「ナツメ、キョウ、マチス!!」
「それに、カツラさん、グリーンさんまで!!」

この四天王の本拠地である、ここスオウ島の洞窟内部で、

レッドのピカチュウを連れたイエロー。

プリンを連れたブルー。

シャワーズを連れたルナ。

ゴルダックを連れたグリーン。

一つのマスターボールを持ったカツラ。

フーディンを連れたナツメ。

ベトベトンを連れたキョウ。

手ぶらで雰囲気に気圧されているマサキ。

エレブーを連れたマチス。

なんとも偶然だとは思えない面子である。

「イエローくん、ルナくん、よく来たな、と言いたいところだが、一緒にいる2人は誰かね?」
「ブルーさんとマサキさんです。ボクのことを追って合流してくれました」

カツラの疑問も当然だ。カツラにとって二人は初見なのだから。

しかし、それならばこちらも色々聞きたい事があった。

「あのう……そっちの人達は?」
「ム……」
「マチス、キョウ、ナツメ。元ロケット団だ。オレ達も今ここではち合わせたところだが」

イエローの純粋な問いに、カツラが言葉を濁らせていると、グリーンが代わりに答えてくれた。

「ククク」「ウフフフ」「ハハハハハ」

いきなり笑い出した三人に、グリーン達は不思議そうに視線を向けた。

「なぜオレ達がここにいるのか知りたいか? べつにこ難しい説明など全くない。オレ達も四天王を倒すためにここへ来た、…ただそれだけのことだ」
「四天王を倒すだと!?」

そのキョウの言葉に、六人は驚いた。あのグリーンも表情を動かす位だ。

一体何のために四天王を倒すだなんて事をする必要があるのだろうか。

「ああ、いい機会だから教えてやろう。
 オレ達ロケット団を壊滅させたと、おまえらは喜んでいただろうが、そんなものとんだ思い違いよ」
「シルフカンパニービルが完全に崩れきる寸前、私たちはあの場所から去ったわ。
 そして今まで復活の準備をし、その時を待っていたのよ!!」
「ところが…だ、今カントーは四天王の攻撃を受け、人々は消されようとしている。
 …オレ達が制圧するはずの場所で勝手なことは許さん!!」

生きているとは思っていたが、まさか復活の準備をしていただなんて。

ルナは思わぬ話に耳を疑った。

「アナタたちも打倒四天王をかかげてこの場に来たのでしょう?
 邪魔をしない…というのなら……、この場は、手を組んであげてもいいわ

その言葉に、誰もが固唾を飲んだ。

「『敵の敵』は『味方』…というわけだ」

この三人の強さは六人全員が知っていた。

特にブルー、グリーン、ルナ、カツラはその目で見た事がある。

手を組めたら頼もしい事この上無い。

しかし、まだ信じられない部分も多少なりともある。

一番この中で警戒しているのはルナかも知れない。

「手を組んでやってもいい…か、それはこっちのセリフだ」
「ホウ」

グリーンが言うと、キョウは興味深そうに妖しく微笑んだ。

「オレはオーキド博士と因縁のあるという四天王を倒すために来た、それだけだ。
 その邪魔をしないというのなら、おまえたちがどこで何をしようと知ったことじゃあない」
「ウフフ、決まりね」

すると、ナツメはフーディンの名前を呼んでスプーンを九本を九人に渡させた。

「!!」「?」「わっ」「な、なんや!?」

そのスプーンは普通に、給食でカレー等を食べるスプーンと何ら変わりは無いように見えた。

しかしあのナツメが、フーディンの手によって渡させたスプーンなのだから普通な訳が無かった。

「ナツメよ、運命のスプーン曲げ=cというわけか」
「そうよ」

やはり普通のスプーンでは無いようだった。

「アナタたちはカントー襲撃中の今、この島は逆に手薄だと思っていたかも知れないけど、四天王本人たちはこの島から動いていないわ」
「なに!?」
「敵は4人、こちらは9人ということは…2、3人ずつの4組にわかれて戦うことになる! 全員、そのスプーンを持ったら、戦う気持ちを強く念じること」

念じるだけでスプーンが曲がってくれるのだろうか。

それはなんというか、凄く楽しみだった。

「フーディンが、その念を受け、運命のスプーンで組む相手を決めるわ!!」

少し違ったようだ。

「………」

ルナはじっとスプーンを見つめた。

正直、ロケット団と手を組むのはあまり気が進まなかった。

それでも、レッドを探し、そしてこのカントーを守る為には致し方がない。

(私は四天王を倒して、このカントーを再び訪れた危機から救いたい!)

