就眠している時にルナはピカチュウの異変に気付いてイエローの体を揺さぶった。 「んぅ……どうしたんですか、ルナさん?」 「ピカが……」 それは悪夢を見ている時のように、額に汗を浮かべて苦しそうにしている。 ルナにも覚えがあった。 二年前まで見ていた悪夢を見ていた時も、今のピカチュウのようだった。 「ピカ、ピカ!!」 すると、ピカチュウは勢い良く起き上がった。 「 余りの痛さに声が出なかった。 ピカチュウの耳が、思いきり手に当たってしまった。 「ピカ…、また同じ夢を見たのかい?」 「また? やっぱりこれっきりじゃないんですね」 「はい……」 そう言ってイエローは目を伏せてしまった。 ピカチュウが何かを伝えようとしているのはわかるのだが、いったい何を伝えようとしているのかがわからないのだ。 そんなイエローを見ていると、ルナも悲しくなってしまう。 『なにしょげてんのよ!!』 マイクを通した声に驚いて、体を跳ねさせる二人。 声がした図上を見上げると、ブルーがプリンに乗って手を振っていた。 『!』 プリンがこちらに近付き、ブルーと何かの陰が下に降りてきた。 『ブ…ブルー(さん)! …とマサキさん!?』 ブルーは軽やかに着地し、マサキは地面にそのまま落っこちてお尻をさすっている。 「そうや。来たでえ、久しぶりやな」 「ブルー!」 「ホホホ。今日は積極的ね、ルナ!」 イエローとマサキが握手している脇で、ルナがブルーに抱きついていた。 結構な月日、会っていなかったから感動がひとしおだった。 「イエロー、ルナ、あなた達の危機を知って追ってきたのよ」 優しくルナを引き離した。 「この四天王の本拠地、スオウ島まで」 そう、ここはもうスオウ島だった。 一見して火山のような形をしていて、中央に大きな穴が開いている島だった。 「夕方上陸して、暗くなるのを隠れて待っていたんです、今まで」 「良い判断だわ。少しは勉強したみたいね。ウフフ」 「た、多分ルナさんと一緒に行動していたお陰です!」 「ルナは無駄って位に知識があるものね」 「む、無駄って……」 確かにいらない知識まで持っている時があった。 ケンタロスを赤いマントを見せたら突進されてしまった人の人数とか。 メノクラゲとお風呂に入って感電してしまった人の年間平均人数など。 これは無駄過ぎる。と、いうかどこから情報を手にいれたのだろうか。 「とにかく、このブルーさんが来たからには敵の好きにはさせないわ」 親指を自分に向けて言うブルーは、本当に頼もしかった。 すっかりお姉さんという感じだ。 「ちょっと寒い島ね、ここは。上着を着たほうがよさそうだわ」 肌の露出が高いなら、それはそうだろう。 逆に、今までその露出が高い格好でよく寒くなかったと思ってしまう。 「イエロー。ルナとの二人旅はどう?」 「とても勉強になります! ルナさんとっても優しいですし」 にこっと笑ってそんな事を言った。 思わず恥ずかしくなって頭を掻いてしまう。 「それに……」 「それに?」 「わあっ! ルナさん!?」 今まで隣に居たのに、まるで今隣に居た事に気付いたような反応だった。 続きを聞こうとしても、真っ赤な顔で首を振られてしまった。どうしてだろうか。 イエローは逃げるようにマサキの方に行ってしまった。 「……ど、どうして……?」 「さあね? 女には色々隠し事があるもんよ」 「女? ブルー、イエローはあんなに小さくていくら可愛くても男の子だよ?」 「………」 「え、な、何ですか」 まじまじとルナを見ると、ブルーは苦笑いになった。 小さく、「まさかルナがこんなに鈍感だとは」とか呟いている。 もっと疑問がつのってしまった。 イエローの方を向くと、丁度何か聞いている所だったようだ。 「マサキさん、どうしてブルーさんといっしょに?」 「あ、そういえばそうですね」 「こいつがいきなり押しかけてきたんや。まぁ、話せば長なるんやけど…」 「さ、さあ! もたもたしていてもしかたないわ。いくわよ! ぷりり!」 ブルーは誤魔化すようにマサキを引っ張った。 それなりに付き合いがあるルナは、だいたいブルーが何をしたのか理解した。 そんなこんなで、プリンが大きく膨らんで四人はそれになんとか掴まった。 「わわっ」「うわっ」「ふわっ」 プリンに乗るのは久しぶりで、ルナも二人に混ざって驚いてしまった。 久しぶりのプリンの柔らかい感触が、ルナの手に伝わる。 