グリーンの胸の中から開放されたルナは、混乱したまま自分の特訓しようと思った場所へと向かった。

「え、えと、コホン。……じゃあ、改めて特訓始めよっか」

ルナのポケモン達はやる気満々で、それぞれ返事をした。

そのポケモン達の反応に、自分もまた、やる気が上がったルナはグリーンの特訓を参考にさせてもらう事にした。

「うーん、ウチの子達はストライクみたいに切り裂け≠骼qいないからなー……」

指を唇に当てて、考え込む。

しばらくすると、ピコーンと頭の上に豆電球が点いた音がした。

「切り裂け≠ネいんだったら、そのまま敵に突進する形をとろう!」

そう言いながら敵役としてラッキーを置いた。

上からサンドパンが岩を用意し、ジュゴンがそれを自らの尾で弾いて岩を落とし、それにキュウコンが火をつける。

その発火した落石を、シャワーズが吐き出した水で岩に点いた火を消し、ピカチュウが岩を壊してそのまま敵役であるラッキーに突っ込んでいく。

ルナはその特訓内容をポケモン達に伝えた。

やる気に満ちた瞳で自分の配置へと着いていったポケモン達を見て、自信が出てきたルナはこのメンバーでならなんでも出来る気がした。


  が、

「サン、岩が小さすぎて火の比率が高いよ! ゴンちゃん、岩を落とす場所がずれてる! ロコ、炎が岩全体を覆ってない! エヴォ、炎は消えてるけどチュカにかかってる! チュカ、技がちょっと遅い! ハピ、暇だからって卵型の砂山作らないで〜〜〜〜!」

一気に言った為、苦しそうに肩が上下する位に荒い息を出し入れしている。

グリーンがいつの間にか、哀れんだ目で見ていた。

「……特訓方法は悪く無いが、一匹一匹のレベルの差とコンビネーションが、な」
「あうぅぅ」

確かに、グリーンが言った通り、一匹一匹のレベルの差は結構なものだった。

ピカチュウは62レベルだが、サンドパンは32レベルだった。

それくらいのレベルの違いがあったら、一匹一匹のテンポの違いが出てくるのかもしれない。

「まずは個々のレベルアップを目指します……」
「……あぁ、そうしろ」

凄く恥ずかしくなり、涙目でうつむいて言うと、グリーンの口から溜め息がこぼれた。

「……頑張れ」

応援されたというよりは、同情された気がして、ルナは一層涙目になった。


◆ ◆ ◆



夜がどっぷりと更けた時、ルナはグリーンと食事の場を共にしていた。

とは言え、その食事は温めるだけのインスタント食品な訳だが。

勿論、インスタント食品を食べる事は栄養に悪いと大いに反対したルナだったが、時間が勿体無いだとか、そもそも材料が無いだとか言われて渋々インスタントになったのだった。

グリーンのゴルダックとピジョット、ルナのピカチュウとシャワーズが眠たそうにうつらうつらとしている。

それを見ているルナも、だんだん目蓋が重くなってきた。

「…朝のあの時間に捕獲して、今日1日力量上げに集中したとして…。早ければもうトランセルになっている頃だな。キャタピーの成長はとにかく速い」

一瞬、何の話なのかわからなかったが、イエローの事だと理解すると同時に、あぁ、とうなずいた。

「もともと虫ポケモンは成長するのが、特に秀でて良いですもんね……」
「……お前の力量上げは進んでいるのか」
「ふぇ? あー……そうですね、30レベルからは大分」

眠そうな目をしながら口元はほんにゃり笑っていた。

自分のポケモンが成長したのだ。素直に嬉しいのだろう。

「そうか、良かったな」

眠たくて視界がボヤけているが、グリーンが優しく微笑んだのはわかった。

「……グリーン」
「……なんだ」
「グリーンがいてくれて……良かったと思う。素直に、そう、思えたの」
「……そうか」
「お……父、さん……」

とうとう目を閉じて眠りについてしまったルナは、グリーンの肩に寄りかかっていた。

グリーンは邪魔がる事も無く、ルナのさらさらな向日葵のような色の髪を撫でた。

「……お父さん止まりなのか」

そうポソリと呟くと、深い溜め息を吐いた。

おもむろに立ち上がると、ルナの膝裏と胸近くを持った。

世間一般的に言う、お姫様抱っこというやつだ。

そのまま昨日と同じく、大きめのクッションをしいて布団を被せた。

ただし自分のすぐ近くに。

今日もきっと、昨日のようにぐっすり眠っているだろう。

そんな時に敵や野生のポケモンに襲われたら危ないだろうというグリーンの配慮だった。

「……こんな娘はいらん」


◆ ◆ ◆



結局、ルナはグリーンが想像した通り、ぐっすり、それはもうぐっすりと眠ってしまった。

「うぅ。寝過ごしちゃった……。グリーンさんも起こしてくれればいいのに……」

流石はうら若き乙女。クシで向日葵のような艶やかな髪をすいて、髪を結い直した。

真っ白なリボンを結んでニッコリと向日葵のような笑顔を浮かべた。

それがルナのいつもの一日の始まりだった。


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