ルナはただいまのんびりと、行き着いた島にでイエローの隣で釣りをしていた。

ワタルと戦い、別れた後でイエローが待つこの島に辿り着くと、イエローは勢い良く嬉しそうに抱きついてきた。

よほど心配していたようで、目に涙を浮かべて何度もルナの名前を呼んだ。

もう二度とイエローを心配させる事はしないと誓った瞬間だった。

そろそろ眠くなってきたな、と思って気晴らしに空を仰ぐと鳥ポケモンが落ちてきた。

「イエローさん!」

いきなり叫ぶものだから、今まで気長に糸の先を眺めていたイエローは大袈裟に首を動かして顔をあげた。

「あ!!」

丁度顔をあげた先で鳥ポケモンの落下を目の当たりにする。

助けようと、イエローは立ち上がった。

勿論そんな事は見越していたルナだが、ただニコニコとして見守るだけだった。

「大変だ! ピカ!」

高く飛び上がったピカチュウが小さく光り、周りから煙を出す。

慣れたように、素早く分身が形作った板状のものに乗ると、釣竿を振ってその糸の先に付いていたボールを自分の手の中へと戻した。

それからまたもや素早く鳥ポケモンが落下した場所へと移動し、受け止めた。

イエローはその鳥ポケモンに話しかけている。

ルナの場所からは聞こえないが、きっとイエローの事だ。安否を確認しているのだろう。

そう、それで良い。

実力をつけ、自分の助け無しでワタルを倒さなければならないのだから  


◆ ◆ ◆



イエローは海浜まで鳥ポケモン  カモネギを連れてきた。

海に落ちそうになっただけあり、カモネギは辛そうだった。

「あ、イエローさん。ココ」
「ケガしてるのか! ちょっと待ってね、今…」

ルナが指差した部分は痛々しく怪我を負っていた。

その部分にイエローが手をかざした。

すると光輝き、痛々しかった怪我がすっかり元から無かったかのようになっていた。

イエローの力を見るのはこれで二回目だった。

少し眉を寄せてその様子を見つめているルナ。

ルナとしては、あまり力を使わせたくなかった。

理由はトキワの能力がどんなに便利でも、そういう特別な能力には重いリスクというものが必要となるのが付き物だからだ。

とりあえずまだトキワの能力についてよく思い出せていない為、どうも言えないがとにかくあまり力を使って欲しくなかった。

「……さん……?」

自分が変わってあげられないのが辛かった。

「……ルナさん………?」

せめてもの補助としては、自分は手を出さずにもしもの時に指示をしてやる事位だった。

「ルナさん!」
「ひゃっ!! ……い、イエローさん……」
「さっきから呼んでたんですけど……大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ!」

にぱーっと笑って見せるルナに、一抹の不安を覚えながらイエローもまた笑って見せた。

「この子が、急に自分の巣の位置がわからなくなって帰れなくなったんだそうです」
「え? でも基本的に鳥ポケモンや獣系のポケモンは帰巣本能というものが有るのでそれはおかしいですよ」
「おまけにあの傷を『森に攻撃された』ものだと言っていて……」

ルナはより一層首をかしげた。

わからない事だらけだった。カモネギは一体どういう事を言っているのだろう。

「じゃあとにかくその森に行ってみましょうか」
「ハイ!」


◆ ◆ ◆



「うわあ…。迷いそうだなぁ」

ちらりとすがるような目付きでルナを見る。

「私には頼らないほうが良いですよ。……その、あまり地形は得意では無いので」

首をかしげながらも、イエローはちょっとしょんぼりとしてしまった。

少し自分の言った事に後悔をするルナ。

「あの、ルナさん。カモネギは、『この森は来るたびに様子が変わる』っていうんです」
「……はい……?」
「いっしょに巣を探してあげるにしても迷わなくてすむように…」

良い事を思い付いたのか、にこっと笑って言う。

「よし! ピーすけ!」
「(う……)えと、キャタピーでどうするんですか?」

ルナがそう言うと、イエローは近くの太い木の枝にぐるぐるにキャタピーの糸を結びつけた。

そしてそのまま真っ直ぐ歩みを進めた。

「まずはココからまっすぐに進んでいきましょう!」
「なるほど頭良いですね!」

本気で誉め称えるものだから、イエローは照れたように笑って頭(帽子)を掻いた。

それからはとにかく上を見たり下を見たりで、カモネギの巣を捜索した。

辺りがざわめいている事に何の疑問も抱かずに。

しばらく歩いた時、イエローの目の前に一本の白い糸が。

隣でドジな少女がその糸に気付かず、そのせいでコケたことなんて露知らず。

「あ、アレ!?」
「あたた……。この糸は何でしょう」
「これ…、ピーすけの糸だ!?」
「え……」

一瞬、気絶するところだった。

虫ポケモンの糸が自分の顔にめり込んだのか……?


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