クチバの港で、イエローとルナは会長の話に傾けている。 ためて話すものだからさざ波の音がルナ達の耳に心地よく響く。 「…『つきのいし』というのを知っとるかの?」 「ええ。特定のポケモンを進化させるっていう…あの!?」 「そうじゃ。じゃが『進化のいし』と呼ばれるものはほかにも4つ種類がある」 ルナが軽く手をあげて挙手をする。 「えっと、草タイプには『リーフの石』、炎タイプには『炎の石』、水タイプには『水の石』、電気タイプには『雷の石』があるんですよね。他にも進化を手助けする石や道具は数多く存在すると言われています」 「おお、良く知っとるな。その通りじゃ!」 会長が大袈裟に褒め称えると、ルナはにへと照れたように笑った。 「ではふつうの『いし』は一度使うとなくなってしまうのは知っとるよね?」 『…はい』 二人同時にコクリとうなずいた。 なんだか表情も角度もタイミングも全て同じで、双子みたいだなと少し気が狂ったように口元を歪める会長。 「ところがポケモンを進化させた後でも力を失わない特別な『進化のいし』がどこかにあるといわれとってな。昔から多くの人々が探し求めたという」 「そ、そんな画期的なものが!」 今度は、イエローはそういった知識は深くは知らない為、首をかしげるばかりだ。 「……。『クチバの伝説』というのはのう、イエローくん、ルナくん。それらの『いし』、4種類がこのクチバ湾の奥底に…、沈んどるという言い伝えなんじゃよ!」 「ふぇー!」 ルナは興味津々に身を乗り出すが、イエローはポカンとして「ふーん」と、それがどうしたみたいな顔をしている。 「ところでそれとレッドさんとどう関係あるんですか?」 「……そう言われてみればそうですね」 その二人のレッドの事しか頭に無い発言に、会長はがくっとずっこけてしまう。 トホホ、と会長は眉を下げて似た者ほのぼの天然敬語コンビに脱力した。 「それはじゃなイエローくん、ルナくん。この話はあくまで伝説。本当に『いし』などあるわけはない…と誰もが笑っとったんじゃ」 会長の話し方はまるで、その異例の出来事が起こったという感じで、ルナは会長の話に聞き入った。 「じゃが、それをくつがえすできごとが2年前に起きた。レッドくんによってじゃ!」 ハッと息を飲んだ。 そうだ。彼は持っていたじゃないか。『いし』で進化するポケモンを 「当時、このクチバの港にやってきたレッドくんがポケモン・ニョロゾとともに海へ落ちた! そのとき、ニョロゾがレッドくんを助けたのじゃ! そういえば、彼はルナに先頃に「ニョロはいつのまにか進化してた」と言っていたんだっけと思い出した。 「そこで、考えたのじゃよ。『伝説のとおり海底に4つの進化の「いし」があり、その中の1つ「みずのいし」のエネルギーをうけたニョロゾが進化をとげたのだろう』」 と、オーキド博士のセリフをそのまま自信たっぷりに言う会長。 その後会長はまだ何か言っていたが、イエローとルナの耳にはもう届いていなかった。 「この海で…レッドさんのポケモンが進化した…!! ここに進化の力の源が沈んでいる!」 「もしかしたらレッドくんの手がかりが……!」 「ルナさん! ピカ! チュカ!」 「はい!」「ピ!」「チュ!」 二人と二匹が笑顔で顔を見合わせる。 『さあ出発!』 すたすたと二人と二匹が歩いていくと、後方で会長が本日二回目のずっこけ。 会長はやけに焦ったような口調になる。 「ムホ! ま、まさか『いし』を取りに!? イエローくん! ルナくん!『いし』は聖域に守られて、めったなことでは立ち入れんといわれとる!! 聞いとるのかね!?」 しかしイエローはキャタピーの糸で浮き輪を作っていて、あまり聞いていそうな状態じゃなかった。 ルナもまた然り、だった。 「どうしても行くというのなら、おこづかいをあげるから、あとでその場所をワシにこっそり教えるのじゃ! …アラ?」 さきほどロケット団を攻撃した時に出てきた小判をまるまる持って、下心見え見えな交渉をするが、さっきまでいた場所から二人はこつぜんと姿を消していた。 「情報をありがとう会長さん! その場所へ行ってみます。レッドさんにつながるヒントが見つかるかもしれないから!!」 「それではさようなら! また会いましょう!」 そう言って沖合いへと駆けていってしまった。ポカンとする会長を一人置いて。 この二人、本気で悪気は全く無い。しかしそれが質が悪かったり。 ◆ ◆ ◆ クチバ湾沖合で、イエローはキャタピーが糸で作った浮き輪に乗って釣竿を垂らし、ルナはジュゴンに乗ってイエローが垂らした糸(ピーすけの吐き出したもの)の先を見つめていた。 「んー、とはいったものの」 イエローが汗を垂らしながら、誰に言うでもなく呟いた。 「こんなにクラゲがいるなんて聞いてなーい!!」 そのイエローの言葉通り、イエローとルナの周りにはメノクラゲがうよよーとたくさん集まってきていた。 ルナも一緒に苦笑する。 「見事に囲まれちゃってますもんね」 ←|→ [ back ] ×
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