キラキラと輝く氷の表面。 そのガラスのような透明感は氷像のようだが、きちんとレッドの形を象っている。 だんだんとルナの体は落ち着きを取り戻し、冷えていく感じがスッと消えていった。 「あ…。レ…レッドさん! レッドさん!」 「ピ…ピピピピィ〜ッ!」 「落ちつくんだ、イエローくん、ピカ!」 「冷静になって! 二人共!」 画面へと飛び付く二人を、カツラとルナが止める。 「それはレッドではない! …そうだな、タケシ」 『ああ、カツラさん。コイツはレッドの形をした氷像、ただの氷のかたまりだ』 やはり。 ルナは心の中で溜め息を吐いた。 脱力三割安堵七割だった。良かったと言えば良かったのかもしれない。 『そして中は空っぽ。まるで中身がはい出した後のサナギみたいに背中側が裂けてる』 「いたけれどいないという言葉の意味がそれか…」 「タケシさん、つまりその像は、氷攻撃で凍らされたレッドさんが…その後ぬけ出たものだってことですか!?」 『そうだよ、イエロー』 確か、前にもそんな氷攻撃に惑わされた事があった気が 「そういえば、その時私は居なかったんですがレッド君は二年前、シルフカンパニーの戦いの時も氷像にされていました。おそらく同じような技だと思われます」 「だとしたら自力で出ることは不可能だ。…助けた者がいるとしたら誰が、なんの為に…」 その時。 まるでノイズが入ったように、通信機がけたたましい音を発した。 「む、通信に割り込みが!!」 すると画面が突然切り替わり、ルナがよく見知った顔が映し出される。 『カツラさんっ!! 大変!! ニビが! 格闘ポケモン軍団に襲われてる!』 「カスミくん!?」 正義のジムリーダーで、ルナの友人でもあるカスミが、焦りきった表情で画面の向こうにいた。 『タケシに伝えて! そして…ニビだけじゃないの!』 「何?」 『アタシの町ハナダもエリカのタマムシも…』 それだけ言って、声は途切れて画面は砂嵐一色になってしまった。 きっと、ハナダの方のポケモン軍団の対処に向かってしまったのだろう。 「カスミくん! カスミくんっ!! 切れてしまったか。タケシ、聞こえたか!? 今すぐ山をおりるんだ! タケシ!!」 『ああ、聞こえてたさ。オレの…ニビシティが燃えてる! いくぞ! ツブテたちよっ!!』 そこで声は全く聞こえなくなった。 今頃、タケシは山を急いで降り、カスミはスターミー達で対抗し、エリカは持ち味の冷静な判断を生かしてラフレシアで対抗している事だろう。 正直ルナは、いきなりの怒濤に波濤に激動のてんやわんやの急展開に、着いていけない感をひしひしと感じてしまう。 「ついに四天王の本格攻撃が…始まった!」 その核心を突いたカツラの言葉に、今更ながらドキリとしてしまう。 「だが考えようによってはこれは好機(チャンス)だ」 「好機!?」 「……どういう事ですか」 すると、おもむろに地図を取り出すカツラ。 ルナには全く読めない。いや、読み方だって方角の読み方だってわかるが、なぜか読めないのだ。 「じつは独自の調査で、四天王の本拠地の目星がついている! …ここだ!」 「ここは…!」 スオウ島。地図にはそう書いてある。 ルナはこの13年間で、そのような島の名前は聞いた事が無かった。 「地図にはない島だ。おそらく四天王は私がカスミ達と合流すると考えているだろう」 「ま、まさか……!」 「そう、そのまさかだ。裏をかいて…今、この島に攻め込む! キミ達と私でだ!」 「えええ!?」 まさかとは思ったが、本当にそうだとは。 ルナは自分の想像をカツラに肯定され、戸惑ってしまった。 驚きの声を発したイエローの声がなんだか遠くに感じる。 しかしこう言ってはなんだが、自分はともかく、イエローにはとても重役すぎるのではないか。 イエローの顔を盗み見ると、案の定困惑しているというか、不安そうにしている。 「ボクと…ルナさん、カツラさんの三人だけで…」 そんなイエローの服の裾を、何者かが引っ張った。 それは赤い頬っぺで、黄色のシャツをまとったギザギザ模様のポケモン、ピカチュウだった。 「ピカ!」 その小さな彼の小さな瞳は、やる気に満ちていた。 「さっき、レッドさんのことを聞いて…!」 ピカチュウの気持ちを感じ取ったのか、今まで不安で一杯だった顔は、ピカチュウの気持ちと同調したような、やる気に満ちた顔へと変わっていた。 「よし! ボクだって同じ気持ちだよ、ピカ!! それに……きっとルナさんだって!」 イエローは顔をあげてルナを見ると、ルナはとても優しく微笑んでいた。 そしてミサンガを見せるように腕を掲げて、ゆっくりとうなずいた。黄色と向日葵色のミサンガが揺れている。 パアッと笑顔になったイエローもミサンガを見せるように腕を掲げて、ゆっくりとうなずいた。黄色と緑色のミサンガが揺れている。 『行きます! カツラさん!』 芯の強い二人の声に、カツラは頼もしくも力強くうなずいた。 刹那。カツラの手の所辺りが強張り、辛そうに汗を流して膝をついてしまった。 『!?』 「どうしたんですか、カツラさん!」 「カツラさん!?」 二人が駆け寄る。近くに行くと、やはり異常では無く辛そうな事がわかってしまう。 汗も尋常で無い位、流している。 一応ハンカチで拭くが、拭いても拭いても汗は額から顎にかけて流れてしまう。 「いや、なんでもない…。地図を渡す、先に行っていてくれないか?」 「ええ!? で、でも…」 「別ルートで行ったほうが有利だ。キミは島の反対側から上陸するんだ。私は…準…備をして…追いかける……いいね!!」 「……」 決意したような、まだ不安な顔を向けてくる。 ルナは黙ってイエローの背中を叩いた。 「わかりました」 地図を受け取り、強い瞳で言った。 すぐにイエローはピカチュウの身代わりに乗り、ルナはジュゴンに乗った。 「いきましょう! ルナさん!! ピカ!!」 「はい!」 未来を背負った二人は、海の上を駆けていった。 明日を生きる少女達 (不安だけど、きっと大丈夫!) 20130201 ←|→ [ back ] ×
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