静まり返る海の上。波の音しか聞こえない。

すると、突然弾けたように笑い出した。

「このワタルを倒す!? ワハハハハ! とんだお笑い草だな!」

ルナは怒りの表情を見せる事なく、静まり返る水面のように感情を動かさずにワタルの笑う姿を見つめていた。

プライドが高く、その実力の高さから自分に自信を持っているワタルなら、大笑いする事等わかりきっていた事だからだ。

ワタルはしばらくお腹を抱える勢いで大いに笑った後、ルナに向き直った。

「お前のような甘々なトレーナーが、このワタルを倒せると思っているのか!」
「はい」

きっぱりと言い切ったルナに、ワタルは今まで笑っていた顔が嘘だったように怪訝な顔をする。

「私が勝ったら、イエローさんから手を引いて下さい」

強い瞳で言うルナ。

そんなルナに少々気圧されながらも、余裕の表情で笑みを浮かべた。

「良いだろう。では簡単に速攻に、一対一でいこうじゃないか」

それだけで十分だろうと判断しての事だろう。

ルナ自身も、それだけで十分だと思い、率直にうなずいた。

この戦いはイエローを助ける為だけでなく、ワタルの間違った考えを正す為でもあった。

力強くボールを握り締める。

「エヴォ!」「ハクリュー」
「オーロラビーム=I」
「破壊光線=v

二人はほぼ同時に、タイミングを見計らったかのように、ポケモンを出して技を指示した。

通常ならば、オーロラビーム≠ェ破壊光線≠ノ敵うわけ無いが、シャワーズが放ったオーロラビーム≠ヘ破壊光線≠ニ同じかそれ以上の大きさだった。

オーロラビーム≠ヘ破壊光線≠押しきり、そのままハクリューに命中した。

「……なるほど、大口叩くだけあるな。確かにお前の両親も実力は、このワタルも認める程の高さだったからな」

ワタルはマントをひるがえして愉快そうに笑みを浮かべた。

「そんなに余裕たっぷりに笑っていて大丈夫なんですか? エヴォ、破壊光線=I」
「何!? ハクリュー!」

ハクリューもワタルの呼び掛けに応えて、破壊光線≠放った。

タイプと技が違うと、技の威力は半減してしまうはずだが、シャワーズが放った破壊光線≠ヘハクリューの破壊光線≠相殺する位の威力があった。

「フッ、さすがに驚いたぞ。しかし次はこんな不意打ちは二度と効かないぞ。このワタルが使う破壊光線≠ヘお前の破壊光線≠ニわけが違うからな!」

そんな事、ルナもわかっていた。

次、同じように破壊光線≠放っても今度こそは跳ね返されてしまうだろう。

オマケにワタルのハクリューが使う破壊光線≠ヘ軌道が変わる。

そう簡単に対抗する策は思い付かない。

だが一発でもハクリューの破壊光線≠食らってしまえばシャワーズは戦闘不能になってしまう。

「破壊光線≠セ、ハクリュー」

反動も何のそので、すぐに攻撃してくる。

「……くっ。エヴォ、リフレクター=I」

半透明な壁がシャワーズの前に現れる。

すると、その壁は破壊光線≠寄せ集めるように受け止めた。

それだけで精一杯で、ギリギリだった。

そんな余裕が無い事もワタルにはお見通しなのか、笑みを崩さない。

「フフフ。さっきまでの自信はどうした」

シャワーズがハイドロポンプ≠放つも、ハクリューは易々と避けてしまう。

「このワタルを倒すんじゃなかったのか!?」

ハクリューに巻きつか≠黷トしまう。

シャワーズが苦しそうに身体をもがけば、尚更絞まってしまう。

「所詮は夢物語だったのだ!! ワハハ!」
「……」

焦っていたように見えていたルナの表情が、静かになりワタルを見つめた。

「………せっかちな男は嫌われますよ」
「何!?」

バキッ!

そんな鋭い音がワタルの耳をつんざく。

急いでハクリューを見れば、弱点である宝石の場所にシャワーズの破壊光線≠ェ撃ち込まれていた。

きつく絡めていたであろうハクリューの身体からシャワーズが解き放たれる。

倒れていくハクリューの姿はスローモーションのように見え、ワタルは驚いて見開かせた瞳で眺めているしか無かった。

海の水面に打ち付けられ、乾いた音が辺りに響いた。

シャワーズは、鮮やかにジュゴンの上に降り立って見せる。

「そん、な……バカな……!」

あり得ない。

ワタルの崩れきった表情にはその一言が現れていた。

「だから言ったでしょう? 勝つ、と」

ニヤリと、口に弧を描くルナは微妙に悪どい顔をしていた。

「では、イエローさんから手を引いて頂けますか?」
「フッ。良いだろう。……ただしあちらから手を出した場合は知らんぞ」
「………ええ」

いつかもう一度イエローとワタルが接触する時がくるだろう。

しかし、だからこそ今、力を蓄えていなければ。

その為の時間を稼げるだけで儲けというものだ。

「ところで、一応聞くが……」

ピクリとルナの目が反応した。

「同志になるつもりは無いか?」

ワタルはルナの目の前に手を差し伸べた。

一層怪訝そうに眉を寄せるルナに、ワタルがまたフッと笑う。

「その急上昇で上がる実力。そして何より、ポケモン達が住み良い世界を培おうと貢献した両親を持つ女。お前もまた、住み良い環境を作り出している」

「同志には持ってこいだ」そうワタルが意味深な笑みを浮かべる。


「御断りします」


すっぱりと、はっきりと、断るルナ。

表情をピクリとも変えずにワタルは依然として意味深な笑みを浮かべている。

「まぁ、そう言うだろうとは思ったさ。お前の両親も同じようにすっぱりと、断ったからな」
「!」

てっきり、母辺りがコロッと騙されて「はい、宜しく御願いします」なんて返事をしたかと思ったルナは驚きに目を丸くした。

「勿体無い事をしたな。でなければお前の両親は  

死なずにすんだかもしれないのにな。

そんな事をさらりと言ってのけるワタルに、ルナはただただ立ちすくんでいた。

自分自身、驚いているのか絶望しているのか怒りを通り越して呆れているのか、わからなかった。

「それじゃあな。……また会おう」

ワタルがそのままハクリューに乗って離れていくのを、ただ見つめていた。

しばらくして、やっと思うように動いてくれるようになった重たい身体を動かす。

己のした選択に少しの迷いを感じながら  


勝利宣言は己を貫き
(強気にでもならなければ)
(すぐにも崩れそうだった)


20130116

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