「ウハハハハ、なんだそのチームは!?」
「まあいい!! 遊んでやろうぜ!」

だんだんと沈みゆくサントアンヌ号にロケット団の笑い声が響いた。

ロケット団三人組は、一人それぞれ二匹繰り出した。

「アーボ! マタドガス!」
「スリーパー! ヤドン!!」
「ビリリダマ、マルマイン!!」

イエローとそのポケモン達は、ロケット団のポケモン達の方へと駆けていった。

その瞳は揺らぐ事の無い強い輝きを携えていた。

「おい、ガキ! キサマの名は!?」
「イエロー! トキワの森のイエロー!!」

ここにグリーンが居たら、イエローが名乗った事に「敵に無闇に自分の情報を与えるな」とぼやいていそうだと、ルナは苦笑いしてしまう。

ドードー、ピカチュウ以外はイエローからバラバラになって離れていった。

「なに!?」
「みんなで戦わず…バラバラに!?」

おじさんが見ていられないというに、目(サングラス)を手で覆った。

「ほんとにあの少年は大丈夫なのか、キミ?」

心配になってきたおじさんは、隣にいるルナを肘で小突いた。

ルナはうーんと唸っている。

「実践はこれで初めてですから、どうでしょう?」
「お、おい……」
「でもあの子はとても優しい子なので、人を守る時に力を発揮するので、絶対大丈夫です」

そうルナがニッコリと笑って言うが、やっぱりおじさんは心配気にしていた。

その時、一段と大きい揺れが起こり、船が一層傾いた。

船が悲鳴に包まれた。

おじさんとルナは、精一杯手すりの外側に掴まっていなければならなくなった。

「うわああ、あんまり揺らさないで  って、キミ!?」

ルナは手を離し、海に落ちてしまった。

突然の事に、おじさんはわたわたと困ってしまうばかりだった。

その間も、イエローはロケット団のポケモンを吹き飛ばし、キャタピー、オムナイト、ラッタ、ゴローンが船の外に逃げた。

「に…にげた!?」
「フン、まあいいあんなやつら、どうせたいしたことないからな」
「むしろ相手がたった2匹になったのだから好都合ということだ」

ロケット団は余裕の表情で笑みを浮かべた。

「どうせここまで傾いている船だ! 乗客ごと沈めてやる! ヤドン!! 動力室を壊した力、ねんりき≠見せてやれ!!」

すると、ヤドンのねんりき≠ナ完全にサントアンヌ号が縦になって沈んでいった。

甲板にいた人達は真っ逆さまになって、落ちていく。

イエローも手すりを掴まっている。

ロケット団はと言うと  

「スリーパーヨガのポーズ≠ナわれわれを空中浮遊させろ!!」

スリーパー共々、玉のようなものに入って浮いていた。スリーパーと同じ格好で。

「これでオレたちは安全」

ニヤリと不敵に笑い、落ちていく人達を見下ろしていた。

手すりに掴まっていたおじさんは、手が段々と痛み、痺れてきた。

「わしも…もう限界」

諦めの言葉を呟き、限界だという事を再認識したからか、一気に手の力が抜け、ずると滑り海へと落下していってしまう。

しかしその時、糸のようなものがおじさんの身体を何重に巻き付けていった。

「なにっ!?」
「あのガキの…キャタピー!!」

逃げたように見えたキャタピーが、手すりの所から身を乗り出し、口から糸を吐いていた。

「糸が何重にも巻きついて…、まるで浮き輪のように!!」
「見ろ! さらに、その処理が間に合わなかった奴等が!」

見ると、そこには大量のここ周辺に住み着いている水ポケモン達が、客の下にいた。

その側にはジュゴンの上に立っている少女  ルナが勝ち誇った笑みでロケット団を見上げていた。

どうやらさっき落ちたと思ったのはわざとで、ジュゴンに載って乗客を助ける為に水ポケモンを呼んできたらしい。

「みなさーん!! 早く港のほうへ!!」
「エヴォ、港へ水ポケモン達を導いてあげて」