マシュマロを持った感触を想像して頂ければわかるだろうか。 「そして、えんまく≠お願いよ、タッちゃん!」 素直にうなずくと、タッツーは口から黒い煙を吐き出した。 みるみる内に、プリンが綺麗に煙幕に包まれた。 「オッケー!」 「おいおい、ちと大ゲサすぎるんとちゃうんか?」 「いいえ、ここでは…島内の移動にも最大の注意を払わなければいけないわ。ごらんなさい」 ブルーは、マサキにスコープを渡した。 ミュウの発見にも使われたスコープだ。 このスコープなら、暗闇の中から外部を見ることが可能だ。 マサキはスコープで外部を見ると、うようよヤドランがいた。 「寒いわけはこれやったか! こら、うっかり地上を移動したら3歩あるくごとに戦闘やでえ!」 「そういうこと!」 どういうことなんだ、とルナもスコープで外部を見た。 なるほどなっとく。これではまともに地上を歩けそうには無い。 「ぷりりの気球は、スピードはともかく静かさは天下一品だもの! さあ、イエロー。どっちに行けばいいの!?」 カツラから貰った地図を、イエローは取り出して目を通した。 しかし、 「あれ、どう見るのかな? ええと…、こっちかな!?」 「ええい、わいが見たるわ! 貸しいや!」 「ちょっとマサキ! 無理に動かないで! ただでさえせまいんだから!」 「四人だもんね……って、どさくさに紛れて抱きついてない?」 「ホホ。気のせいよ!」 いや、どう考えてもブルーはルナに抱きついていた。 まぁ確かに、場所はその分広くなるかもしれないが。 「なんやねん、せっかくわいが…」 「やめてよ! ルナに近づかないで!」 「え、そっちですか!?」 「うわっ」 どうでもいいが、これでは静かさも何もあったものじゃないんではないか。 そうルナが脳裏によぎった時、イエローの手の地図がひらりと離れていってしまった。 「あっ、ああっ、地図が!」 「あっ! アカン!」 地面に落ちてしまった地図は、綺麗にヤドランの目の前へと。 ヤドランはどこから落ちてきたんだと、不思議そうに辺りを見渡しながら地図を拾った。 広げてみるとあら不思議。何が書いてあるのかサッパリサッパリ。 頭を悩ませるヤドラン。 四人は必死に捨てるように懇願した。 (捨てろ! 捨ててくれ!) (捨てるのよっ!) (捨てますようにっ!) (捨てて下さいお願いしますっ!) それはもう必死に。端から見たらなんてバカバカしい光景だろうか。 しかし四人は命がかかっているかのように、必死なのだ。 だが期待を裏切らず、ヤドランはその可愛らしい口に地図をくわえてしまった。 『あ〜〜〜〜っ!』 四人は衝撃を受けたように、声をあげた。 「どうするんやっ!」 「あなたのせいでしょう!? マサキ!」 「今はそれどころじゃないですよ!」 「ちょっと見てください!」 ヤドランはのそっと方向を変えて、どこかに行こうとしていた。 一体どこへ向かっているのだろう。 「どこへ行くんや!?」 「主人に伝えに行くんではないでしょうか、今のことを!」 「地図の味は無味だった、とかでしょうか」 「それ絶対ちゃうやろ!」 それ以外何を伝えに行くんだ、という位ルナにはそう思って仕方なかった。 「どうしましょう、ブルーさん」 「………」 「もうおわりや〜」と言っているマサキの側で、ブルーはしばらく考え込んだ。 「タッちゃん!」 ブルーが出したタッツーは、跳び跳ねながらヤドランへと向かい、ぴととくっついた。 鈍感なヤドランはタッツーがくっついた事に気付いていないようだった。 「あのヤドランが見えなくなるまでここで待つ! 充分距離がとれたら追うわ!」 「あほか! 見えなくなったら追えへんやろ!!」 タッツーを見ると、タッツーは口から墨を垂らしていた。 先程からタッツー大活躍である。 「そのためのタッちゃんよ! あのスミをたどるの!!」 「…なるへそ!」 「なるへそ?」 ブルーは危なくなったらすぐ逃げるように、心の中でタッツーに問い掛けた。 「……急ぎましょう。今、こうしている間にも、ハナダやニビ、タマムシが総攻撃を受けているんですから」 コクンとルナは力強くうなずいた。 (頑張って、カスミ! エリカ! タケシさん!) ←|→ [ back ] ×
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