リザードンで下に降りると、華麗に飛び降りるルナとグリーン。 「ありがとうグリーン、ルナ、助かったわ。でも、どうしてここへ?」 しばらく黙っていたグリーンが口を開けた。 「今、『りかけいのおとこ』の背後にいる奴の話をしていたようだが」 グリーンは目を伏せたまま、話す。 一度グリーンの会ったことがある老女を思い浮かべながら。 「それはおそらく霊使いの四天王、キクコだ」 麦わら帽子の少年はピク、と反応した。 「四天王って、ジムリーダーをもしのぐという4人の実力者? でもグリーン、なぜそんなことを…」 「今のゴースの攻撃パターンが同じだったのさ。以前、戦った奴の攻撃とな!」 恨みがこもった目をして、奥歯を噛み締めた。 そのグリーンの話を聞いたタケシとカツラが驚いたように身を乗り出す。 「まさか!」 「戦ったのか!? 四天王のひとりと!」 その問いに、グリーンは「ああ」と答えた。 「偶然だったが。…無人発電所でのことだ。レッド失踪のいきさつは、おじいちゃんからの書簡で知った。その時点では敵の正体は謎だったが…」 ルナは先程ビルの上からゴースの姿を見た時に「あいつは……!」と何かを確信するような目付きになったのを思い出す。 「さっきのゴースで確信したぜ。四天王…。しかもキクコはオレのおじいちゃんにうらみがあるらしい」 オーキド博士の書簡を持ちながら、目を吊り上げて言った。 だからグリーンはその戦い以来、オーキドとの連絡にパソコン通信を使うのをやめた、と説明した。 盗聴防止のためだとも。 その口調は、四天王は普通に盗聴をしてくる可能性がある、という事だろう。 正義のジムリーダーぷらす麦わら帽子の少年は冷や汗をかき、唾を飲んだ。 四天王の事を全く知らないわけじゃないルナも冷や汗をかいた。 「すべての四天王の差し金と思えば実力的には合点がいくが…。しかし、一体何のために?」 「レッドの挑戦状と失踪。そして、レッドのにおいを利用してピカを狙ったこと」 「さらに私たちがつかんだレッドへの手がかりの口封じ……」 正義のジムリーダーが口々に謎な点を口に出して首をひねった。 謎すぎる四天王の行動に、頭が痛くなってきそうだった。 「言っておくが四天王は手加減ということを知らない」 グリーンは麦わら帽子の少年の方に軽く顔を向ける。 「ポケモンを守るのもいいが余計な優しさをもって敵につけいられたのでは元も子もない。さっきのゴースも…あの釣り竿のちゃちゃがなければ最初の熱風圧で核ごとふきとばせていたはず」 ずっとビルの上で見ていた。 麦わら帽子の少年の行動を観察していて、思った事を手加減なしに述べるグリーン。 「優しさと甘さは違うことを知ったほうがいい」 少年の表情は、スッと真面目になっていた。 カスミはグリーンの容赦ない言い方に少年の横に来て、申し立てる。 「ちょ…ちょっとグリーン! ポケモンを守ったこの子の攻撃が間違っているっていうの!?」 その時、カスミの目の前に真っ白な服に身を包んだ腕が出される。 「ルナ……!?」 ルナは首を振った。 グリーンの言った事の方が正論だし、確かに優しすぎる少年は戦いには不利だ。 それに、グリーンは言い方は悪いが、それもグリーンの優しさなのだ。 麦わら帽子の少年はグリーンを見据えた。 グリーンも黙って麦わら帽子の少年を見据えた。 「そいつを責めるつもりはない。だが、あいつなら…」 ルナは反射的に唾を飲んでしまう。 「レッドなら、あの状況でもキャタピーを助け、敵も討つ方法をひねり出すはずだぜ」 それはルナも考えていた。 つい、レッドならどうするかな、という事を考えてしまう。 きっと身近にレッドがいすぎたんだと思った。 レッドの事を、考えずにはいられなくなっている 「奴を助けに行くのなら、それくらいのレベルが必要だということだ。四天王に対抗するならせいぜい自分を鍛えるんだな」 そう言って、またマントをひるがえしてリザードンに飛び乗った。 ルナも慌てて飛び乗った。 いざ行かんとした時、今まで口を開かなかった麦わら帽子の少年がそれを止めた。 「待ってください! ボクも連れていって下さい!」 少年は手を自分の胸に当てて、冷や汗を流しながら言った。 「レッドさんを助けるために……。ボクはもっと強くなりたいんです!」 なんだかルナの胸までドキドキとしてくる。 ルナは控えめにグリーンの様子を伺った。 「……好きにしろ」 「ハイ!」 「ルナもいいよな、それで」 「勿論!!」 嬉しそうに向日葵のような笑顔を浮かべて大きくうなずいた。 『イエロー!』 「オレのゴローンだ、つれてっていいぞ」 「これはあたしのオムナイト。持ちポケ3匹で旅をするより心強いはずよ」 そう言って、タケシとカスミが麦わら帽子の少年 イエローは嬉しそうにそれを受け取った。 「……! ありがとうございます、カスミさん、タケシさん」 「良かったですね、えと、イエローさん」 「は、はい!」 ルナが話しかけると、イエローはなんだか緊張したような面持ちになる。 そんなイエローの様子に、ルナは首をかしげると、イエローは「やっぱり覚えてないか……」と呟いた。 「何か言いました、イエローさん?」 「いっ、いえ!」 「私はあげられるようなポケモンがいないんですが、……これを」 ルナはカバンからミサンガを取り出した。 「女々しくてアレなんですけど……、ミサンガは切れると願いが叶うと言われているんです」 「願いが……?」 「はい。……一緒にレッドを探し出すという願いを叶えましょう!」 向日葵のように笑いながら自分の手につけてある色違いのミサンガを見せた。 たちまちイエローはパアッと満面の笑顔になってうなずいた。 「はい!」 「………早く乗れ」 『す、すみません……』 二人は似たような表情、似たような仕草で謝る。 グリーンは、この似た者ほのぼの天然敬語コンビといなければならないと思うと、溜め息が出てきた。 そんな事をグリーンが思っているとは露知らず、ルナはレッドのピカチュウと嬉しそうに再会していた。 そして、仲良くルナとイエローがお喋りしながら、リザードンは飛び立った。 影で見ているキャタピーに気付かずに。 願いは必ず叶うと (ミサンガに思いを込めて) 20121216 ←|→ [ back ] ×
|