ワタルは二つの気配に気づき、少し首をそちらに向けて様子を伺った。

「ム!! この気配。追ってきたか!? だが、そうしたところでこのワタルに攻撃する術など…」

水を勢い良く跳ね上がらせてこちらへと向かってくる二つのシルエット。

一人は何かにサーフィンのように乗っている。

もう一人は、ジェットエンジンのように乗っている。

いずれも物凄いスピードだった。

「なにぃ!? バカな!」

光り輝く板状のもの、尻尾をプロペラのようにするジュゴンが海の外へと顔を出した。

『なみのり=I』

板状のものの上にはピカチュウが二匹、互いが互いを支える事によってバランスをとっているように乗っていた。

「体外へ放出したHPが…、ピカチュウの足元で水をはじく板状に!! 更にジュゴンは自らの尾をプロペラのようにする事で、スピードを出している!!」

驚愕した面持ちで二人へと振り返るが、もうイエロー達の攻撃準備は整っていた。

ルナはピカチュウとイエローに目配せをする。

「いきますよ! イエローさん!」
「ハイ! うおおおおおおお!! くらえっ!!」
『10まんボルトオォォ!!』

二匹の全力全開の10万ボルト≠ェワタルとハクリューに直撃する。

そして、それは大きな光を放ち、それに対して背を向けて離れたイエローとルナの背後で爆発した。

後は波が揺れる音だけが二人の耳に響いた。

二人は、疲れきって肩を上下させて荒い息を出し入れしていた。

「……消えた」

呆然としたようにポツリと呟いた。

「四天王ワタル、ポケモンのために人間を滅ぼそうとしていたトレーナー」

しばらく荒い息を繰り返し、それが落ち着いた頃、イエローはピカチュウに手を伸ばしてその小さな頭に乗せた。

イエローは少し寂しげな顔で二匹のピカチュウに顔を向けた。

「おまえたち…ポケモンが暮らしやすい世界のためには…ボクたち人間は邪魔なのかい?」

すると、ピカチュウ二匹は悲しそうにイエローを円らな瞳で見つめた。

「イエローさん」

ルナは優しげな顔つきでイエローに呼び掛ける。

「ある人は言ってました。『正しい、優しい気持ちで育てれば…いつまでも友達=xだって」
「……友達!!」

微笑むイエローに、ルナとピカチュウ二匹は力強い瞳でうなずいた。

「ウン!! そうだよね! ……そうですよね!」
「はい!」
「じゃあ、行きましょうか!」

イエローは海の向こうを指さし、ピカチュウの分身で作った板状のものを動かした。

それにならってルナもジュゴンを動かす。

「海のむこうの次の町へ!」

しかし、

「おっとと!」

ヨロリとイエローが板から落ちて、ルナのジュゴンの上に乗ってしまう。

慌ててルナがイエローを支えた。

「大丈夫ですか!?」
「は、ハイ……やっぱり、まだ慣れないみたいです……」
「では私のなみのり≠見て少しずつ慣れていきましょう」
「す、すみません……」

さっきは乗れていたのに。夢中になるとなんでもできてしまう質なのだろうか。

そんな事を思いながら、ルナはイエローに波の乗りかたをレクチャーした。

  後ろの気配に気付きながら。


もう諦めたりしない
(だって私には)
(イエローさんがいてくれる!)


20130113

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