ルナが起きた時には、空は蜂蜜色に染まっていた。

あぁ、綺麗だな〜。なんてのんびり頭で考えて、

「じゃない! もう夕方じゃないですか!!」
「その通りだ。おそよう」
「あぅ」

ガバッと起きると、目の前のグリーンが皮肉っぽく言われ、何も言えなくなる。

それでも五、六時間しか眠っていない、と思ってみる。

少し落ち込んで、顔をうつむかせた時、自分の身体をまとうマントに気付く。

眠ってしまった自分に、風邪を引かないようにと配慮してくれたのだろう。

思わず口元が緩んでしまう。

「……なんだ」
「へへ。何でもないですよー!」

全くこちらを向かないが、照れたように赤くなる顔をルナは見逃さなかった。

ルナはグリーンのマントを包みこませるように、引っ張った。

「そういえば、さっき言いかけた事って何ですか?」
「あぁ……。実は、おじいちゃんからの書簡に、レッド失踪のいきさつと一人の少年の事が書いてあった」
「一人の……少年?」

心当たりが無い。まさかリュウでは無いだろうし。

「麦わら帽子で、レッドのピカチュウが心を許し、そしてひとつの傷も負わせない戦いをする少年」
「レッドのピカが……!?」

レッドのピカチュウは、今ではレッドにもルナにもなついているが、なかなかなつかない悪戯ピカチュウだ。

その証拠に、今でさえオーキド博士やマサキに電撃を食らわせる始末だ。

「それと、そいつがボロボロのピカチュウに触れた途端に、傷が消えたように見えたと書いてあった」
「!」

その言葉に、ルナの目が見開かれる。

「私……その能力を、知ってます」
「何!?」

勘違いでも、見間違いでも、聞き間違いでも無ければ知っている。その彼の能力を。

ルナは記憶を慎重に辿っていき、その能力の情報を思い出していく。

「トキワの人間が使えるという、トキワの能力=I」

ルナの母も使う事が出来た。

優しい、向日葵のような笑顔で、

『トキワの能力≠ヘ癒しの能力なのよ』

と誇ったような口調で言っていた。

「トキワのちから……」
「トキワの森。マサラと同じく意味があります。トキワとは緑、永遠の色といわれています。大きくて豊かな森だからです」

マサラの白、トキワの緑。

汚れなき色、永遠の色。

ルナはそのどちらの色にも相当すると、両親が言っていた。

だからこそ、緑と白の服をリナが着せてくれた事も知っている。

「その森のもつ不思議な力を受け継いだ子供が、トキワでは何年かに一度生まれるんだそうです。……母もその能力の持ち主でした」
「おまえは使えないのか?」
「どうでしょう……、その能力は血で受け継いだりするものでは無いと思うんですが……」

ルナは首をかしげた。

確かに使えたら魅力的かもしれない。

「使えたら良いですけどねー。使い方がわからないので、なんとも」
「そうか」

少し考える素振りをした後、グリーンは素っ気なく答えた。

辺りはもう日が沈みかけ、暗くなっていた。

もう少しでタマムシに着きそうな所だった。

「……もしかしたら使う時が」

そんなルナの呟きを、グリーンは確かに耳で聞き取っていた。


◆ ◆ ◆



グリーンがオーキドから知らされた麦わら帽子の少年は、今、目を覚ましていた。

レッドの格好を偽っていた「りかけいのおとこ」を、何者かが連れ去ろうとしている。

少年の周りには、カスミ、タケシ、エリカ、カツラの正義のジムリーダーがいた。

レッドの手がかりになるかもしれない、りかけいのおとこを連れ去らわせないように、正義のジムリーダー達で食い止めようとする。

連れ去ろうとしている霧の正体はゴースだという事がわかった。

ポケモンだとわかったカツラは、ガーディの熱風圧で吹き飛ばそうと試みた。

危うく木のカゲの野生ポケモンにガーディの技が巻き込まれる所だったが、麦わら帽子の少年がなんとか阻止した。

一度は安堵し、正義のジムリーダー達はこれからどうするかを話し合っていたが、りかけいのおとこがゴースに操られて再び襲ってきた。

「なにぃ! 吹き飛ばしたはずのゴースが『りかけいのおとこ』に! 再び襲って来る!!」
「だめだ! まにあわな…」

正義のジムリーダーさえも諦めた、その時だった。

「相手は霧状のポケモンだ! 核を撃て!」

そんな声が聞こえたと思えば、ゴースの核に技が撃ち込まれる。

そのおかげで、ゴースは簡単に戦闘不能状態になった。

タケシが声の方に向かって叫んだ。

「誰だ!」
「霧はふきとばしたり引き裂いたりするよりも…。全体を統率している核を撃ち抜く。そうすれば復活を阻止できる」
「長期戦にもなりにくいですしね」

そこには、マントをなびかせたグリーンと、首の赤いスカーフをなびかせたルナがリザードンと共に、ビルの上に立っていた。

『グリーン! ルナ!』


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