唇を血が出るほど噛み、手に爪を食い込ませると、やっと意識が覚醒した。

解決策を考え始めた時、浮遊感を感じた。

『!』
「そ、空に!!」
「浮い……てるの?」
「そうだ、海を行き空を駆けるハクリュー」

イエローとルナを締め付けたまま、ハクリューは宙を浮き始めた。

「そう、この四天王の将ワタルは、竜の力を司る!」

するとハクリューは光輝き、空が真っ黒な雲に覆われた。

ゴロゴロと音がして雨が降り始めた辺り、雷雨になったらしい。

「ハクリューが雷雨を呼んだ!?」
(ハクリューはオーラを包まれる神聖な生き物で、天気を変える力を持つというのは本当だったんだ……!)

ルナは目を疑った。

確かに知識として知っていたが、まさか目の前で証明させられるとは……。

海も、段々と荒波になってきた。

「見たか、気象すら我がものとするこの力を! この世界には我ら四天王と優秀なトレーナー以外の人間は、必要ない!」

その言葉に、ピカチュウ二匹は怒りに震えた。

「ピィカアアアァ!」
「チュウウウゥゥ!」
『ピィ…カッ!』

二匹は同時にワタルへと突進していった。

しかし、ハクリューの角から光が灯り、ピカチュウへと放たれた。

「ピ!」「チュ!」

何かがピカチュウ二匹の前を通りすぎた。

その光線は、素早い動きでピカチュウ達の周りを囲むように方向を変えた。

『ピ…!』
「このハクリューのはかいこうせん≠ヘ軌道自在! おまえのようにチョコマカ動く奴が相手だろうと…」

破壊光線≠ヘピカチュウ達の後ろから襲った。

避ける暇も無く、ピカチュウ二匹はまともに食らってしまった。

『ギャッ!』
「しとめるのはたやすい!」

ピカチュウはボロボロな姿で海へと落ちていってしまう。

『ピカ! チュカ!』

イエローとルナは夢中で叫んでいた。

「命は失わない程度に手加減しておいた」

海面へと打ち付ける二匹のピカチュウ。

そんなピカチュウの片割れを見たワタルは何かに気付いて食い入るように見た。

「ん!? ……その傷」

何が可笑しいのか、ワタルは大きく笑い出した。

「そうか! 左耳に傷を持つピカチュウ。カンナとキクコが追っていたのはおまえたちか!」

しまった、とルナは顔を歪めた。

「完璧主義者のカンナは、そのピカチュウの存在を許せなかった。そのカンナから逃れ…、さらにキクコが差し向けた刺客すら退けた。おまえがイエロー・デ・トキワグローブか!」

思いっきり情報が漏れている。

それは、こちらにとって不利な事だった。

イエローは黙って否定せずにワタルを睨み付けた。それは肯定を意味してしまった。

「フン。ちょうどいい! 連れていってやればあいつらは喜ぶだろう。…このワタルにとってはどうでもいいことだがな! ハッハッハッ!」
『ピカ!』

ハクリューはイエローとルナを離し、代わりにレッドのピカチュウを巻き付けた。

あえなく二人は海へと落ちてしまった。

ルナにとって最も不幸な事で、泳げない水の中で口を塞ぐしか無かった。

締め付けられていた時の体力の消耗が酷かったからか、すぐに息が出来ずに沈んでいく。

同じく海にワタルの攻撃によってイエローが落ちた音を耳にする。

あぁ、イエローも海に落ちたんだなぁ。

ぼんやりとそんな事を思った。

もうどうでもいいというようにルナは静かに目を閉じた。

すると、そんなルナへと誰かの手が伸びてきた。

(海底ドームの時に助けてもらったんだ。ボクが助けなきゃ! ……それに、ルナさんはボクの  

海上へと顔を出すと、一気に空気という空気がルナの身体に取り込まれる。

  ッゲホ! ゲホゲホ! ……あ、りがと、ございます、イエローさん」
「いえ……!」
「私、途中で諦めそうになってしまいました……だから本当に助かりました」
「え……?」

フルフルと首を振った。それから、ワタルが行ったと思われる方向を見据えた。

「あれ……? ピカ、それ……」

ピカチュウが、自信の身代わり≠サーフボードのような形にして乗っていた。

「もしかしたら、ピカの体から外へ出てきたHPって水を弾くんじゃないでしょうか」
「!」
「さっきも海の中に落ちた分身ピカが水を弾いていたんです」

なるほどとルナが感心したように言うと、イエローは照れたようにうつむいた。

そんな可愛らしいイエローに、ルナは優しく微笑んだ。

「では追いかけましょう!」
「ハイ!」

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