火の点いたの球は火球となり、無数の火球はおじさんへと飛んでいった。 思わずイエローは身を乗り出した。 「火球が! あんなにたくさん! つり橋の上では左右には逃げようもないし、バランスを崩したら落ちてしまう!」 確かにそうかもしれない。 しかし、ルナはそれでも不思議と不安になる気持ちは無く、大丈夫だという確信があった。 おじさんは火球に向かって走り出した。そして、右手でそれらを弾く動作をする。 そうするとまたおじさんの背中の影は、おじさんとほとんど同じ動作をした。 その影を見るたびに、ルナは心の奥底から奮い立つ何かに胸元を優しく掴んだ。 次々とおじさん、というよりは背中の影が火球を弾いていく。 よく見るとスプーンか何かを持っている気がしないでも無い。 一瞬、少し明瞭になった影にルナの鼓動は一層速度を早めた。 見たことがあるシルエットなのだが……どうも思い出せない。 火球を全て弾いた時、おじさんはその背中の影 「ふしゅー」 おじさんはボールをキャッチすると、こちらへ近付いてきた。 用があるのは勿論ボーイスカウトだ。 「ありがとう。これは今日の分のお礼だ。…またたのむ」 「イ〜エ、おやすいご用です」 なんだか聞いた事のあるおじさんの声に、イエローとルナは既視感を覚えていた。 すると、おじさんはそんな二人に目を向けた。 しかもあろう事に話しかけてきた。 「私について来るかい?」 『!』 二人は顔を見合わせ、ゆっくりとうなずいた。 ◆ ◆ ◆ 知らない人には着いていかない、という有名な大人の格言に逆らい、二人は聞いた事のあるような声をしたおじさんに着いていっていた。 休火山の中の、重たい扉の向こうにあるラボのような所に行き着く。 二人は驚きで、怪しくもキョロキョロと辺りを見回した。 「私の秘密研究所だ。裏はジムになっている」 そう言って大きな水槽のような物にボールをはめ込んだ。 「グレン島へようこそ、イエロー、ルナ!」 『!! どうしてボク(私)の名を!?』 声を合わせて言うと、おじさんはサングラスをかけ、つけ髭を付けた。 「眼鏡!」 「つけヒゲ!!」 極めつけには、おじさんは髪の毛を外した。 『カツラ!?』 サングラスをかけて、白い髭を生やした白衣のおじさん。 二人が知っている顔だった。 『カ…カツラさんっ!』 途中で気付いても可笑しくなかったが、そこはやはり天然たる所以なのだろう。 ルナに至っては、身近なまだ気付いていない事があったりする。 「変装…」 「どこで誰が見ているかわからないからな」 「流石ジムリーダーさんです……!」 カツラが手を腰に当てて、偉業をさらりと言った事にルナは、憧れの眼差しで見つめた。 「じつは本物のヒゲは炎特訓でコガしてしまったんだがね」 がく。 二人はカツラの言葉に、一気に脱力したようにずっこけた。 「いいタイミングで来たな。丁度タケシから連絡が入っている」 先程カツラがボールをはめ込んだ、大きな水槽のような物が気になって目を向けていた時だった。 「とはいえ手短にせねば。盗聴の危険があるからな」 ピピピ、ピピピ、ピピピとちょっとした目覚まし時計のように鳴る通信機器。 着信ボタンを押すカツラ。 「…私だ、カツラだ」 大きめの画面に、通信相手であるタケシが焦った様子で写し出された。 『カツラさん! 今…オツキミ山の裏手だが、レッドがいた!』 「!!」 「ええええええ〜!」 「……!」 三人はその聞き捨てならない情報に身を乗り出した。 「そ、それで! レッドは無事なのか!?」 『…イヤ、それが…。正確にいうと…いたんだがいないんだ!』 「????? いたんだがいない?」 「どういう事、でしょうか……?」 なんだか煮え切らないタケシの言葉に三人の図上にハテナが浮かぶ。 タケシはそれを見つけるまでの経緯を教えてくれた。 オツキミ山裏手を調査していたタケシは、随分と深い穴に入ってみたら、見たんだとか。 その時の画像が送られてきた。 ルナは目を見張った。希望が、絶望に変わった。 目の前の画面に写ったもの。それは。 一筋の希望、一瞬の絶望 (その画像を見た瞬間に) (私まで冷たくなった) (気がしてしまった) 20130130 ←|→ [ back ] ×
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