは可愛らしくはにかんだ。 「私、リュウ君に守られてばかりで、何も出来ていなかったから。だから何かをしたいと思っていたんです」 ハッとして息を飲む二人。気付いて、いたのか その勘違いも当然だ。 いつもほんわかしていて、『天然』というイメージが二人の中では大きかったからだ。 そう言われてみれば、二年前にシルフで戦った時も、自分がしてきた事やロケット団だという事を見抜いていた。 もしかしたら見た目以上に洞察力が良いのかもしれない。 「むしろ私が守られている事になるのかもしれないけど……それでも、今はこれぐらいしか思い浮かばないから」 フワリと優しく微笑む。 目を見開いてルナを見るリュウも、しばらく経って自分もまた優しく微笑んだ。 その様子を、ナナは酷く悲しげに見つめていた。 「あんなの……勝てないよ……」 「え?」 「っ、リュウが相手だからって、手加減はしないわよ!」 「当然」 何かを振り払うように、ナナは首を振ってからリュウに言うと、リュウは得意気に笑ってみせた。 ちょっとそれは反則だと思いながら、ナナはボールを腰から外して構えた。 「オレが行く」様子見だと言うかのようにリュウはルナの前に出る。 確かに、彼女と知り合いならば、初めはリュウからの方が良いだろう。 静かにルナはうなずいた。 「別に、二対一でも良かったのよ〜」 「言うじゃねぇか」 何気にナナの腰のボールを見ると、彼女の手の中にあるもの以外のボールが五つ。 「……お前、二匹しか持ってないんじゃなかったのか?」 「一応多い方が良いと思ったのヨ」 そう言ってボールを投げた。 ボールからは煙が出て、ルナもよく知ったシルエットが姿を現した。 「カビゴン……」 よく知っていると思ったのは、きっとレッドの手持ちだからだったのだろう。 ルナは少し意外そうにカビゴンを見つめた。 彼女なら、もう少し可愛いポケモンを持っていそうだからだ。いや、別に全国のカビゴンファンを敵に回す気は無いが。 「オイオイオイ〜!? お前、ネコポケモンしか持たないんじゃなかったのかよ!」 「いやいや。このとんがった耳はネコに見えなくも」 「ねぇよ」 「は、はっきり言うわね……」 「ま、そんなトコも好きだけど」ウフフと笑いながら、ナナは楽しそうに言った。 「へーはーふーん。まぁ、この際何でも良いけど」 ナナのアプローチを無意識に横に流しつつ、リュウはちょっと不満気にボールを投げた。 すると、ボールから出た煙が晴れると大きな花の姿が。 「! ラフレシアですか」 「ハナヒラ!花弁の舞い=v ラフレシアは、踊るように一回二回くるくると回ると、頭から綺麗な花弁を舞わせる。 その花弁は凶器となって、ぐーすか寝ているカビゴンに襲いかかる。 いくら威力の高い技とはいえ、カビゴンのHPは高い上に眠っていれば、回復してしまう。 これは長期戦になるか そう思われた、が。カビゴンを見てみると、カビゴンは目を回していた。 『弱っ!!』 「あぁ! フジ! ……だから言ったでしょう? さっき捕まえたばかりなのよ……」 「聞いてねぇよ、そんなの」 あまりにも手応えが無かったからか、リュウは額に青筋をたてている。 「次は大丈夫よ。コスモス!」 そう言って出してきたポケモンはプクリンだった。可愛らしく耳をピコピコさせている。 「では今度は私がお相手させて頂きます」 少し迷った素振りを見せて、結果的にラッキーのハピを出す事にした。 「手加減なんて、してあげないわよ?」 「えぇ、勿論構いません」 恋敵のルナになった途端、目付きが鋭くなったナナと、バトルになった途端、雰囲気をがらりと変えるルナ。 お互いにその変化に気付きながら、顔を見合わせる。 そして、同時に動いた。 『往復ビンタ!=x 同じ技 そう思われた、が。ラッキーのたった一発で、プクリンは戦闘不能になっていた。 『また!?』 「アララ? おかしいわねー? はっ、まさかあの客、そこら辺で捕まえたプリンを月の石で進化させただけのポケモンを押し付けたんじゃ……!」 「しかも捕まえてねーのかよ!!」 もはやここまでくると、リュウのツッコミが匠になってくる。 まさかとは思うが……。 恐る恐るガルーラを三度目の正直だとばかりに出した。すると、ナナもボールからピクシーを出した。 「リ、リアトリスは大丈夫よね!」 しかし、ガルーラがたった一発パンチをしただけで、どうしてそこまで飛んでいけるのか不思議な位に飛んでいった。 『……』 三人共、一同にして黙りこくってしまった。 「さ、さあ! ここからが本番よ!」 「オイコラ」 「だ、だってえ。耳がネコっぽいなら何でも良いかな〜なんて思っちゃったんだもの!」 「オマエな……」 二人はルナを放ったらかしにして、言い合いを始めてしまう。 ふう、と一つ溜め息を吐いた。 それにしても、リアトリスとは珍しい名前をつけているなぁ、とふと思う。 確かリアトリスというのは花の名前で、紫系と白の色があるキク科の植物だったか。 花言葉は燃える思い≠セったか。 そういえば先程の二匹も花の名前だった気が……。 藤(フジ)の花言葉は貴方に夢中≠ナ、コスモスの花言葉は乙女の心=B もしやこの三匹の名前は、隠された彼女の気持ちなのでは。 だとするなら、段々と彼女という人間をなんとなく、わかってきた気がする。 「おまえな……そろそろ本気出せよ」 「ええ 今度は全く予期せぬ事だった。 まだボールにしまっていなかったラッキーが、ゆっくりと後ろへと倒れていく。 『!!』 「ハピ!!」急いで駆け寄ると、ラッキーはぐったりとしていた。その体には、引っ掻かれたと思われる傷が。 先程、ルナの首にうけたのとそっくりだった。 「は、速い……」 ナナの方に目を向けると、その傍らには額に小判をくっつけていて、尻尾がくるりとなっていて八重歯が可愛くて「ニャー」と鳴くであろうポケモンが。 誰かがピカチュウの好敵手とも謳っていた。 「ニャース……」 「そ。あたしの片腕さんよ。スピード重視で鍛えた子よ。パワーは弱めだけど、貴方にはこのニャースで十分でしょう?」 その言葉を聞き、ルナは咄嗟に固唾を飲んだ。 完全にレベルが、違う 咲かせましょう、勝利の花 (だから言ったでしょう?) (手加減はしない、と) 20130316 ←|→ [ back ] ×
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