イエローは今頃どうしているだろうかと思い、昨日いた辺りに行ってみる。

その途中、グリーンの後ろ姿を発見する。

どうやらグリーンもイエローの様子を伺いに行くようだ。

「グリーンさん、おはようございますっ」
「お前のおはようは随分遅いんだな」
「あぅ」

現在時刻は昼頃だった。

またグリーンに皮肉っぽく言われ、何も言えなくなるルナ。

「ぐ、グリーンさんもイエローさんの様子を見に行くんですか?」
「……」
「……あ、あれ、無視、ですか?」

そんなやり取りをしている内に、イエローの姿が視界に入る。

グリーンの顔を見ていたルナは、グリーンの目が見開かれたのを見て、前を向く。

イエローはコラッタと共に、ボロボロの状態で大地を踏みしめるように立っていた。

荒い呼吸を繰り返している。

イエローがこちらに気付いたのか、視線をこちらに向けた。

「グリーンさん…、ルナさん……」

その緊迫したようなイエローの顔に、ルナは真剣にうなずいた。

「まだつかまえられませ〜ん」

その言葉にグリーンとルナがよろけた。

ルナは良いが、グリーンがよろけるなんて相当な事だろう。

「に、苦手なんです、捕まえるの」

それは苦手なんてレベルでは無い。

ルナはそう思いながらも、グリーンの口をポカンと開けて驚いている様子が面白くて、笑ってしまいそうだった。

「捕まえる前に傷つけなきゃならないでしょう? それがどうしてもできなくて…」

イエローの傷つけない戦法では、必然的にそうなるだろう。

「なんとかバトルせず捕まえられないか練習してたくらいで…。人やポケモンを助けなきゃと思ったときはいつも無我夢中だし…」

グリーンは、「1日かかってキャタピー1匹捕獲できないのか」という顔でアゼンとしている。

それはそうだろう。

グリーンの感覚で想像した今頃は、捕まえてトランセルにしているはずだった。

しかし実際は捕獲すら出来ていなかった。

これはいけないと思い、ルナはすぐさまフォローする。

「や……、あのイエローさん! 私も捕獲は苦手で……、今持ってるポケモンはほとんど家のポケモンだったり、自分から入ってくれたりなので、大丈夫だと」
「コイツの真似だけはするな」
「あぅ。それどういう意味ですか……」

なんだか少し御機嫌斜めに言うグリーンに、おずおずとイエローが声をかける。

「グリーンさん…、あの…」
「なにか技を出してみろ! そのコラッタ何が使えるんだ?」

そうグリーンが声を荒げて言うと、イエローは迷ったような焦ったように、コラッタを見る。

「ええと…、ええと…」
(なんで自分のポケモンなのにわからないんだっ!!)

グリーンは益々面白い顔になっていた。

ルナが優しく、コラッタが持ってると思われる技を教えた。

すると、グリーンが技のタイミングやボールの構える瞬間をイエローに教えた。

そんな事をしている内に、辺りは蜂蜜色になったと思えば、もう星空が綺麗な夜になっていた。

ようやくその頃にボールにはキャタピーが入っていた。

「はぁ…はぁ…や…やった! アハハ」

ニッコリと笑いながら地べたに膝をつけた。

その様子を見て、グリーンはふと疑問に思った事を投げ掛けた。

「レッドから預かっているピカチュウはともかくとして、コラッタとドードーを捕まえたときはどうしたんだ?」
「ラッちゃんのときは、今グリーンさんにしていただいたみたいに…、横でタイミングを教えてくれる人がいましたから。ドドすけはほかの人にもらいました」

なんだかその言葉を聞いて、サンドをレッドと捕まえた時の事が頭によぎった。

「そしてこの3匹だけで旅してきたのか…」

チラリと、ドードー、ピカチュウ、コラッタを見るグリーンの顔は呆れていた。

その時、ルナは何かを感じ取ったようにコラッタを見た。

するとコラッタがぶるぶるとバイブのように震えだした。

「!? グ…グリーンさん、ルナさん大変です! ラ、ラッちゃんが…」

突然の友達の様子の変化に戸惑うイエロー。

ルナは安心させるようにイエローの肩に手を置いた。

「大丈夫です、病気じゃあ無いですから」
「レッドの図鑑を持っているんだろう。開けてみろ」

慌てて図鑑を見るイエロー。

「『進化』の瞬間がきたってことだ」

さも当然のように言うグリーンの言葉に、イエローは頭にハテナを幾つも浮かべる。

「最近急に戦わせるようになったことで一気に力量があがったんだろう」

ルナはイエローの手の図鑑を覗き込むと、「…おや!? ラッちゃんのようすが……!」という表示が出ている。

最近ルナも、その機能がある事を知った訳だが。

「『進化』すれば覚えられる技も増えて戦いも有利になる」
「進化して出来る事も増えますからね。空を飛べるようになったり海を渡れるようになったり」

そう言って、グリーンはリザードンを、ルナはシャワーズを見た。

『進化』する事を拒んでいたシャワーズだが、進化してから前よりも明るくなった気がした。

それが嬉しくて、シャワーズに頬擦りすると、照れたように目を逸らした。

「あのう、…『進化』って…なんですか!?」
!!

腕を組んだままイエローを凝視するグリーン。

これには笑うな、という方が無理な位、ナイスな反応なグリーンだった。

そんな時、コラッタが煙を出し始めた。

イエローはコラッタに手を伸ばすと、衝撃を受けたような顔になる。

目の前のコラッタは、もうコラッタでは無く、ラッタになっていた。

「ラッちゃんが!! ボクの…、ラッちゃんが!!」

イエローがうつむいて震え始めた。

もはやおそるおそるとイエローを覗き込むグリーン。

かと思えば、声をあげて大泣きし始めた。

びくっと身を引くグリーンがただ面白くて、イエローが泣いた事よりそっちの方に意識が傾いてしまった。

(なんて奴だ!「進化」を知らない! 自分のポケモンが「進化」したら泣きわめく! こんなトレーナー、見たことも聞いた事もない! ルナ以上だ!)
「今、失礼な事考えませんでした!?」

八重歯を出して口をぱくぱくとして、今にも心の声が聞こえてきそうなグリーンの顔に、ルナは素早く反応した。

すっかり静かになったイエローを見ると、地面で眠ってしまっていた。

「泣きつかれて…ねむったのか」
「みたい、ですね」
「やれやれ。なんて奴だ」

ルナはイエローを抱き抱えて、クッションの上に寝せ、布団を被せる。

イエローは信じられない位、軽かった。

「私、イエローと話してみます」

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