森から空き地へと化した辺鄙な場所に、カモネギの巣はそこにあった。 「森だったところがただの空き地になっちゃった」 カモネギはその巣に、加えたネギを置いた。 「へえ、ずっとくわえてたのは、巣をつくるための材料だったのか!! 森は移動しちゃったけど…、おまえの巣はおかげで見つかったね」 「良かったね。……これ途中で拾った巣を作る材料です。良かったらどうぞ」 岩の上に両肘をついて、のんびりとカモネギが巣をつくるところを眺める二人。 カモネギはルナのくれたネギをくわえて嬉しそうに鳴いた。 それからイエローとルナを交互に顔を向けて鳴く。 「アハハ! そんなに何度もお礼はいいって! こっちも楽しかったから!」 お礼を言っていたのか。 なんとなく表情や動作でわかっていたが、イエローが言うならそうなんだなと再認識した。 ピカチュウ二匹とカモネギが仲良くなりそうな時、イエローは空を仰いだ。 何を考えているかなんて聞かずともわかった。 自分もまた、その事を考えていたのだから。 博士の言葉、 『天変地異もしくはそれに匹敵する巨大な力』 それが頭にこびりついて、どうにも抜けなかった。 ◆ ◆ ◆ 一方、研究所では博士が通信を終えて立ち上がった。 「博士。必要な書類をそろえておきました」 優しい、お姉さんのような声。リナのものでは無かった。 その女性は机の上に資料を置いた。 「おお。キミが来てくれて大助かりじゃ。これから忙しくなるからな」 「とんでもない、光栄です。オーキド博士、イエ…。おじいさま!」 その時、別のパソコン前に座っていた少女が事務椅子を動かしてそちらに向く。 「ねえ。オーキドの博士。髪も性格もツンツンしてる緑の男の御姉様が来たんだから、わたし帰っても良いわよね」 そう言って白衣を着たリナは椅子から立ち上がった。 そして出口に歩いていくが、皺が少し出来ている手に阻まれる。 「コラ待て。リナくんにはナナミくんとは違うお手伝いをしてもらおうと思ってるんじゃ」 それに対して軽く舌打ちをするリナ。 言っておくが、態度としてはまだましな方である。 大切な姉の恩人な為、それなりの敬意はあった。 「何でわたしがジョウトのポケモン調べなきゃいけないのよ!!」 「それは、行った事のある人物が調べた方が効果的だからじゃ」 博士の言葉に、リナの目が見開かれた。 「なっ、……んで、わたしがジョウトに行ったと思うのよ」 「ルナくんから聞いた」 (お姉ちゃん〜!!) リナは博士から顔を背けて焦ったような顔をした。 良かれと思って話した事はわかる。それはもう十分に。 しかしそれはマイナスの方向へと向かっている。 「それに、せっかく人が良さそうな好青年がルナくんがいない間は寂しいだろうから、って言ってくれたんじゃぞ?」 (アイツのどこが『人が良さそうな好青年』なのよ!!) そう、言わずもがなリュウである。 心の中で突っ込むが、勿論博士がそれに気付くはずも無く。 「キミの助けが欲しいんじゃ」 「──ッ!」 何を隠そう、リナはそういう言い方に弱かった。 「わかったわよ、やればいいんでしょ、やれば!!」 怒ったような口調だが、バッチリ顔が赤いリナはパソコンの前に座り直した。 目の前のパソコンにはイエローとか言う、先程のパソコン通信時にルナと共に画面に写っていた麦わら帽子の少年、いや少女を思い出す。 するとひょっこりとナナミが顔を出す。 「…彼は…ふしぎな少年ですね」 「ウム」 二人はイエローを少年だと思っているのか。 一目見ただけで少女だとわかったリナには、それは考えられない事だった。 「それにああ見えて…、ジムリーダーをもしのぐ実力者四天王≠ニ戦い、行方不明となったレッドを探そうとしとる! 無謀というか、無茶というか…」 「…そうですね。でも彼なら大丈夫という気がします。彼の名前は…!?」 「ああ、ポケモンの想いを読みとり、ポケモンの傷をいやすトレーナー、イエロー」 なぜだか信じてみたくなったトレーナーだと、博士は言った。 そんな事、リナにはどうでも良い事だったが。 (なーんか、何も考えてなさそーなヤツ) なんて毒さえ吐いてみせる始末だった。 「さあ、リナ! もっとキリキリ働かんか!」 笑顔で冗談っぽく聞こえる言葉。 笑顔で冗談には見えない量の資料云々を置くナナミ。 リナは深い溜め息を吐き、ある男を心の底から恨んだ。 (あの偽善者野郎覚えてろ〜〜!!!) 不安を煽るその言葉 (私はちゃんと) (カントーを護れるかな?) 20130116 ←|→ [ back ] ×
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