イエローが船から大声で呼び掛け、海にいるルナはシャワーズに話しかけた。

シャワーズは、力強くうなずき港の方へ水ポケモン達を導いていった。

「おのれ!!」
「…キャタピーがまゆをつくる糸は軽くてつややかなため、高級布に使われるというが…」

意外と物知りなんだな、とルナは下から眺めてのんびりと思った。

「…!? なにか足もとが冷たいような…」

思わず真から凍るような寒さに、身震いしてしまう。

恐る恐る下を見ると、足元がカチンコチンに凍っていた。

「ポーズを組んだ足が…凍りついてる!?」
「オ…オムナイトとジュゴンのれいとうビーム!?」

二つの方向から、ロケット団の足元とスリーパーの足元を凍らせていた。

離れているのにも関わらず、ぴったりのコンビネーションだった。

焦ったロケット団はスリーパーに攻撃を命じようとする。

「オ…オイ! スリーパー! はやく攻撃を!」
「バカ! スリーパーに攻撃させたらオレたちを浮かべるやつがいなくなるだろ」
「オ…オイ! 氷の重みでだんだん…」
「スリーパー!! がんばれっ!!」

ポケモンを応援するなんてほんとに変わったロケット団だとルナは変な物でも見る目で見ていた。

「乗客のみなさんは全員港へたどり着きました。もう船にはボクだけです。降参してください」

くいっと親指を自分に向ける。

「わー、イエローさん格好いいです!」

下でパチパチと拍手するルナの近くに、ロケット団が落っこちてきた。

水飛沫が跳ねて、ルナの頬をかすめた。

「くそう! アーボ! マタドガス!」
「!(しつこい人達ですね)」

恨めしそうにロケット団達を見つめるルナに気付いてか、ジュゴンがロケット団に向かっていこうとするが、ルナは優しく抑え込んだ。

「ダメだよ」

ジュゴンがびくりと身体を強張らせた。

ルナの強すぎる光を宿した瞳に、恐ろしさを感じたのだ。

「うわっ」

イエローがアーボとマタドガスの攻撃を避けた際に、船の外に投げ出されてしまった。

ルナはすぐさまイエローをキャッチしようとイエローの落下位置に移動した。

「わはは! おまえらも落ちろ!!」

と、その時一つの影が飛んできて、落ちかけたイエローを掴んだ。

「ナイス、ゴロすけ!」

ほ……、と安心したように息を吐いたルナ。

イエローとルナは同時にピカチュウに合図し、ピカチュウはそれぞれの肩に飛び乗った。

「よし、ピカ!」
「いくよ、チュカ!」

また同時に、ピカチュウ二匹がそれぞれの肩の上でうなずいた。

『でんきショーック=I』

二匹の電気ショック≠ェアーボとマタドガスに命中する。

ロケット団の一人が涙を流しながら嘆いた。

「うわあ! アーボとマタドガスが!」

ガリガリガリガリ。

ずっと鳴り響いている音。ロケット団が不思議そうに辺りを見渡す。

「? この音は…」
「おわ! あ、あれは…」
「ラッタ!? ま…まさか!」

頭上を見てみると、ラッタがガリガリと前歯で船を裂いていた。

一周してきたラッタが止まったと思ったら、メキメキと嫌な音をたてて船が三人組のもとへと落ちてきた。

『わあ   !』

一人は気絶し、一人は涙を浮かべ、一人は咄嗟に腕で頭を庇った。

しかし、目の前で落ちてきた船は止まった。

驚いていると、船の中からひょこと顔を出すイエロー。

「もう悪さはやめますか? でないとゴロすけがささえる手をゆるめますよ」
「それと、逃げようとなんかしたら、ゴンちゃんの角であなた方の心臓を突き刺しますよ」

前者はともかくとして、後者はにーっこりと笑って物騒な事を言うもので、ハイと素直に返事をするしか無かった。

その返事を聞いて、イエローとルナはにこっと可愛らしく笑った。

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