オマケに、目を向けると睨み返してくる。

『ひえ〜』

思わず二人は、声を合わせて怖がってしまう。

危害をくわえる気は無いのだが、メノクラゲは何をそんなにも警戒しているんだろう。

「メノクラゲの大群か。ここに立ち入るなってことでしょうか」
「……かもしれません」

会長はさきほど、『いし』は聖域に守られて、めったなことでは立ち入れないと言っていた事を思い出す。

聞いていなさそうだったルナだが、必要性のある話は自然に耳に入る性分であった。

「メノクラゲは『海の浅い所を漂い、釣り人が間違って釣り上げ、刺される事が多いと聞く』と言われているので気を付けてくださいね」
「え、えぇっ!? オムすけは大丈夫かな!?」

糸の先を見つめるが、何の反応も返ってこない。

「…まあ、そう簡単には見つからないか」
「釣りはのんびりとやるものですよ」
「そうですよね!」

なんだか趣旨が違う事を話していると、突然竿がびくっと反応する。

それと同時に、シャワーズが海から飛び出てきてルナの側に着地してきた。

一応何かあったらすぐに知らせるようにシャワーズを海で待機するように言っておいたのだ。

「イエローさん!」
「! ピーすけ! 糸をのばして! 下でなにか起こったんだ!」

下を見ると、水面にはドククラゲがオムナイトが入ったボールを追いかける姿が映った。

「あれは! メノクラゲの進化形、ドククラゲ!」
「大変だ! オムすけ! そいつはドククラゲ! 群の親玉だ!! ボールから出て対抗しないと…」
「ダメです! 動きを封じられました!」
「まきつく!?」

オムナイトが入ったボールは、ドククラゲの無数の触手にからみつかれていた。

イエローはすぐさまキャタラーの糸が繋がった竿を引いた。

「だああ」

勢いよく引いたおかげで、オムナイトはドククラゲの触手から逃れる。

しかし、その勢いのままイエローはドククラゲの触手にからみつかれてしまった。

「わ!」
「イエローさん!!」
「ピーッ」
「しまった! ピカ!」

イエローはそのまま、ピカチュウと共に海の中へと入っていってしまった。

「どうしよう……。私、泳げない……」

泣きそうになりながら水面を見つめるが、シャワーズが視界に入り、すぐにハッとしたようにジュゴンを見た。

ジュゴンは不思議そうに首をかしげた。


一方、海の中ではイエローがドククラゲによって海の底へと連れていかれていた。

着いた先にはメノクラゲの子供が岩場に挟まれていて、痛そうにしていた。

どうやらドククラゲはメノクラゲを助けて欲しくてイエローをここまで連れてきたらしい。

イエローは力強いゴローンのゴロすけを出そうとするが、ゴローンは岩タイプ。水の中はさぞかし苦しいだろう。

心優しいイエローは、メノクラゲも助けたいがゴローンも苦しめたくないという葛藤があった。

思いきって出そうとするが、白い尾を持つ人間がそれを止めた。

(え!? に、人魚!? ……ルナさん?)

ニコリと優しい笑顔を浮かべた人魚は、ルナだった。

よく見れば、白い尾はジュゴンの尾だった。

ジュゴンがルナの足をくわえて、自由がきくルナの尾となっていた。

そのおかげもあり、泳げないルナでも海の底近くに来ることが出来た。

ルナはシャワーズに合図を送った。

見た目よりパワーがあるシャワーズの尾によって、岩は弾かれた。

(やった!!)

安堵したイエローが、気を抜いてしまったのか、息が続かなくなってしまったようだ。

(イエローさん!?)

急いでルナはイエローの手を掴み、抱き寄せた。

だからといって何がどうなるという事は無いが、とりあえず動かないわけにはいかなかった。

しかし、馴れない水に入ったせいもあり、ルナも息が漏れて苦しくなってしまった。

そのまま、二人は海の更に深くへと落ちていってしまった。


◆ ◆ ◆




ピチョ、ピチョと水が滴る音がする。

水道から溢れた水もこんな音がするなぁ、なんてぼんやり思いながら目を開ける。

「あ、れ……」

自分の声が聞こえる。息ができる。

ルナは驚いて起き上がると、心配そうに自分を見るメノクラゲ、ドククラゲ、オムナイト、レッドのピカチュウ、ルナのピカチュウ、シャワーズ、ジュゴンの視線にぶつかる。

「あ、あぁ。大丈夫ですよ。そんな顔をしないでください」

メノクラゲが擦り寄ってくる。

可愛いな、と思いながらメノクラゲをよしよししてあげる。

「傷を塞がないとね」

そう言ってルナはポケモン用の救急箱を出してメノクラゲの傷を消毒し、塞いだ。

すると、メノクラゲはすっかりルナになついて触手を手のように使って抱きついてきた。

「ふふ。ありがとね、助けてくれて」

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