イエローとカツラの一組目が出来、グリーンとキョウの二組目が出来、ブルーとナツメの三組目が出来る中、ルナのスプーンは未だに曲がらなかった。

(あれれ……どうしてだろ?)
「!! 曲がってへん!」

充分戦う意思を念じたというのに、曲がらないスプーンに首をかしげていると、マサキのスプーンも曲がっていないようだった。

「運命のスプーンは戦う意思のない者や組むべき相手がいない場合には反応しない」

断然ルナは後者だった。そう、思いたい。

すると、マチスのスプーンも曲がっていなかったようだ。

「キョウやナツメと同じ理屈で言やあ、オレの相方はレッド…ってことになるがな。ウワハハハ、まあいい。…数あわせだ、来い!!」
「へ!? えええええ〜〜〜!!」

確かにその理屈でいくと、ルナのスプーンが曲がっていない事も納得がいく。

なにせ、自分がシルフで戦った人はリュウなのだから。

この場にリュウはいない。今どこで何をしているかもわからない。

「あの、私も曲がってな  

その時。

ぐにゃ。スプーンがあらぬ方向に曲がった。

まさか、とルナは嫌な予感がした。

「やっ」

運命のスプーンを持って、ウインディに乗ったリュウが現れた。

そのスプーンは、ルナのスプーンの方向に綺麗に向いていた。

「り、リュウ君!?」

なぜこんな所に。そんな疑問で頭が一杯になってしまう位、不思議で堪らなかった。

「リュウさん……?」

すると思わぬ所からリュウの名前を呼ぶ声がした。



「おー、久しぶり。イエロー・デ・トキワグローブ」



ルナとブルーは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。

それもそうで、イエローのフルネームを知っているなんて。

「お知り合いですか!?」
「んー、トキワの森で色々とな」
「リュウさんっ!」
「わとと」

歓喜の余り抱きつくイエロー。

もっとどういう関係なのか気になってしまう。

しかし、イエローはこれ以上無い位に嬉しそうにしているから、それでいいかななんてルナは思ってしまう。

イエローとリュウは、出会った時の事を思い出す。

二人の出会いは、二年前のトキワの森だった。

レッドに助けて貰った後、そしてレッドと約束をした後、イエローは自分にも何か出来ないかと彼を探しに森に入っていった。

まだ暴れているポケモンがいるのか、嫌な雰囲気が辺りを漂わせていた。

だんだん不安感が胸を締め付けてくる。

  どうしよう……。

イエローはうるさい位に鳴っている心臓を抑えようと、コラッタを強く抱き締める。

トレーナーと、そのトレーナーが持っているポケモンの気持ちは繋がる。

だから、コラッタはイエローが困っている今、非常に困っていた。

そんな二人  正確には一人と一匹だが  の嫌な予感が的中したかのように、後ろの草むらはガサガサと音が鳴った。

そこでレッドやルナが出てきたら飛び付いたが、不幸にも草むらからポケモンが、逆に飛び付いてきてしまった。

「きゃああああ!!」

刹那。

光のような速度で大きな紅蓮の炎が、イエローの脇を通り過ぎる。

目を瞑って身を縮ませたイエローは、いつまでたっても攻撃が彼女に襲いかからない。

恐る恐る目を開けると、真っ黒な少年  リュウが少女の前に背を向けて立っていた。

側には先程イエローの脇を通り過ぎた、紅蓮の炎を吐き出しているウインディが。

飛び散った火の粉がリュウの横顔をキラキラと光輝かせたように見せた。

そんな彼を見た瞬間、見惚れてしまって目が離せなくなる。

それと同時に鼓動が素早くなった気がし、頭に忙しなく響き、顔も熱い。

「大丈夫? お嬢ちゃん」

