海を駆け抜ける音が響く。

イエローはもう波乗り≠ノ慣れ、絶好調だった。

そんなイエローを見て、ほんの少しの寂しさを覚えながら優しい眼差しで見つめていた。

しばらくすると、島が見えてきた。ルナはその島に見覚えがあった。

「ピカ! …次の島だ! ルナさん! 次の島ですよー!」
「フフ。見えてますよ、ちゃんと!」

無邪気な笑顔を見せるイエローに、思わず笑みがこぼれてしまう。


◆ ◆ ◆



やはり近くで見れば見るほど、来たことがある気がしてならなかった。……どこだったか。

「火山…か、すごいなあ。噴火とかするのかな?」
(火山……う〜ん、ホントにここはどこだったけ。それにしてもこの火山は休火山っぽい……)
「イヤ、あの火山は休火山だよ、今は活動していないよ」

突然した後ろからの声に、驚いたイエローとルナは勢い良く振り返る。

そこには、籠を背負った少年がいた。側には人の良さそうな顔をしたゴーストが。

なんでか初めて会ったはずなのに、ルナには初めて会った気がした。

「ココはグレン島。ボクはボーイスカウトだよ」

すると、イエローはグーにした手を口の前に当てた。

「グレン島! …カツラさんがジムと研究所を持っている場所ですね」
「え、そうなんですか?」
「そ、そうなんですかって……」
「あまりカツラさんの事知らないので……」

それでも全く知らない訳では無かった。色々レッドが聞いた話もある。

彼は元ロケット団の研究員で、ミュウの細胞からミュウツーを作り出した張本人らしい。

そして団から抜け、ロケット団から追われている所をレッドに助けられたという。

今では正義のジムリーダーの一人だ。

ルナは、別にミュウツーを作り出した張本人だからといって顔を合わせたくないわけではないが、少し顔を合わせづらくて今までずるずるとまともに話をしていなかった。

「そうだったんですか……。まぁ、ってことはココではレッドさんの手がかりは見つけられないかもしれませんね。…当然カツラさんが調べつくしてるでしょうから」
「それはそうですね」
「どうしましょうか、ルナさん? ピカ?」

う〜ん、とルナは首をひねった。

このまま進んでしまったらマサラに帰ってしまう。

そんな中、ボーイスカウトの少年がキョロキョロとしたと思えば、石を拾い始めた。

「ええと…これなんか良さそうだね、これはダメだ」

石を集めているのだろうか。

いわゆるストーンゲッターみたいな。

「何をしているんですか?」

ルナが尋ねようとする前に、イエローが尋ねた。

さすがイエロー。自分よりも恐らく年下であろう少年にも敬語だ。

感心したルナだが、自分も人の事を言えない。

「ん? イヤ、知り合いがポケモンバトルの特訓をする手伝いをたのまれているんだよ!」
「…特訓!」
「特訓ですか?」

すると、ボーイスカウトはテコテコと歩いて手招きをしてきた。

どうやら特訓場所に案内してくれるらしい。

「ここだよ、特訓の場所は」
『ひえ〜〜〜!』

あまりの高さに、イエローとルナは声を合わせて驚きの声を発した。

手すりも無い一本の薄い橋が、岩に囲まれた場所にかかっていた。

橋から落ちたら一貫の終わりだろう。

別に高所恐怖症でも無いが、さすがにこれは恐い。橋を渡ろうものなら、もれなく足がすくむだろう。

「…で特訓をするのは…あの人!」

ボーイスカウトが指を指した方向を見ると、向こうから危なっかしい音をたてて白髪のおじさんが渡って来ていた。

白髪のおじさんと言っても、それほど歳をとっている印象は無かった。

「さあ、やってくれ」
「ハ〜イ、いきますよおっ!」

ボーイスカウトの少年は、おじさんに手を振ったと思えば、先程取っていた石をゴーストに渡した。

「せええの!」

すると、手をブンブンと野球のピッチャーがやるそれと同じようにしてみせた。

そしとそれをゴーストは、少年の息に合わせるように投げた。

  おじさんへと。

二人はそれをスゴイ球だと驚いた。

おじさんの方を見てみれば、その背中から影が表れて素早く石を凪ぎ払った。

イエローはそれが何なのかわからず驚いたように口を開けて見ていたが、ルナの場合それ以上に何か感じるものがあった事に、自分自身驚いていた。

懐かしいような、新鮮なような。

本当に不思議な感覚。おじさんの背中へと目が釘付けになる。

そんな時、少年がボールから新たなポケモンを出した。

「ハーイ、ウインディ!」

それはウインディだった。

そういえばリュウも、このウインディより大きめのウインディを持っていたな、なんて脳裏にそんな事がよぎった。

「投げたら…ひのこ=I」

またゴーストは、今度は多めに石を次々と投げた。勿論おじさんへ。

するとボーイスカウトの指示通りにウインディは、先程までのなつっこい雰囲気はどこへやらという感じに石一つ一つにひのこ≠ナ火をつけた。

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