「う〜ん………はれ?」

いつの間にか、リザードンの背中の上では無く、背の高い岩が沢山ある地で寝転がっていた。

用意していた伸縮自在の布団がかけてあり、同じく用意していた大きめのクッションが敷いてあった。

横にはイエローがいた。一緒にクッションの上で布団を被っていた。

確か、リザードンの上でグリーンがイエローの為に昔話をしていたんだと記憶していた。

『イエローとか言ったな。レッドを助けるために、四天王と戦うというのなら、話してやろう。オレと四天王との戦いの事を。奴がトキワの森でサカキに挑んでいたその頃、オレも、セキエイ高原にむかうべくカントー東の近海を移動していた。図鑑完成を目指す旅の中で出会った、最も手強い敵。2年前のことだ』

と、いうところまでは覚えているが。

「う〜ん?」

その先がどうしても思い出せなかった。

「……ま、いっか」

哀れや、グリーン。

ルナは全く悪びれる事も無く、腕や足を伸ばしていた。

朝日が横から射している時にはイエローも起き上がっていた。

「ふああ…ああ。おはよう! ピカ!」
「おはようございます、イエローさん」
「う、うわあ! お、おはようございます、ルナさん」

えへへ、と恥ずかしがりながら頭(というか麦わら帽子)を掻きながら笑った。

その様子がなんとも可愛らしくて、なんだか和んでしまった。

「ボクは…グリーンさんについてこの場所に来たんでしたね。グリーンさんとルナさんにきたえていただくために…」
「はい。まぁ、そんな感じですね」

鍛える、と言っても直接何をやれという事は、ルナは勿論グリーンも言わないとは思うが。

「グリーンさんはどこだろう」

二人と二匹のピカチュウはトコトコと歩き始めた。

周りには本当に岩しか無く、ルナは驚いたように見渡す。

『修行の場』という感じがひしひしと感じる。

「ゆうべは確かあのあたりで眠っていたはずなんですけど」
「そうなんですか?」
「はい。……昨日は熟睡されてましたもんね」
「お、お陰様で……」

イエローとルナ、レッドのピカチュウとルナのピカチュウはヒョコ、と岩影から顔を出した。

確かにグリーンはそこに立っていた。

目を伏せて、何かをこれから感じとるかのように、心を落ち着かせて。

何をしてるんだろう、という顔をするイエローに、ルナは耳元でささやく。

「イエローさん、よく見てて下さいね」
「? は、はい……」

何のことかわからず、イエローは頭にクエスチョンマークを浮かべながら、小さくうなずく。

その時、崖の上から岩が転がり落ちてくる。

「ら…落石!!」

落石がグリーンの真上に高速で落ちてくる。

イエローは驚いているが、ルナは静かな顔で口元だけが弧を描いていた。

ルナのバトルモードの顔つきだった。

そして、落石は何の前触れも無く、全体を覆う炎に包まれた。

「しかも発火した!? あぶない! グリーンさん」

今にも飛び出して行きそうなイエローの肩の上に、ルナは手を置く。

不思議そうに振り返るイエローに、首を横に振った。

そんなこんなしていると、発火した落石はグリーンのすぐ上にまで到達していた。

グリーンは素早くボールを懐から出した。

すると、落石はサイコロステーキのようにバラバラにされた。

目にも見えないスピードで、ストライクが切り裂いた≠フだ。

サイコロステーキのようにバラバラにされた岩は、グリーンの側にいくつも転がった。

高い岩の影にはリザードンがいた。

グリーンはそちらに顔を向けた。

「もう1発だ、リザードン!」

リザードンはやる気に満ちた顔でうなずいた。

「…と…特訓…だったのか!! す、すごい」

イエローはグリーンの特訓のレベルの高さに、思わず力が抜けたように尻餅をついた。

ルナがイエローに何かを言おうと顔を見上げた時には、イエローはグリーンに向かって叫んでいた。

「グリーンさあーん!! ボクにも特訓を教えてくだ…、あれ…?」
「リザードン!」

一瞬目線をイエローにやっただけで、後は無視をするように修行を続けた。

「自分で盗めってことなのかな」
「そう言う事です!」

可愛らしくウインクをして、また自分も修行をしようと岩を飛び越えて、ポケモン達をボールから出した。

その時、イエローの後ろの草むらがガサガササとうごめく。

イエローは突然の事に、肩を震わせて驚く。

草むらからは緑が特徴的の芋虫ポケモンのキャタピーが出てきた。

「ああっ!! おまえはタマムシシティの!! どうしてこんなところまで!?」

ビクリとルナの身体が強張る。

(あのキャタピーは…、自分を助けたイエローを追ってこんな遠くまできたのか!)

グリーンはしばらく無言でイエローを見つめた後、イエローに言葉をかけた。

「そいつをポケモンバトルで捕獲してみろ。捕獲したら力量を上げ、育てておけ」

それだけ言うとグリーンはイエローから背を向けた。

イエローは笑ってうなずいた。

「ハイ!」

そしてボールの中のコラッタを出してキャタピーへ駆け出した。

「よし!! いくぞラッちゃん!」
(あのキャタピー、イエローを相当慕っているようす。手もちに加えて最終形まで育てれば役に立つだろう)

そう心の中で思いながら、視界の端でもぞもぞ動いているものを無視する。

空をあおぐ。

「(イエローにどの程度トレーナーとしての実力があるのか。まずはその育成ぶりで見せてもらうとするか)……って」

とうとう我慢できなくなり、グリーンは自分のマントを思いっきり掴んでいるルナに怒鳴る。

「痛い! 離せ!   っ!!」

振りほどこうとした時、ルナの身体の震えと、目にうっすら浮かぶ涙に、ピタッと止まった。

そういえばルナは虫ポケモンが苦手なんだと、思い出す。

しかし考えてみれば、ここまで怖がるなんておかしい。

ルナはお化けも苦手だが、ゴーストタイプは別だ。

ゴーストタイプに驚かされるのは苦手だが、ゴーストタイプ自体は苦手じゃない。むしろ楽しそうに戯れていた。

グリーンは恐怖で強張るルナの顔を除き見る。

だいたい、普通のミニスカート辺りのトレーナーは「気持ち悪い」だとか「ぶにぶにしてるー」だとかの理由で嫌いだが、その点ルナはどうだ。

震えた唇からは、か細く「恐い」という言葉が飛び出してきた。

普通、虫ポケモンに「恐い」だなんて言うだろうか  

まさか  !?

グリーンは普段細い緑の瞳を、目一杯見開かせた。

おそらく当たっているであろう、行き着いた推測に、思わずグリーンはルナを抱き締めていた。

  ぇ……?」

その予想外のグリーンの行動に、目をパチクリとさせるルナ。

どうしたんだと聞いても、何も答えてはくれなかった。



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