リュウが爽やかな笑顔をイエローに見せた。

その格好が良くて、可愛くて、ほんの少しの幼さを感じさせる笑顔に、胸が苦しくなった。

初めての感覚に、コラッタをより一層強く抱き締めた。

先程も、赤い少年に助けて貰ったが、ただのお兄さんのような認識しかしていなかったのに  どうして。

「おーい、大丈夫かー?」

目の前でリュウが、手をひらひらさせる。

ハッとして思わずうなずいた。

「う、うんっ」

少し訝しげな顔をしたが、「そっか」といってくれたので、安心して息を吐いた。

リュウがイエローから顔を背けて、周りを見渡し始めた。

(思った以上に数が多いな)

顔がイエローからは見えない為、リュウの冷たく暴れたポケモンを見つめる瞳には気付かなかった。

「お嬢ちゃん、名前は?」
「……イエロー。イエロー・デ・トキワグローブ」
「トキワグローブ……(トキワの子か……)」

イエローの名前を聞いた瞬間、リュウの目付きが鋭くなった。

しかし、それは本当に一瞬で、次の瞬間にはニッコリと笑顔になっていた。

「おっ、お兄ちゃんは?」
「オレ? オレはリュウだ」
「リュウ、お兄ちゃん?」

良い名前だと素直にそう思った。

漢字に表すと竜≠ノなるなんて本当に素敵だと思った。

また、リュウもイエローの名前は良いと感じていた。

その名に劣る事の無い位、綺麗な黄色の髪色と眼の色だったからだ。

「よし、イエロー。  走るぞ!」
「へ、あ、きゃあ!」

いきなり何の前触れも無く、お姫様抱っこをされて思いきり、それはもう驚いた。

恐らく数が多い為、走って逃げた方が良いと考えたのだろう。それでももう少し方法はあっただろうに。

それにしても、走りながらウインディに技の命令を口にしているリュウは尋常な体力を持っていた。

「んで、どこに行くつもりだったんだ?」
「えと……暴れたポケモン達を大人しくさせている人達のお手伝いに行きたくて」

そう言うと、リュウは少し苦い表情を浮かべた。

「いや、それはあの二人≠ノ任せた方が良い」

何かを悟ったように言うリュウ。

それを聞いたイエローは悲しげにうつむいてしまった。

なんだか悪い事をしてしまったようで、心苦しくなるのだが。

「私もトキワ出身だから……何かしたいの、でも、やっぱり私は子供だから何も出来ないのかな……」
「……じゃあさ」

リュウの漆黒の瞳が、優しく、和んだように細くなった。

「トキワの人達を待ってやってさ、帰ってきたら言ってやれよ」



  お帰り。



「ってさ。それだけでトキワの人達は救われるさ」
「それだけで?」
「そ。その一言が聞けただけで幸せになれるんだぜ?」

にっこりと笑って言うリュウに、イエローの瞳はキラキラと光り輝いた。

自分にも出来る事がある。そう思ったらイエローの心は浮き立つような、沸き上がるような気持ちになった。

「逆に手伝おうとしたら、気持ちは嬉しくともイエローにとっては凄く危険な事で、トキワの人達はイエローを叱らなきゃならない」
「……」

イエローはレッドに助けられた時に、町の人達に怒られた事を思い出した。

あれがそういう事なのだろう。

「家はどこだ?」
「えと、あっち!」
「よし! しっかり掴まってろよ!」

ウインディに火炎放射≠指示してボールに戻しと、代わりにカイリューをボールから出した。

そして、急上昇していく。まるで絶叫アトラクションか何かだ。

最初は浮遊感が恐くて、気持ちが悪くて目を瞑っていたが、その上昇が止まると恐る恐る目を開く。

すると真っ青な空が目の前に広がる。

「わあっ」

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