予想外な事に、来るとは思わなかったリュウが、心強くもルナの味方となってくれた。 リュウの強さは以前に戦った時に、身を持って知っていた。 しかも、人は日々成長するもの。きっと以前にも増した強さだろう。 ルナにとっては心強い事この上無かった。 「それにしても、驚きました。まさかリュウ君がここに来てくれるなんて」 「今まで別件で調べる事があったんだけど、それも終わったし。……それに、丁度この島に用があったしな」 「用?」 「いや。それは済んだ事だから良いんだ」 誤魔化すように、リュウはルナの頭をポンポンと叩いた。 明らかに話を逸らそうとするリュウに、ルナは少し不満げに口を尖らせたが、今に始まった事でも無いので諦めて前へと視線を戻した。 「!? 「おっと」 あまり下の方に注意を払っていなかったからか、ルナは足下の大きな石につまずいて転びかけてしまった。 それを、なんとかリュウが支えた。 「うぅ……、すみません……」 「い、いや、大丈夫だ。ここら辺は足下に気を付けた方が良い」 支えた時の顔の近さに、顔を思わず背けて早口で話した。 冷や汗が尋常では無かった。落ち着け、自分。 「あの……」 「ん? な、なんだ」 「手、痛いんですが……」 「え? 手?」 どこかにぶつけたんだろうかとルナの手を見ると、なぜか自分の右手と繋がっていた。 いつのまにか、無意識に手を繋いでしまっていたらしい。 しばらく硬直していたが、全てを理解すると、リュウはとっさに飛び退いて動揺した。 「え!? いや!! こ、こここれは、その、ゴメン!!」 「あ。いや、あの、大丈夫ですよ? むしろ、繋いでいて頂けると嬉しいです」 エヘッ、と笑うルナ。 なんだろうこの可愛さ。可愛すぎて生きるのが辛い。 ぎゅう……と、握られた小さな手。 これを振り払うなんて誰が出来るだろうか。少なくとも、ヘタレであるリュウにはそんな事が出来るわけが無かった。 手汗は大丈夫だろうか。そんな、付き合いたての彼女みたいな、女々しい不安がよぎる。 「そういえば、私達は五組。相手は四人という事は、四天王の長であるワタルさんに二組で戦う事が出来るのでは 「いや。実はちょっくら耳に痛いウワサを耳にしてね。そうもいかなさそうなんだ」 「ウワサ……?」 「あぁ、まぁ……な」 いまいち確信が無さそうに、曖昧に返事をするリュウ。 教えたくなさそうに誤魔化すのはよくある事だが、情報通のリュウが自信なさげにするのは珍しかった。 まるで、その情報を故意にぼかされたかのようだった。 「あのさ」 ピタリ。 急に立ち止まられ、ルナは少し驚いて身を引いた。 彼の表情をうかがうと、凄く真面目な表情をしていた。 まじまじとリュウを見つめているからか、その顔が綺麗で女装に向きそうな顔だなんて思ってしまった。 それでも、男性らしいたくましい骨格に、魅力のようなものを感じずにはいられなかった。 「もう一度、今度改めて言いたい事が 「ちょっとリュウ! なによ、その子!!」 「うげ……」 リュウが一気に苦虫を噛み潰したような顔をした。 目線の先には蒲公英の髪と、マゼンタの綺麗な瞳の美少女。 体が細く、腰はくびれていて、胸もでかい。吊り上がった目は、睨んでいるようにも見えるが、いかにもお姉様という風格だった。 真っ白いワンピースが、美少女の白い肌と溶け込んでいる。 ただ、物凄く露出が高かった。 「手なんか繋いで〜!!」 いや、露出的にはあのブルーと大して変わりは無いが、なにしろワンピースのスカート部分がフワフワとしているため、少女がピョンピョン跳ねる度に見えそうだった。 見えそう……だが、見えない。 そんな男の心を揺さぶりそうな微妙なラインだった。 「え、と……お知り合い、ですか?」 「ええ!! それはもう!!」 ガバッ、と勢いよくこちらを向かれた。 その折に凄く良い香りが鼻をくすぐった。 「私達……恋人同士なんだから!」 語尾にハートをつけて言う自称彼女さん。なんだかブルーに少し、似ている。 それに対してリュウは、とても真っ赤っ赤な顔で否定すると思ったが、とても冷静な顔で少女の頭を殴った。 「お前何勝手な事言ってんだよ」 「ぐすん。痛い……」 本気で痛そうだった。少女は目に涙を溜めて頭を擦っている。 それにしても、流石は恋する乙女。 綺麗な顔で、大人の魅力があり、とても物静かそうな雰囲気がある。 しかしリュウと今いるこの時は、決してそんな雰囲気は無く、ただ好きな人と一緒にいたいという気持ちで一杯のようだった。 「あの、貴女も四天王なんですか?」 「え? 違うわよ?」 速答された。しかも真顔で。 「え、あの、ではなぜここに……?」 四天王では無いのなら、ここにいる意味は無いでは無いか。 「んー、まぁ、でも一応ワタルに派遣された事になるのかしらね?」 「オレに聞くな」 「ワタルさんに……派遣……?」 「ええ」 爽やかな笑顔を向ける彼女は、それはそれは綺麗だったが、その笑顔を見てあまり良い予感はしなかった。 はっきりとはわからないが、なんだか恐ろしいオーラをまとっているように見えるのだ。 「貴女の敵として、ね」 ハッ、として避けようとした時には既に遅く、ルナの首もとは少女のポケモンによって傷つけられた。 肝心の、彼女の出したと思われるポケモンは、もうボールに入ってしまっているようでわからなかったが。 生ぬるいものが赤いスカーフの下へと滴り落ちた。 痛みは無かった。だが、恐怖だけがルナの身体を支配していた。 「あたしはナナ。四天王長、ワタルから図鑑所有者のルナ 唖然としているルナの前に、リュウが立ちはだかった。まるでナナからルナを護るように。 「リュウ、く……」 「……リュウ。あたしのビジネスの邪魔をする気? 同業者じゃない」 「……」 「ワタルに、イエロー・デ・トキワグローブの情報を売ったからここにいるんでしょう?」 「 首もとをおさえながら、ルナは耳を疑ってリュウを見る。 リュウは押し黙ってしまっている。否定も弁解もする様子が無かった。 という事は、答えはYes。 そんなのは認めたくない。否定の意思くらい示して欲しかった。 このままでは、リュウがルナにとって一番許せない事をしたことを認めることになってしまう。 チラリと、ほんの少しだけ目をこちらに向けてくる。 その時の眼がひどく寂しげで、悲しく孤独で、子供みたいに泣きそうだった。 思わず目を白黒させてしまった。 「オレは……確かにワタルに情報を売った。それに関しては弁解の予知はない」 静かに目を伏せるリュウ。 ◆ ◆ ◆ 「 「ほう。なるほどな」 (まあ、結構ぼかしたけど) イエローの情報を、四天王の長であるワタルに話終えた後、リュウは心の中でチロリと舌を出した。 仕事とはいえ、二年前に出会った心優しい少女の情報を全て売るわけが無かった。 ましてや無償だ。ワタルとてそれは承知の事だろう。 ←|→ [ back ] ×
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